ファッションウィークはもはや、かつてのような「スニーカー祭り」ではない。そのことは、2026年春夏メンズコレクションでより鮮明になった。今シーズンはまさに転換点だった。ランウェイにはもちろんスニーカーも登場したが、観客の視線をさらったのは、むしろスニーカー以外のシューズだ。デザイナー達は再びクラシックなレザーシューズに目を向け、素材の質感や職人技、そしてラグジュアリーの本質を鮮やかに浮かび上がらせていた。それはまるで、美意識の基準が再調整される瞬間のようだった。スニーカー一色だったラグジュアリーのストリート化は、もはや過去の話。2020年代前半には「ポスト・スニーカー時代」の予測が広がり、時代を牽引するデザイナー達は、古き良き靴職人の技に宿る物語性を強調していた。

その流れをいち早く示したのがPRADA(プラダ)だ。2026年春夏シーズンの幕開けとなるミラノ・ファッションウィークでは、パリに舞台が移る前から、スニーカーの姿はほとんど見られなかった。

PRADA 2026年春夏コレクションの中で最もカジュアルだったのは、VANS(ヴァンズ)を思わせるパンプス。クラシックな薄型シューズをシンプルに仕立てた一足だが、そのレザーの存在感は決してシンプルさだけでは語れなかった。

光沢のあるローファーやダービーはつま先を切り落とされ、フォーマルでありながらどこか不穏な佇まいに。さらにPRADAはドライビングローファーを再解釈し、スニーカーの軽快さとレザーシューズの端正さの中間に位置する、柔らかな万能スリッポンへと昇華させた。

ラフ・シモンズ(Raf Simons)とミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)による共同クリエイティブ・ディレクションは、ファッションの行方を見通すことで定評がある。今回もそれは健在で、VANSの代表的シューズは次々と刷新され、伝統的なレザーシューズにも巧みなひねりが加えられていた。

DIOR(ディオール)では、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の新しいクリエイティブ・ヴィジョンが、シューズに鮮明に表れていた。

アンダーソンのDIOR初コレクションで最も目を引いたのは、新作「ローディー」シューズ。スエードのチャッカブーツと薄底のレトロ風スニーカーの中間にあたるミッドトップモデルで、アンダーソンらしいハイブリッドな感性が息づいていた。さらにボートシューズにはフォーマルな革底を合わせ、巧みに洗練を加えていた。

LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)でも、VANS風スニーカーとエレガントなシューズのバランスが印象的だった。ローファーはテクスチャー豊かなラフスエードで仕立て、オックスフォードはヒール部分を極限までスリムにして、ほとんどソールの存在を感じさせない仕上がりに。さらにはビーチサンダルでさえ、ブランド最高級レザーで仕立てられていた。

これらが融合することで、LOUIS VUITTONのシューズは、落ち着いた佇まいと素材感、職人技を感じさせる意図的な方向性を示していた。

一方、ARMANI(アルマーニ)のスタッズ&フリンジ付きレザークロッグは、伝統的な民芸的要素とラグジュアリーな仕立てを融合させている。厚みのある木目調ソール、真鍮スタッズ、ドラマティックなフリンジタッセルが施され、職人技を感じさせる彫刻のような存在感を放つ。クラフトに根ざしながらも、劇的なシルエットに仕上がっている。こうした「正統派」レザーシューズへの広範な回帰は、柔らかさと硬さの絶妙なバランスを保ちながら、ファッションが素材の質感や職人技、上品さをラグジュアリーの指標として再提示していることを示している。

とはいえ、存在感のあるスニーカーも存在した。

確かに、2026年春夏シーズンの注目すべきスポーティシューズの多くは、正統派のレザーシューズからヒントを得ていた。たとえばPUMA(プーマ)や_J.L-A.L_(ジェイラル)のスニーカーは、厚めのアスレチックソールに光沢のあるレザーアッパーを組み合わせたモデルだ。さらに近年、最高のadidas(アディダス)スニーカーを手がけてきたWALES BONNER(ウェールズボナー)もスタイルを刷新し、フォーマルな雰囲気を漂わせるボウリングシューズ風スニーカーを生み出した。

こうした洗練されたカジュアルフットウェアは、話題の「スニーカーローファー」と同じ発想を基にしつつ、より繊細なアプローチを際立たせていた。そのため、WILLY CHAVARRIA(ウィリー・チャバリア)のバスケットボールスニーカーは、さらに際立ったエキセントリックさを放っていた。

丸みを帯びたそのスニーカーは、2026年春夏のほかのモデルよりスポーティな印象で、スリム化が進む中でも圧倒的な存在感を示す。彫刻的でオーバーサイズのテーラリングを想起させ、ボディを細く見せるのではなく、むしろ力強さと広がりを与える一足だった。

明らかに、優れたスニーカーは今も存在し、ファッションウィークのランウェイにも登場していた。ただ、ランウェイに並ぶ最新のシューズを振り返ると、バランスはより伝統的なスタイルに傾いていた。

2026年春夏シーズンには、多くの優れたスニーカーがあった。しかし、それ以上に素晴らしいシューズが数多く揃っていた。

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