※本記事は、HIGHSNOBIETYが2021年に刊行した雑誌『HIGHEnergy』のFRONTPAGE特集からの再掲載です。ファッション界の伝説的存在であり、愛猫家としても知られるジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)へのインタビューを収録しています。2025年9月4日の逝去を受け、アルマーニがファッション界に残した偉大な影響を振り返りながら、ここに改めて掲載します。

 

2,000ドルのネイビーブルーのスーツに身を包む圧倒的存在、ジョルジオ・アルマーニ。ミラノの高級百貨店「ラ・リナシェンテ」のウィンドウドレッサーとしてファッション業界に足を踏み入れてから65年、86歳(※インタビュー当時)の今もなお現役のイタリア人ファッションデザイナーだ。

「正直、むしろ以前より働いている」と、イタリアがまだ再開と停止の狭間で揺れていた今年の春、アルマーニは語った。「ビデオ会議やリモートでのフィッティングもするようになったが、うまくいった。予期せぬ挑戦はいつでも受けて立つ」

ARMANI(アルマーニ)は昨年2月、イタリア国内でのコロナウイルス早期拡大を受け、2020年秋冬コレクションのランウェイショーを中止した。主要ラグジュアリーブランドとして初の決断だった。イタリア国内での感染者数は200人未満、死者2人という状況で、この決断を過剰と評する業界関係者の声を、アルマーニは意に介さなかった。そして浮いた資金、220万ドル以上がイタリアの病院と市民保護省に寄付された。レッドカーペットファッションの先駆者であり、BMI18未満のモデルを禁止した初のデザイナーであるアルマーニは、これまでも多数の局面で同業者を未知の領域へ導いてきた。今回もまた最新事例が追加されたわけだ。

常にファッションの枠を超越する先見性を示してきたアルマーニは、ブランド構築の権威である。1975年夏のARMANI男女両ラインの設立以来、ホスピタリティからエンターテイメントまで、イギリスの実業家リチャード・ブランソン(Richard Branson)式に多角的に事業を展開し、自らのヴィジョンを数十億ドル規模の美的世界へと変貌させてきた。

力関係やニーズの変化を理解していたアルマーニは、当初から中性的な強さを持つ女性像と柔軟な男性像を確立し、洗練されたタイムレスな服を顧客に届け、たちまち成功を収めた。1980年代には『アメリカン・ジゴロ』などヒット映画作の衣装デザインを手がけ、ARMANIの代名詞であるテーラリングに世界的需要を喚起した。これまでにアルマーニが衣装を手がけた映画は200本以上に上る。

その後も、サブラインGIORGIO ARMANI LE COLLEZIONI(ジョルジオ アルマーニ アルマーニ コレツィオーニ)、ARMANI JEANS(アルマーニ ジーンズ)、EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)、A/X ARMANI EXCHANGE(アルマーニ エクスチェンジ)の展開に加え、下着や水着、子供服、化粧品、眼鏡、靴下、ギフト、時計、スポーツウェア、フレグランス、オートクチュール、ホームウェアへの製品拡大、何百店ものモノブランドストア、数々の賞の獲得、美術館での展覧会、雑誌の表紙、バー、レストラン、ドバイとミラノのホテル、カルト的ハウスマガジン、画期的広告、「サムスン」の携帯電話、書籍、特別コンピレーションCDシリーズ、チョコレート、欧州トップスポーツチームとの提携などを次々と実現した。

ラグジュアリーの代名詞となったこと自体も偉業だが、事業売却をせずしてそれを成し遂げたことはさらに特筆に値する。数十億ドル規模の事業を独立したまま維持するファッション企業は、今やほとんど存在しない。「他人に左右されず、自分の信念に従うことこそが真の革新だ」と彼は語る。影響力に翻弄される騒がしい時代において、アルマーニは静かに事業に取り組み、時の試練に耐えている。これこそ真の革新だ。

世界がいまだ不確実性に覆われる中、アルマーニは27のテーマで我々に教えを説いた。

ネイビーブルー

「ネイビーブルーは厳格でありながら優しい色だ。黒ほど修道院的で厳格な印象はないが、同じように思慮深い。海軍を思わせる雰囲気が、広い海を愛する私には心地良い。ネイビーブルーは穏やかさを感じさせ、実際に私を落ち着かせてくれる。私のオールネイビーのスタイルは、『服作りや無数の仕事に追われ見た目を深く考える余裕はないものの、それでもファッションデザイナーとして、確固たる美意識を持つ人間として、装いに気を配っている』ということの、私なりの宣言だ」

エレガンス

「知性は優雅、愚かさはそうではない」

最高のフットウェア

「私がずっと履いているような、真っ白で清潔なスニーカー」

突破口

「妹のロザンナ(Rosanna)が友人達と一緒に、私のメンズコレクションで作ったデコンストラクテッドジャケットを欲しいと訪ねてきたとき、社会が激変する中で、市場に新しい可能性があることに気づいた。EMPORIO ARMANIのワシのロゴも、イタリア唯一のサブカルチャー、パニナロを刺激する画期的な成功となった」

フィットネス

「健全なる精神は健全なる肉体に宿ると古くから言われている。1日30分の運動とバランスの取れた食事で十分に健康を保てる。それだけで思考や仕事の仕方に大きな影響があるので、私はこれを続けている」

