良い服には、自然素材の、手作りで、質感の豊かな、良い生地が必要だ。多くのブランドは、そうした生地を求める際、まず日本を思い浮かべるようになった。しかし今、フランスでは、独学で織物を学んだある若き職人の登場によって、自国に目を向けるブランドの潮流が生まれつつある。

衰退しつつあった地元の織物産業復活に乗り出す前、当時34歳のセドリック・プルメ(Cédric Plumey)はLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)で働いていた。ラグジュアリーブランドLOUIS VUITTONのエンジンルームで、華やかさとは無縁の財務や物流業務に数年間携わっていた。気に入ってはいなかった。パリの生活も楽しめなかった。

2016年、LOUIS VUITTONを辞めたプルメは、生まれ故郷のフランス北東部に戻り、人口約4000人の小さな村エテュプに工房を構えた。かつて、ケルシュと呼ばれる綿とリネンの混紡チェック生地を作る織物職人のコミュニティが栄えていた地域だ。テーブルクロスやベッドカバーに使われてきた伝統生地、ケルシュが今、プルメと長年手を組むベルギーのスローファッションブランドunkruid(アンクルイド)のファーマーシックな服を通じて再び息を吹き返しつつある。

生地が実際の服になるよりもずっと前、プルメは、ケルシュの伝統を復活させるどころか、まずその織り方そのものを解き明かす必要があった。地元に点在していた小さな工房は既に姿を消すか、工場へと姿を変えており、プルメは全てを自力で立ち上げるほかなかった。「古い織機を何台か買い、倉庫に設置して、ネットで見つけた1930年代の繊維工学の手引きを頼りに、試行錯誤を重ねながらやり始めました」と彼は語る。そして数カ月後、織機を稼働させることに成功した。織りの技術は習得中の身であり、古いベルギー製シャトル織機で初めて上質な生地ができるまでに1年半を要した。

©︎ MANUFACTURE MÉTIS

「こうしたやり方で生地を織っていると、起こり得る欠陥は本当に無限にあります。とは言え、仕上がりは完璧でなければならない。だから欠陥を一つ一つ見つけ出し、取り除いていく必要があるんです」とプルメ。「独学の身でそういう試行錯誤をしていると、気が狂いそうになることもあります」

MANUFACTURE MÉTIS(マニュファクチュール メティス)は今こそ引く手数多のファブリック会社となったが、創業期のプルメは週60~70時間労働をこなしていた。ヨーロッパ中を駆け回り、ボビンワインダー(糸巻機)、ワーピングマシン(経糸を大きなロールに巻き付ける機械、整経機)、そして主に20世紀初頭に製造された織機を探し求めた。そしてフランスに戻るとそれらの分解、修復、微調整に取り組む。2カ月を要することもある複雑な作業だ。現在プルメの工房には動く織機が15台ある。プルメと助手一人で5~6台を操作し、MANUFACTURE MÉTISの代名詞である綿麻混紡・綿ウール混紡生地を、厚手のヘリンボーンから軽やかなツイルまで様々なバリエーションで、一日最大200メートル生産している。

「セドリックが生み出しているものこそ、唯一の “本物のラグジュアリー” です」とパリを拠点とするデザイナーであり、スタイリスト、コレクター、そしてファッション界のルネサンス人であるゴーティエ・ボルサレロ(Gauthier Borsarello)は語る。「『高価』であることの真の意味は、素材が希少であることだと、大事な事実に立ち返らせてくれます」

プルメの立ち上げたMANUFACTURE MÉTISの生地は、Jean Laumet(ジャン ロメ)、BURGAUD(ビュルゴー)、OLIVER CHURCH(オリバーチャーチ)といった、品質を最優先する新世代のワンマンフランスブランドに採用されている。OLIVER CHURCHが手作りに徹底して作るシャツは、バンクーバーのNEIGHBOURや東京のMAIDENS SHOPなど、妥協を許さない小売店で販売されている。コラボレーション相手が地理的に狭い範囲にしかいないのは自らの責に帰するところだとプルメは時折言う。「オンラインでの認知度向上には全く努めていません。そんな暇はありません」。しかしそのひたむきさは称賛されている。「フランスの生地製造業を一握りの大手が掌握する中、ここ数年で海外から生地を調達する必要がなくなったことにはプルメの功績が大きい」と、ロワ・ディオニシオ(Loïs Dionisio)は語る。彼がリヨンで営むオーダーメイドのブティック兼工房で使用している生地の90%はプルメのものだ。

©︎ BURGAUD
©︎ BURGAUD / KEVIN DESCHAMPS
©︎ LOÏS DIONISIO ATELIER FRANÇAIS

「セドリックはこの上ない現場主義です。必要とあらば、機械の調整までしてくれます」と、フレンチアルプスのラグジュアリーアウトドアブランドMAISON DOUILLET(メゾン ドゥイエ)のデザイナー兼共同創業者クレマン・ドゥイエ(Clément Douillet)も語った。「そして何より重要なのは、多くの生地メーカーや工場が200メートル、300メートル、場合によっては1000メートルからの発注を前提とするのに対し、セドリックのところでは最低発注数量を定めていない点です。潤沢な資金がなくても試しに発注してみることができるんです」

良い生地なしに良い服は生まれない。最高の服は最高の生地から生まれる。だからこそ、新興ブランドから老舗ブランドまで、多くのブランドが必死に良い生地を探し求める。プルメがクライアントに提供している、ヒューマンスケールで生産した高品質な生地は、欧州のみならず世界的にも極めて稀なものだ。プルメを取り巻く新興フランスブランドネットワークが評価しているのもまさにそんなプルメの仕事熱心さ、気さくさ、職人の伝統を守り抜く姿勢だ。「プルメのところも我々のところも」とディオニシオは言う。「商売や戦略ではなく、作り手の技術と審美眼に価値があります。それは100年前も今も変わりません」