BAGGAGE COFFEE / PORT TOMIGAYA
心地いいサードプレイス:フットボールと社会をつなぐカフェオーナー竹内隆平
フットボールに夢中だった少年が、大人になったら。千駄ヶ谷のフットボールショップ、4BFCに集まるコミュニティメンバーでもある竹内隆平さんは、自身のフットボールというアイデンティティを強みに進化を続けている。プレイヤーから敏腕ファッションバイヤー、そしてカフェオーナーへ。現在原宿のBAGGAGE COFFEE、富ヶ谷のPORT TOMIGAYA、柏のTONES COFFEE ROASTERSの3店舗を運営しながら輪を広げる彼の根底に潜む思いとは?
大学卒業後、2010年から約9年間、原宿のアパレルショップGR8で、接客やビジネスの基盤となることを全て学んだという竹内さん。入社3年で副店長、そして店長へ。その間の売り上げはトップをキープし続け、2020年に独立した。
「最初はキッチンカーでのコーヒー販売からでした。2022年に小さなテイクアウトの店を構えたのですが、その頃、店のすぐ近くでBENEのモリタさんがポップアップを開催していたんです。フットボールが好きなので顔を出したのが最初の出合いです」
隣の物件が空いたタイミングで、フットボールのユニフォームやカルチャー色の強い服などを扱うカフェ体制をスタート。「自分の好きなものを詰め込んだ場所を作りたい」という思いが形になったBAGGAGE COFFEEは、サンフランシスコのコーヒーショップのような、自由さと開放感が特徴的だ。手前のスペースはキャッシャーとキッチンからなるテイクアウトスペース、奥のカフェスペースには、イラストレーターとコラボレーションしたオリジナルTシャツや、サッカーアイテムをアップサイクルしたグッズ、セルフプレジャーのフェムテックなど、幅広いアイテムが置かれている。BENEのショップインショップがあり、さらに奥には、カスタムバイクを販売するマニアックなショップインショップ、ONO WHEELが展開している。小さな共同体をいくつも抱えるBAGGAGE COFFEEは、現在、フットボールファンの聖地となりつつある。


IG: @onowheel_nerima_tokyo
「僕自身、小学校の頃は東京ヴェルディのジュニアで、森本貴幸選手と一緒にプレーしていました。日本代表の板倉滉選手とも仲が良く、彼をはじめとした代表選手では旗手怜央選手や町田浩樹選手がよく来てくれます。同期だと、現在もJ3の現役選手である喜山康平選手など、多くの選手がオフシーズンになると遊びに来てくれて、トップ選手達はみんな普通のお客さんとフラットに交流してくれるんです。また、国立競技場でJリーグの試合がある日には、サポーターの方達が『これから応援に行くぞ』と盛り上がってからスタジアムへ向かう、といった光景も日常的になりました」
これは、竹内さん自身がジュニア時代全国優勝を経験するほどフットボールに打ち込み、プロの道の厳しさ、挫折を痛感したという原体験に基づいている。その険しさを知っているからこそ、プロ選手への強いリスペクトがある。
「フットボールのみならず、僕は、自分が好きなことのスキルを極めきったプロの人達全てに、まず敬意を持っています。特にフットボールの世界では、選手になってからも、試合に出られるときもあればそうでないときもある。歳をとればとるほど、年俸が下がるし、毎年年度末には、次年度の契約が更新されるかどうかの不安に向き合っているんです。チームの戦略次第でガラッとメンバーが変えられてしまう中、自分の感情をコントロールしながらやっているプロの選手には尊敬しかないんですよ。 彼らって普通に接してくれるけど、その立場にいること自体が本当に凄いことで。彼らの魅力をもっと伝えられる場所でありたいなって思ってるんです。そういう場所を作るのが、BAGGAGEの役割であり、自分の役割だと思っています」

現在は、スポーツ関連やファッション系イベントでの大規模なケータリングや、フットウェアのコラボなど、活躍の幅が広がってきた。3店舗をマネジメントしていて面白いのは、店舗のコンセプトが異なるため、スタッフもお客さんも両極のタイプが、それぞれに集まることだという。竹内さん自身がこれまで歩んできた業界も異色ではあるが、一貫していることは属人的な感性を非常に大切にしていることだ。
BAGGAGEに来るお客さんは、女性で『かっこいい選手がいたから』という人が多いんですけど、僕もその方が話しやすい。こちら側のこだわりを押し付けて、お客さんに窮屈な思いをさせたりせず、僕は人々のハブになる空間を人間性と接客で作っていきたいんです」 様々な領域を巻き込んで彼が作り出すコミュニティは、共鳴し、縦横の軸を越えて増殖を続けている。
「誰かの足りない部分を補い合うというより、まずはお互いが個々のレベルを高めていくことを意識していますね。それぞれが自分の店を良くしようと努力する姿が刺激になって、チーム全体のレベルが上がっていく。その相乗効果が、この場所の活気に繋がっているんだと思います。フットボールを続けてきた経験が、ファッションの仕事や、このカフェの経営、そして人との縁、その全てに繋がっています。でも、どこをとっても、僕の人生からフットボールは離れない、大きな存在ですね」

- Photography : Eri Kawamura
- Words : Yuka Sone Sato