ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が背負うことになった重責は、計り知れない。現在のファッション界における時代の寵児である彼は、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)本人以来初めて、Dior(ディオール)のメンズ、ウィメンズ、オートクチュールを同時に統括する人物となった(途方もない大役だ!)。しかも彼が引き継ぐのは、長年ブランドを率いてきた歴代デザイナー達の系譜。その一人、キム・ジョーンズ(Kim Jones)は、Diorのスニーカーを真に魅力ある存在へと押し上げた最初の人物でもある。

キム・ジョーンズは、Diorのフットウェアにかつてない存在感を与える数多くのスニーカーを残した。そのスニーカーをめぐる責務は今、アンダーソンの肩に託されている。

彼が最初に打ち出した一手は、知る人ぞ知るNike(ナイキ)のスニーカーを再構築することだった。少なくとも、新作「ディオール ローディー」からは、そんなムードが立ち上がってくる。

「ディオール ローディー」は、アンダーソンの型破りな嗜好を象徴する一足だ。モカシン調のスエードブーツと、非常に平らなソールという、一見ちぐはぐな要素の組み合わせが、奇抜でありながらも不思議な一体感を生んでいる。

一見して風変わりな一足だが、アンダーソンのフットウェアデザインチームが「ローディー」の着想を、Nikeの長らく忘れ去られていた「コンシダード」プロジェクトから得た可能性が高いことを考えると、その奇妙さは一層際立つ。

足もとに配された、Diorのアーカイブである編み込みのカナージュモチーフをグリップとして用いた、二層構造のソールユニット。これは、2005年に登場したNikeの「コンシダード ブーツ」のソールを直接的に想起させる。では、毛足のあるスエードで縁取られたモカシン型の丸いヴァンプはどうか。こちらも、Nikeのスエード製「ナイキ コンシダード BB ミッド」とほぼ同一の構造が見て取れる。

Diorの公式サイトで1,200ドルで発売された「ディオール ローディー」を、Nikeの「コンシダード」のアーカイブモデルと並べてみると、両者の明確な共通点と同時に、箱型のシルエットや、フランスのメゾンのロゴを刻印した折り返しのある二重構造のタンといった、細かな差異も浮かび上がってくる。こうしたNikeへの参照は、アンダーソンのチームがスニーカー文化への確かな知見を誇示するものであると同時に、新旧を横断しながらDiorを前進させようとする、アンダーソンの実験的な志向を映し出している。

「ナイキ コンシダード」は、熱狂的なNikeファンの間で語り継がれ、二次流通で取引されるきわめてニッチなラインだ。2005年に始動したこのプロジェクトは、接着剤を使わず、自然素材や再生可能な素材のみで構成する、Nikeにおけるサステナビリティの未来を先取りする試みとして構想された。「ナイキ エアプレスト」や「エアイージー2」に携わったティンカー・ハットフィールド(Tinker Hatfield)やアンドレアス・ハーロウ(Andreas Harlow)らを含む精鋭デザインチームによる長年の試行錯誤の末、ようやく実現に至ったこの取り組み。その結果として生まれたシューズ群は、Nikeの歴史の中でもひときわ異質で、同時にきわめて前衛的な存在だったが、時代を先取りしすぎたゆえに、2010年代初頭には姿を消していった。

これほど奇妙なシューズは、Diorのこれまでの体制のもとでは生まれなかっただろう。キム・ジョーンズのチームが好んでいたのは、「ナイキ ダンク」や、いわゆる “ダッドシューズ” といった既視感のあるフォルムをベースにしたアレンジだった。

現在はファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)率いるLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のフットウェアを統括するデザイナー、ティボ・デニス(Thibo Dennis)を右腕に、キム・ジョーンズはDior Men’s(ディオール メンズ)在任の7年間にわたり、話題性と親しみやすさを兼ね備えたスニーカーを次々と世に送り出してきた。既存の名作フットウェアをラグジュアリーへと昇華させる手法は、彼のシグネチャーとも言える。デビューコレクションで発表されたモノグラム柄の「B23 ハイトップ」は、いわば高級版「チャックテイラー」であり、その後も「ディオール × ジョーダン 1」や、テクニカルなBIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)のクロッグなどが続いた。

ジョナサン・アンダーソンもまた、人気スニーカーの要素を取り入れることをいとわない(Diorでの最初のコレクションには、VANS(ヴァンズ)のスケートシューズをDior流に再解釈したモデルも含まれていた)。だが彼の関心は明らかに、ごく一部のスニーカーマニアだけが真価を理解できるような一足を生み出すことにも向けられている。デビュー作のスニーカーが示しているのは、全てを手に入れようとするアンダーソンの姿勢。万人に開かれたDiorと、細部によって定義されるDior——その両立である。