自分の中の喜怒哀楽、好奇心や疑問やフラストレーションに、エンタメ性を持たせて表現する彼の人気は、Youtubeのメインチャンネル登録者数210万人超、Instagramメインアカウントフォロワー122万人超、TikTokメインアカウント130万人超(2025年10月現在)という数字を見ても明らかだ。

流行語大賞を生み出すほど自由で独創的な言語感覚。人を惹きつけるトークリズムと、オーディエンスと壁を作らない親しみやすさ。kemioの人気の理由は、彼のそういった絶妙で奇想天外なエンタテインメント性と、リレータビリティにあるように思う。

日本を離れアメリカで生活を始め早10年。2019年に『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』、2021年に『ウチらメンタル衛生きちんと守ってかないと普通に土還りそう』と、2冊のエッセイ本を3年置きに出版してきたkemioが、30歳を迎えた2025年に初めてヴィジュアルブック『kemio by kenta』を制作した。そこには20代を振り返る文章と共に、自身の持つ35万枚の画像から選ばれた思い出の写真、そしてkemioの友人であるフォトグラファー・久野美怜と共に制作した数々の撮り下ろしフォトストーリーが収録されている。

一見、自分の誕生日に合わせて書籍を出すという著名人の常套手段のように思えるが、彼のそれはただファンを喜ばせるコンテンツではなく、挑戦を続ける自分を晒け出すセラピーであり、読者に人生の希望やインスピレーションを与えるささやかなギフトにもなったはずだ。決して重く深刻な姿を見せないkemioこと黒澤健太の本音。その一部が、この書籍を通して見えてくる。

——書籍の刊行と30歳のお誕生日、おめでとうございます。まずは30代に向かう心境を聞かせてください。

そうですね。早く家持ちになりたいです。No no賃貸。

——やっぱりニューヨークは不動産が高いですよね。

はい、もう全然無理です。無理無理無理無理。でもno no賃貸がいいです。すごく憧れます。だからやっぱりお金の勉強もしていきたいなって思います、30代は。

——投資とか?

そう、やらなきゃですよね。アメリカって基本的にみんな貯金じゃなくて投資じゃないですか。「やってないの?」ってすごく聞かれるから、お金の勉強しっかりしていかないと。ただ目先のモノを購入してドーパミン上げてる場合じゃないなって。

——30代は、購買意欲がほかの意欲に変わっていくかもしれないですよ。勉強の意欲とか、何かの制作意欲とか。

そうなるといいなあ。でも実際に今回この本を制作できたので、やっと30代になる準備が整ったなって気がしてます。歳を重ねる怖さはないんですけど、時間が過ぎ去るスピードには怖さというか驚きを感じていて、だから自分が立ち返る場所を作る意味でも、この本が作れて本当に感謝なんです。

——歳を重ねることや、人生の節目についてあまり深く考えない人もいるかと思いますが、kemioさんがそういったことを大事にしていきたい理由は何ですか?

私達って普段、もの凄い情報量ともの凄いスピードに乗せられて生きてるじゃないですか。だからこそ誕生日とか記念日とかの節目には、自分が持っていないものを追いかけるんじゃなくて、持っているものに感謝をする。自分が到達できていないことに囚われるんじゃなくて、自分が達成できたことに「これだけやってこれたんだ。自分凄い!」って言い聞かせて自分に自信をつけていく。そういうタイミングをしっかり人生に持てるといいと思うんです。そうじゃないと、どこかでburn outしちゃうから。

——確かに、誕生日は家族や周りに感謝する日だし、自分自身を褒めるのも大事ですよね。話は変わって普段のkemioさんのコンテンツについてですが、どうやって棲み分けていますか?

Twitter(X)は何かと怖いので、宣伝とか告知のとき以外使わなくなりました。インスタは、エンゲージメント獲得のメインがReelになったりとかいろいろありますけど、そういうのはあまり気にせず、もう自分のミュージアムというか、自分が見返したときに「Ah! oh my god♡」って思えるものを投稿しています。TikTokは、フォロワーじゃない人にもリーチする仕組みじゃないですか、だからそういう人達がコメントで暴れるようなものを上げています。Youtubeは、ほかより長さがあるので最近は上げたいと思ったときに上げるようになりました。Podcastは週1で上げてるんですけど、言いたいこと言いすぎてネットニュースで炎上したらどうしようって思ったりしている今日この頃です。

——そんなにいろんなプラットフォームでコンテンツを発信しながらこの本も作ったんですよね。本には確か、6つくらいファッションストーリー的な企画編集ページがありましたよね。kemioさんがクリエイティブディレクションをした企画について、コンセプトなどを教えてください。

