goyemon
揺るぎないブランド戦略とものづくり。goyemonが築く、日本の新時代
「日本の伝統 × 最新技術」をブランドのコンセプトに掲げ、日本の伝統的なものづくりや文化を現代の技術で再構築したプロダクトを送り出すgoyemon(ごゑもん)。雪駄とスニーカーソールの構造を合体させて生まれた「unda-雲駄-」は、2019年のクラウドファンディングで21,675,600円を獲得。国内外のブランドからの引き合いも多く、世界的なプロダクトへの階段を着々と登っている。また、今年8月には、ソーラーLEDライトを搭載した提灯「ANCOH-庵光-」がSupreme(シュプリーム)とコラボレーション。新たな視点と揺るぎない軸で躍進を続ける注目のデザイナー藍と賢太の、ものづくりの信念と強いブランドづくりへの視座を探る。
——学生時代からの大親友であるお2人。goyemonを立ち上げる前に共有していた価値観や、ものづくりのルーツを教えてください。
賢太:高校のときから毎日一緒にいました。ものづくりの学校だったので、放課後一緒にものづくりをしたりする中で、二択だったらこっちがいい、という感覚の共有は、その時代にできたのかもしれません。
藍:共通言語になったのは、漫画とか音楽よりもApple(アップル)製品かもしれないです。ちょうど僕らが高校生の頃、iPhone4が登場して、世の中のうねりを感じながらワクワクしていました。
——雪駄とスニーカーを融合させたUNDAがブランド創立のきっかけとなりました。6年経ち、国内外のブランドとのコラボも多いですが、選ぶ基準はありますか?
藍:なんと言うか、“反対側” にいる人と取り組むことを心がけています。UNDAは、生地を変えたとしても、横の見た目で “「unda-雲駄-」らしさ” は残ります。だから、相手の胸を借りるつもりで全部あずけて、そこで生まれる新しいシナジーを楽しむようにしています。
——UNDAは「雪駄は元々左右を交換して履く事で左右平等で平らに減らし、ソールの寿命を長くする」といった昔の日本の文化風習が持つギミックを掘り起こしました。そこに共感をしている層も多いのではないかと思います。
藍:そこは僕達も最も重要視しています。伝統と最新が融合してるところのコントラストをいかに出せるか。そして、そこがいかに馴染むか。
賢太:だから、意味のないデザインはしないようにしています。伝統製品は、それ自体が暮らしに寄り添った機能美を既に持っている。そこをリスペクトして、当時の暮らしや知恵を現代語訳していく、というイメージで取り組んでいます。
——技術的な部分も含めて、どういうプロセスを経て、どこにこだわって作ったのか、改めて振り返っていただけますか?
賢太:デザインに関しては、最初に「こういうUNDAを作りたい」っていうイメージがまず明確にあって。例えば「雪駄とスニーカーを合わせたもの」みたいな。それを最初に僕と藍ちゃんで決めて、基本的にはそのひとつのデザインをブラさずに、どうやって現実的に形にしていくかを考える。だから、工場や職人さんとやりとりする中でも、デザインを妥協して変えるっていうことはほとんどないんです。もし、それができない場合は「なぜできないのか」をちゃんと分析する。そして、「もっとこうすれば実現できるんじゃないか」っていうのを自分達で考えていく。それが僕達のやり方ですね。

特に日本の伝統に関わるものをやるときは、めちゃくちゃ調べます。同じくらい、新しい技術についても徹底的にリサーチする。で、この2つをどう組み合わせたら、一番多くの人に共感してもらえるヴィジュアルになるかを突き詰めていく。その上で、「これが正解だよね」っていう答えを自分達の中で出して、それを職人さんや工場に持ち込んで、「これを作りたいんです」って伝えます。
そうすると、工場の方でも「できる」「できない」が明確になる。こっちも調べてる前提で行くから、「こういうことがやりたいんですけど、御社で可能ですか?」っていう入り方になることが多いです。
藍:伝統的な雪駄は、履くと痛みを伴うものもあるけれど、徐々に履き慣らしていくことが「粋でかっこいい」という文化がある。僕達はそれも好きなんですけど、今の若い世代にそれをそのまま押し付けるのは違うと思っていて。だから、導入として入りやすい形、いわばエントリーモデルとして、見た目も今っぽくてかっこよく、しかも履きやすい。そうやって “伝統を知るきっかけ” になればいいなと思ってるんです。

——UNDAの次は、切子とダブルウォールグラスを組み合わせたFuwanに挑戦。これには、どのような苦労があったんですか?
賢太:電子レンジでも使える切子グラスは、当時は、耐熱ガラスに切子のカットを入れるっていうのがそんなにメジャーではなかった。切子のカットを入れられるガラスの種類と二重構造にできるガラスの種類が全く違うので、それを一緒にすることはできないと言われましたね。
藍:業界的にナンセンスというか不可能だと。
賢太:それを、どうやったらできるか。耐熱と切子のカットの両方を兼ね揃えたこのデザインを実現するためにいろいろ考えて、試行錯誤しましたね。
やってて分かったんですけど、「不可能」って2種類あるんですよ。ひとつは「やったことがないからできない」と言われるパターン。もうひとつは、文字通り「物理的にできない」っていうパターン。
僕らがgoyemonを通してやってきた中で思うのは、ほとんどの「不可能」は前者。要は「今までやったことがないからできない」「前例がないから無理」って言われるものがほとんどで。でも、実際にやってみて、試行錯誤を重ねた結果、実現できたってことがほとんどなんです。
僕らは「世の中にないものを作りたい」っていう思いから始めてるんで、素材の特性とか、加工の限界みたいなところは、高校の頃からものづくりをやってきた流れで、ある程度知識もある。その上で「これは物理的に不可能じゃない限り、絶対できるでしょ」っていう精神で取り組んでます。たまに本当に物理的な不可能に直面するんですけど。
——ANKOHは明るさと色温度が調整でき、ろうそくのゆらぎも表現しています。
賢太:どっちかというとプロダクトデザイン的な考え方なのですが、閉じてるときは絶対使わない。だから、オフになってた方が親切。「畳める」という職人の高い技術力にスポットを当て、その畳める動きがセンサーになっていてオンオフを切り替える、というテクノロジーを入れました。この昔から大事にされてきたものと、これから新しく出てくるテクノロジーが共存している、というのがgoyemonのデザインの真骨頂なのかもしれないです。