最高の服

「ジャケット。汎用性が高く実用的で、現実を見据えた発明のできる最高のキャンバスだ」

最悪の服

「ハイヒールスニーカー。完全に失敗アイデアだ」

仕事への姿勢

「とても簡単だ。全身全霊を捧げること、頑固であること、徹底的に自分で管理すること。自分の手がけたものには自分の印が入る。だから失敗を誰かのせいにすることはできない。全てが私の決断であることが、結果に表れていると思う」

影響力の民主化

「ソーシャルメディアが作り上げた影響力の概念は、あまりにも商業的で実体がない。私の考える影響力とは大いに異なり、衝撃を受けることもある。だが関心はある。今日の現実は、ほとんど完全にデジタル化したように感じる」

ストリートウェア

「ストリートウェアの台頭は、近年起きた中でも特に面白いファッション現象だ。私が興味を持つのは、現実に関わるものや現実から生まれるものだ。ストリートウェアはリアル。ときに演劇的でロゴが目立ち過ぎることもあるが、それでもリアルだ。そして、若く大金を使う新世代の台頭とも結びついている。デザイナー価格のストリートウェアという発想は少し直感に反するが、それも時代の兆候だ」

「猫は私の性格を映す鏡のようで、とても好きだ。信頼した相手でなければすぐには近づかない。深い愛情を持ってはいるが、すぐには見せない。私と同じだ。しかも猫はとても優雅で思慮深い。極度に怠惰なところは私とは正反対だが、それもまた魅力だ」

自立について

「この仕事をするには、全ての決断を完全に自分で下す以外に方法はない。自立は負担でもあるが、同時に完全な自由を意味する。これは手放せない」

気候変動におけるファッションの役割

「ファッション産業は大量生産により気候変動に大きな影響を与える。私達はできるだけ早く行動すべきだ。今年の出来事で、自然の重要性を改めて実感した。我々は、ひとつしかない地球を守らねばならない」

テレビ

「テレビは極力観ないが、『ザ・クラウン』は本当に良かった。史実に忠実で衣装も素晴らしい。現実から離れた世界に連れて行ってくれる作品が大好きだ」

ファッション業界のスケジュール

「これはファッションシステムを破壊しており、無意味な大量生産で地球にも悪影響を与えている。私の考えは簡単だ。量を減らす方がいい。そうすればクリエイターは作品の質に集中できるし、消費者も価値あるものを選ぶことを学べる」

ファッションの変化

「私が駆け出しの頃、ファッションは現代性を推進する主要な存在だった。その役割は今やソーシャルメディアやテクノロジーに移り、ファッションは娯楽の一形態へと変わっている。私が目にした主な変化はそこだ。とはいえ私は今も、人々の日常生活に深く影響を与え、認識や態度を変え、進歩を促す力としてのファッションを信じている。スタイルを独立したものとして考えることはせず、生活の一部と捉えている」

史上最もシックな人物

「こういうランキングはあまり好きではない。正直、ベスト・オブ云々という序列は嫌いだ。シックさの概念は時代とともに変わる。ただ、リー・ラジヴィル(Lee Radziwill)がARMANIを着る姿は本当にシックと言わざるを得ない」

成功

「成功は目標ではなく、さらなる向上のための刺激だ。常に少しだけ目標を上げ、それを実践している。また、成功することで人々の目に触れる存在となり、模範となることができる。その結果、慈善活動でも成果を上げられる。この分野では、言葉よりも行動で示すのが好きだ」

完璧な芸術作品

「ひとつを選ぶのは公平ではないだろう。世界中には美しい芸術が散在している。すぐに思い浮かぶのは、ギリシャの神殿、大仏、ミケランジェロ(Michelangelo)のダビデ像、ピカソ(Picasso)のゲルニカ。シリア、パルミラのローマ遺跡も、特別な思いがある」

史上最高の楽曲

「難しい質問だ。友人のエリック・クラプトン(Eric Clapton)の『ティアーズ・イン・ヘブン』がとても好きだ。哀悼の曲で、あれほど甘く優しく、憂いはあっても悲しみに沈まない曲は稀だ」

ファッションの最もいいところ

「絶え間なく変化していくこと。知性と感性をもって向き合えば、それは停滞せずに進むための刺激となる。素晴らしい教訓だ」

ファッションの最も悪いところ

「絶え間ない変化は罠にもなり得る。愚かな気まぐれを起こしてしまうことがある」

若者へのキャリアアドバイス

「一生懸命働き、自分のアイデアを信じ、さらに努力を重ねれば頂点に立てる。たとえ頂点に立てなくても心配はいらない。自分らしくあることこそが最高の報酬だ」

世界で一番好きな場所

「アンティグア島やパンテレリア島、フォルテ・デイ・マルミの庭。そこから広大な海を眺める。これ以上の場所はない」

最近買ったもの

「忘れられたイタリア語の単語に関する本。時間について深く考えさせられた一冊だ」

GIORGIO ARMANIブランドから得た教訓

「少ない方がいいということ、そして時代を超えたエレガンスは穏やかなラディカルさの表現である」

ジョルジオ・アルマーニという人物の教訓

「ジョルジオ・アルマーニは自分のやり方を貫く」