序盤に収録している “Tokyo Office Love” は、美怜ちゃんも挑戦したことがない撮り方って言っていたんですけど、私がやりたかったのは、日本の日常の場面での同性愛のカタチ? アメリカでは同性婚が法的に認められてから、日常的に同性カップルを目にすることが多くなったことで、理解が深まったり受け入れる雰囲気が助長されてきたと思うんです。例えばスーパーに行っても、男性同士のカップルがベイビーを連れてお買い物していたり。そういう場面を頻繁に見ることによって、考え方も変わってくるじゃないですか。でも日本では同性婚が認めらていないないし、別に賛成するけどよく分かんないっていう人も多い。ただ、知らないことが無恥とも言えないと思うんです。分かっていても、実感というか目の当たりにしていないから。だけど実際セクシュアルマイノリティの人達は日本にもいるから、ヘテロセクシュアルではよくある社内恋愛みたいなシチュエーションを、同性愛の場合で表現して、いろんな人に見てもらいたくて。

もうひとつ、ヒールを履いて撮った企画は、数年前に見たカール・ラガーフェルドのPurple Magazineのエディトリアルがインスピレーションなんです。ヘルムート・ニュートンの女性写真のオマージュなんですけど、それをヒールを履いた男性のモデルで撮っていて。それがすごく素敵だったんですけど、ただ同じことをするよりも、そこにさらに和洋折衷のエレメントを加えてみたんです。ヒールを履いた西洋っぽいスタイリングに、日本のお家っていう和の要素をロケーションで取り入れたらどうかなって。ロケーションは、フォロワーさんから募集して決めたんです。

——あ、それでロケ地協力のクレジットが入っていたんですね。今後も美怜さんとの企画は何か進んでいますか?

はい、次はまた美怜ちゃんにハロウィンの企画を撮ってもらうんです。コスチュームも今作って頂いているので楽しみです。

——また年齢の話に戻りますが、10年前の自分が想像していた30歳像と今の自分に違いはありますか?

え、なんだろう。正直、10年前は30歳っておじさんて思ってたけど、自分が実際なってみたら、全然じじいじゃない! って思います(笑)。このくらいの年齢になってやっと、人生に対して向き合えるというか、やりたいことがもっとはっきり見えてくる気がしています。30に近づくにつれて、興味のあることが明確になってきたというか、本当に学びたいことが分かってきたというか。学校に戻りたいと思う瞬間も増えました。

——もし学校に戻るとしたら、何を学びたいですか?

そうですね、フィルム系とか、映像を学びたいです。あと歴史、世界史も学びたいかも。まあそれは学校じゃなくても自分で学べよって感じですけど。

——学んで身に着けることや、体験して実感することは大事ですよね。書籍の中で、「プロセス」と「クラフト」が大事だと書かれていた部分にも通じる気がします。

SNSの活動を通して気づいたんですけど、今ってなんでも、凄いスピードで次から次にじゃないですか。それが好きな人もいっぱいいるし、実際便利さやトレンドを楽しんでる自分もいるんですけど、同時に、いろんなモノや、物事に対しての関係性に感謝する時間がなくて、立ち止まれないっていうか、一度立ち止まるともう追いつけなくなっちゃうくらい早い。だからそこで戦い続けても、自分は幸せなのかな? って。

それであるときから、動画の更新の頻度を落として、心とのバランスをとれるようにしたんです。それをできること自体、自分の特権だと思うんですけど。でも便利さやスピードを追求しすぎて、本質やクオリティが伴わないと、結局何も残らず、一生satisfyせず、ずっとお腹空かせたまま走りつづけるだけだから。

それと以前テレビに出演したときに、マツコさんに言われたことがあったんです。「どんなときに幸せ感じるの?」ってインタビューされて、「自分が発信したコンテンツが評価されたとき。人から良い評価をもらえると、やって良かったなって思える」って言ったときに、「それじゃ一生幸せになれないね、kemioくん」って言われたんです。でもそれって、今本当にすごく理解できる。人の気持ちと評価に自分の重心を委ねてたら、満足も感動も一生できないじゃないですか。だからこの10年は、その言葉がすごく理解できる自分にシフトしていった10年だなって思いました。

——また3年後も、書籍を期待していいですか?

そうできるように頑張ります♡

【書誌情報】

タイトル:kemio by kenta
発売日:2025年10月16日
定価:3,850円(10%税込)
判型:B5判変型

※書籍の詳細はPARCO出版

 

kemio photo exhibition 「裏アカ」
会期:2025年10月20日まで
時間:11:00 – 21:00
会場:PARCO MUSEUM TOKYO
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO4F
入場料 :1,000円 ノベルティ付

※入場は閉場の30分前まで
※最終日18時閉場 ※営業日時は渋谷PARCOに準ずる