——アパレルも展開されています。そこにはどんなこだわりがありますか?
賢太:クリエイターって、ずっと作業場にこもってるだけじゃなくて、自分達で営業にも行くし、人と会うことも多い。だから、どこで誰と会っても “綺麗でいたい” って思うんです。でもそのまま作業もするから、動きやすさや実用性も大事。
その「綺麗でいたいけど、作業性も必要」という、クリエイターの中にある “もやもや” を、僕達はアパレルとして形にしました。クリエイターのワークスタイルに対して、敬意を持って作っています。
藍:結構ギミックが効いているものが多いかもしれないですね。ベストは脱いでジップを全部閉めるとバッグになるんです。僕らは手ぶらでコンビニに行きたい。エコバッグも持ちたくないし、毎回レジ袋をもらう罪悪感も嫌だから。

——店舗の什器が動くのは、レイアウトしやすくするため?
藍:照明の配線とかも含めほとんど自分達でやったんです。既に3店舗目で慣れてるということもありますし、気分やお客さんの動向を見ながら環境を変えていきたいという考えがあって。
賢太:初めて店舗を出したのは蔵前で、昔からのものづくりが続いていたり、問屋があったりする街にgoyemonが店を構えるということに意味を持たせました。その後、立ち上げて3〜4年で渋谷に直営店を出したのは、応援してくれる人達の期待に対して僕らなりの感謝の気持ちを、積極的な行動によって形で表せたらと思ったからです。若い世代のクリエイター達が、goyemonみたいなブランドやりたいなとか、こういうオフィスを持ちたいなって思ってもらえるといいな、とも思っています。
——カスタマージャーニーの解像度がすごく高いからこそ、ブランドとして適切な体験を演出できているんですね。
賢太:コンスタントに新商品を出すことで、goyemonの新作を楽しみにしてくれるような構図を自らつくっていってるっていうのはありますね。今後はこのシーズンに新商品が出る、といった販売戦略をお客さんと共有していきたいと思っています。そろそろ来るな、みたいな。
藍:Appleの新商品が6月と9月、みたいなね。

——最も大切なタッチポイントでもある、商品の梱包材の工夫について教えてください。
藍:UNDAのパッケージの箱がそのままケースになったり、包み紙を全部開くとブランドの歴史が書いてあるポスターになっていたりといった工夫を凝らしています。ものを大事に長く使うことが最もシンプルな方法で、それを楽しみながらやることが大切かなと。捨てたくなくなるようなデザインにするのが最もサスティナブルだと思っています。
goyemonが考える「これからのものづくり」とは

——ご自身の活動を社会的な意義としてどのように捉えているかを踏まえて、goyemonの設計哲学を一言で表現するとしたら何になりますか?
藍:「粋」ですね。全てに通ずる言葉だと思っています。ヴィジュアルと、お客さんに届いたときの思いやり、そして購入体験なども全て「粋」という言葉で表現できます。
——伝統技術に向き合う上で、タブーに直面したときどのように切り替えていますか?
藍:プロダクト自体が「力技」な部分があるので、長年雪駄を愛用していたお客さんや、雪駄を作っている職人さんからは賛否両論があるのは事実です。ただ、僕らとしては、若い世代に届きやすくなったり、日本の伝統を知るきっかけづくりになればいいという思いで作っている。
賢太:僕らの商品が伝統製品の市場を「食っちゃってるんじゃないか」といった意見も出がちです。しかし、僕らの考えは、うちの商品を経て、伝統製品の方に興味を持ってもらうためのきっかけつくりだと捉えています。うちに興味を持って調べた結果、伝統製品を知り、そちらを選ぶ人がいれば、それも本望だと思っています。
——「これからの日本のものづくり」への懸念や期待はありますか?
賢太:チャレンジしやすくなった反面、なくてもいいものまで増えてきてしまうのは懸念しています。ものづくりの観点から見て、似た商品や不要なものが増えていくのはどうなのかな、と。
藍:職人さんが減っているという課題もありますが、僕らが良い商品を作り、日本の伝統に触れてもらう機会を増やすことで、この課題が改善されればいいなと思いますね。
——今後の展望として、どのようなビジョンをお持ちですか?
藍:会社のビジョンとしては、5年以内にブランドとして一時代を築くというところを目標にしています。1980年代や90年代に一時代を築いたブランドのように、その時代の金字塔であるということです。日本国内のブランドとして世界に発信し、世界で認知が取れている状態を目指しています。その目標達成のため、会社として数値を追っています。
賢太:僕は、月にgoyemonのショップを作りたいと思っています。地球じゃ実現できないプロダクトが向こうで売れている、というようなことをgoyemonでやりたいです。月で店舗構えてる人はいないので、ぜひ実現したいですね。この夢は、逆算すると「今自分が何をすべきか」という指標にもなるので、夢を大事に思わせておきたい、という思いで展望を感じています。
- Photography: Yuya Shimahara
- Interview: Yuka Sone Sato