style
Where the runway meets the street

ブランド:Moncler(モンクレール)

2021年2月、ファッション業界のサプライチェーンを壊滅状態へと陥れたコロナ禍真っ只中に自らの名を冠したブランドをローンチしたディンユー・チャン(Dingyun Zhang)。手がけるのがシンプルなパーカーやスウェットパンツであればまだ良かったかもしれないところ、セントラル・セント・マーチンズ卒業の彼が特化しているのは、カジュアルアパレルの中でも特に需要の高い媒体だ。

チャンのスタイルと言えば、ときには人間を丸ごと飲み込んでしまうほどに大ぶりなパッファージャケットにコート、ベスト、パンツだ。CSM在学中からカニエ・ウェスト(Kanye West)のYEEZYシーズンコレクションで研鑽を積んできたチャン。YEEZY GAPラウンドジャケットなどにもそのスタイルが濃厚に見てとれる。

またチャンが好むゆったりとしたカットにはYeの影響が感じられる。幅広い文化から受けた影響がチャンのデザインには浸透している。

「パッファーやクッション素材のシルエットはヒップホップのスタイルや文化への愛情表現でもある」とチャンはHighsnobietyに語った。「そこに、クリストとジャンヌ=クロードみたいなアーティストから受けた影響を抽象的に表現している」

「極限の気候条件下に暮らす民族についても自分なりによく調べるんだ。民族衣装や民族独特の生活様式は厳しい気候に影響されてできている。食べるもの、着るものも周囲の環境に密接に関係している」

Monclerウェブサイトと各店舗でローンチしたチャンの手がけた2022年春夏Moncler Geniusコラボレーションも、こうした環境的要素が着想源となっている。

これまでのBirkenstockやAreaとのクロスオーバーを経て実現した今回のMonclerとのコラボレーションは、若手デザイナーのチャンがこれまでで最も本格的に取り組んだパートナーシップだ。Monclerのネイティブ言語である山、深海生物、さらには水中のビニールプールの歪んだフォルムといったインスピレーションを投じた、極めてコンセプチュアルなクリエイションとなっている。

こうしたインスピレーションを翻案、結集して作られた膨らみのあるレイヤリングピースは、身体の上に珊瑚のぬいぐるみを重ね着するような仕上がりを生み出している。「自分の洋服作りのアイデアとMoncler伝統のディテールを、ぶつけ合いながらも調和させたいと思った」とチャン。

誇張したデザインが特徴のマスクや、パッファーの上半身アウターに合わせて下半身に合わせるレギンス、バイクショートも作られている。そのオーガニックな色合が、大きく誇張されたフォルムをまた異様に際立たせる。

「Monclerが長年シグネチャーにしてきた素材、トリミング、パッチ、そういう基礎に触れて、さらに自分なりに使わせてもらうことができた。コロナの最中でもコラボレーションを諦めることなく、Moncler側からフォルムやディテール検討に必要な材料を全部自分のところまで送ってもらえた。過去なしには現在も未来もないという事実を認識して、Monclerの伝統とヘリテージを自分の言語に翻訳する機会になった」とチャン。

そうして形作られた革新的なシルエットが、Geniusプログラムを最高のものにしたいMonclerの意向と共鳴したまさにジーニアスなコレクションだ。そうしたオープンマインドさが功を奏して、イタリア企業であるMonclerはトレンドランキングの順位を上げている。

Monclerの支えを受け、チャンは必要なだけの時間を投じ、隠しジッパーポケットや中国式の結び目ボタンなどのディテールまでを作り込み、構造面での懸念要素にも対応している。

「深海生物のモチーフや穴空きのデザインでストーリーを描きつつ人間のフォルムを抽象的に表現しながら、要所要所に通気性も確保している。それから接着技術を使ってジャケットにガターを入れて、雨水が伝って落ちやすいようにした」とチャンは説明する。

チャンの創造性が存分に発揮された今回のコレクションには、チャンの独立したデザイナーとしての伸びが見える。わずか1年前にブランドを立ち上げたところからの目覚ましい成長だ。

「卒業後自分の会社を立ち上げる中でいろいろあった。生産がコロナで大打撃を受けて、デザインが思うようにできなくなった。生産がうまく回らないとリアルなクリエーションにはならないからね」とチャン。

その意味で、今回のGeniusのコラボレーションは単なる冠イベント程度のものではなく、正規の創造的恵みをもたらしている:「Monclerと仕事ができて、需要や反響は大きくとも具現化はできていなかった自分のコレクションが日の目を見た」

「自分のヴィジョンの入ったものを現実にリリースできる機会に恵まれたこと、そこに参加させてもらえたことをありがたいと感じた」

チャンが膨大なデマンドを感じる、と言うのは、10万人を超える彼のInstagramのフォロワーがその冒険的なクリエーションを慕い、さらなるプロダクトのリリースをしきりに求めているためだ。

そんな中、コロナ禍で生産が打撃を受け暗いトンネルに突入してしまったチャンに、向こうから光を照らす存在となったのがMonclerだった。

「Monclerは自分のクリエイションに必要なリソースや仕組みを全部持っている。限度を感じることなく、デザインと製作のバランスが取れた形で進めることができた」とチャン。

「自分のデザインしたものに共鳴してもらえてうれしく思っているし、自分のデザインしたものに触発されてアート作品も作ってくれている人もいる。若い3Dや2Dのアーティストがよくうちのコレクションを参照したコーディネート写真にタグ付けをして投稿してくれるんだ。ソーシャルメディアでそういうふうにつながれたことで、自分の主張を本当に分かってくれている人がいることを知ることができたし、それがこの先への原動力になってる」

入念に完成されたチャンのパッファーは伝説級になりつつあるが、彼が自身のディンユー・チャンというブランドでアウターウェア以外に注力するする可能性はあるのだろうか?

