style
Where the runway meets the street

©︎MARNI / JASON LLOYD EVANS

©︎SANDY LIANG / MAYA SPANGLER

「花柄? 春に? 斬新ね」『プラダを着た悪魔』でメリル・ストリープ(Meryl Streep)演じるミランダ・プリーストリー(Miranda Priestly)は目を丸くした。ファッションに多少なりとも詳しい人なら、すぐに口ずさめるほど、誰もが覚えているセリフだ。このシンボリックな映画の言葉は、ランウェイをボタニックトレンドで満開にすることはなかったが、ニューヨーク、ロンドン、パリで開催された2024年春夏コレクションでは、バラの花で溢れていた。

SANDY LIANG(サンディーリアング)では、ティーローズで結ばれたサッシュがベルトとして使われ、ローウエストのカプリパンツやプリーツスカートにループ状に巻かれていた。SIMONE ROCHA(シモーネ・ロシャ)は、ナイロンのウィンドブレーカーやシルクのクラッチバッグに仕立てたり、シースルーのガウンやアウトドアアウターの細長いポケットに、トゲのある花の茎を刺すなど、様々な方法で花にスポットライトを当てた。MARNI(マルニ)では、立体的なバラの花がガウンから芽吹き、まるで生い茂った庭園のようだった。

 

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ファッション界で新たに人気を博している花がバラであることは明らかだ。バラは、伝統的にロマンスを連想させる花である。ギリシャ神話によると、愛の女神アフロディテが恋人のアドニスを助けるために白バラの茂みを駆け抜けた。そこで、傷ついた足から流れ出た血がバラを赤く染め、とりわけ緋色の品種と情熱を永遠に結びつけたという。

ビーズアクセサリーブランド「SUSAN ALEXANDRA(スーザンアレキサンドラ)」のデザイナー、スーザン・コーン(Susan Korn)は、今季のランウェイのトレンドにバラのロマンチックな意味合いを結びつけている。「バラは、美とロマンスを象徴します。何をするにも、愛こそが、私達が求めているものです」。陳腐に聞こえるかもしれないが、コーンの言葉は正しい。結局のところ、愛の探求は、求め、求められることへの願望であり、多くの人が共感する現象だ。ソーシャルメディア、オンラインデート、リモートワークなど、実体のないデジタルコミュニケーションに押しつぶされそうになる中で、繋がりを求める私達の欲求は頂点に達しているのかもしれない。

 

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コーンはまた、スタイリストのドリア・サントローファー(Doria Santlofer)と2022年に立ち上げたニットウェアブランド「ROSETTE(ロゼット)」を通じて、その関連性を探っている。「ROSETTEという名前は、バラのライフサイクルの中で、まだ完全に咲いていないつぼみの状態に着想しています。私達はバラのつぼみを使って、女性の様々な局面を表現しています」。

多くのミレニアル世代やZ世代が共に育った、 “女の子らしすぎることは好ましくない” “男性に嫌われる” “フェミニズムに対する侮辱だ” というメッセージとは真逆の、少女らしさや女性らしさを取り戻す過度なフェミニニティをファッション界が受け入れていることは周知の事実だ。コケットコアやバレエコアのようなトレンドは、この理屈を否定し、代わりに少女のクローゼットで見るような、自信ありげなピンク、フリル、レースを使ったアイテムを堂々巡りしている。コーンにとって、ファッション界が最近バラを好んでいることは、女性らしさの再考と「手を取り合っている」ことだと言う。

GUCCI(グッチ)、COLLINA STRADA(コリーナ ストラーダ)、リアーナ(Rihanna)が手がけるSAVAGE X FENTY(サヴェ―ジフェンティ)など、多くのファッショナブルなクライアントにアレンジメントを制作してきたフラワーデザインスタジオ「BRRCH」のブリタニー・アッシュ(Brittany Asch)は、ランウェイにバラが多く登場するのは、ロマンティックなものからプラトニックなものまで、愛への憧れを表現しているからではないかと推測する。「私達は、繋がり、ロマンスへの回帰、深い愛情、強さ、安定、そして癒しを必要としているんだと思います」。そしてバラは、「ロマンスやロマンチックな表現の使者」としての役割を最も果たしていると付け加える。

バラの台頭が、繋がりを求めるものであれ、幼少期を懐かしむためのものであれ、アッシュはこのトレンドが今後も続くことを望んでいる。「バラは、私の作品の中で常に重要な位置を占めています。バラは私のよりどころであり、いつもバラの評価が深まるよう後押ししてきました」とアッシュは話す。「私にとって、バラは核心であり、軸であり、尊く、穏やかでいることは弱さの指標ではない、ということを思い出させてくれます」。