「Tシャツやパーカーのシグネチャーカットを作ったり、何シーズンも登場させ続けられるようなパンツのディテールを考えたりするのはとても大事なことだと思う」とチャン。「アウターのインスピレーションになっているものと同じ機能性、身体との関係性を思わせるようなベースピースの基礎を今ちょうど作っているところなんだ。フットウェアにもアプローチして、今できているシルエットにもっとレイヤーを増していきたい」

定番アイテムを毎回作っていくということだが、地球最高に暖かい洋服を春夏コレクションで出すというのはどうなのだろうか?

「パッファーのカットをいろいろ変えて、一部のものはオールシーズン向きになるように考えている。天候の変わりやすい都市だと、うちのパッファーベストみたいなオールシーズンのパッファーを、年間を通して持っておくこともあり得るはず」というのがチャンの説明だ。

お聞きいただけたろうか。パッファーは永遠というわけだ。

〈インタビュー全文〉

——起業から間もなくの大企業Monclerとのパートナーシップでしたが、困難はありましたか?

卒業後自分の会社を立ち上げる中でいろいろあった。生産がコロナで大打撃を受けて、デザインが思うようにできなくなった。生産がうまく回らないとリアルなクリエーションにはならないからね。でもMonclerと仕事ができて、需要や反響は大きくとも具現化はできていなかった自分のコレクションが日の目を見た。自分のビジョンの入ったものを現実にリリースできる機会に恵まれたこと、そこに参加させてもらえたことをありがたいと感じた。消費者の方々に自分のストーリーの一片に手を触れてもらえる、それと一緒に生きてもらえる機会に恵まれたことをね。MONCLERは自分のクリエーションに必要なリソースや仕組みを全部持っている。自分のデザインとそれを具現化する製作工程との間に隔たりが生まれることなく、作りたいものを存分に作ることができた。

——YEEZYのコレクション以来、パッファージャケットが代名詞になっていますね。パッファーや膨らみのある洋服という媒体のどのようなところに魅力を感じますか?

パッファーやクッション素材の入った洋服は、洋服の可能性に対する自分の考えに影響を与えているアートやライフスタイルの融合。極限の気候条件下に暮らす民族について自分なりによく調べるんだ。民族衣装や民族独特の生活様式は厳しい気候に影響されてできている。食べるもの、着るものも周囲の環境に密接に関係している。あと自分はヒップホップのスタイルや文化も大好きだから、パッファーやクッション素材のシルエットはその表現でもある。そこに、クリストとジャンヌ=クロードみたいに、個人的に影響を受けてきた色々なアーティストに由来する言語で人間のフォルムを抽象的に表現したのが、パッファーとかクッションなんだ。

——パッファーは着るシーズンが「制限」されますが、それによってクリエイティブプロセスが影響されることはありませんか?防寒着は寒い季節にしか着ないものですがその点はいかがでしょうか?

パッファーのカットをいろいろ変えて、一部のものはオールシーズン向きになるように考えている。天候の変わりやすい都市だと、うちのパッファーベストみたいなオールシーズンのパッファーを、年間を通して持っておくこともあり得るはず。深海生物のモチーフや穴空きのデザインでストーリーを描きつつ人間のフォルムを抽象的に表現しながら、所々に通気性も確保しているから。

——少し重なりますが今回のコレクションはアウターウェアにフォーカスした内容ですね。それについてはどのように感じますか?今後ベースレイヤー、パンツ、アクセサリーへの展開予定はありますか?

Tシャツやパーカーのシグネチャーカットを作ったり、何シーズンも登場させ続けられるようなパンツのディテールを考えたりするのはとても大事なことだと思う。アウターのインスピレーションになっているものと同じ機能性、身体との関係性を思わせるようなベースピースの基礎を今ちょうど作っているところなんだ。フットウェアにもアプローチして、今あるシルエットにもっとレイヤーを増していきたい。

——ご自身のお仕事に対してのソーシャルメディア上の強い反響についてはどのように感じますか?大きな反響があることでその後のデザインに何か影響はありますか?

自分のデザインしたものに共鳴してもらえてうれしく思っているし、自分のデザインしたものに触発されてアート作品も作ってくれている人もいる。若い3Dや2Dのアーティストがよくうちのコレクションを参照したコーディネート写真にタグ付けをして投稿してくれるんだ。ソーシャルメディアでそういうふうにつながれたことで、自分の主張を本当に分かってくれている人がいることを知ることができたし、それがこの先への原動力になっている。アントニー・ツディスコからは3D映像作品のビジョンを語ってもらえて、自分のブランドをそんなかたちで見せることを考えるきっかけになった。自分と他のアーティスト、自分のストーリーに共感してくれるファンとの間で、そういう関係性が築かれ続けている。

——リリースや実際のプロダクトそのものからすぐにはわからない、コレクションのデザインの裏話などを教えてください。

今回のMonclerとのコレクションは、過去なしには現在も未来もないという事実を認識して、MONCLERの伝統とヘリテージを自分の言語に翻訳するチャンスだった。Monclerが長年シグネチャーにしてきた素材、トリミング、パッチ、そういう基礎に触れて、さらに自分なりに使わせてもらうことができた。コロナの最中でもコラボレーションを諦めることなく、Moncler側からフォルムやディテール検討に必要な材料を全部自分のところまで送ってもらえた。ジャケットに自分の接着技術を使ってガターを入れて、雨水が伝って落ちやすいようにするみたいに、自分なりの構築アイディアをMoncler伝統のディテールにぶつけつつも融合させることを目指したんだ。