「完璧ではないから、現実的である必要がある」フィリップ・リムと考えるファッションの責任
環境への負荷が少ないことから再注目されているオーストラリアンメリノウールを使ったザ・ウールマーク・カンパニーとのカプセルコレクションを発表した「3.1 Phillip Lim(3.1フィリップ リム)」。来日したデザイナーのフィリップ・リムが考える、未来のための哲学と美学とは?
地球の環境問題に対して16歳のグレタ・トゥーンベリ(Greta Ernman Thunberg)がたった一人で始めたストライキは世界中に広がり、ティーネイジャーを筆頭に国家政策に対して声高く訴えている。その勢いは増すばかりで、9月20・27日に行われた国際気候変動ストライキ(GLOBAL CLIMATE STRIKE)では、日本を含めNYやジャカルタ、イスタンブールなど各都市合わせて760万人以上の活動を記録した。自然破壊に対する意識が高まる中、CO2の排出量、染料に含有する重金属および廃棄物による汚染、生態系への影響など、汚染率が高いとされるファッション業界。今のしかかる責任に対して様々な対策を打つブランドが急増している。
「make less, mean more(より少なく、意味を増やす)」という哲学のもとに変革を開始した3.1 Phillip Limは、汚染度の高い業界において、具体的に対処し、公言するブランドのひとつである。彼らはファーフリーを宣言し、19年秋冬コレクションでは全体のうち82%で天然素材を使用した。これによって生産背景から実際に環境汚染につながる仕組みを最小限に抑えた。さらに20年春夏のランウェイショーでは、プラスチックの使用を削減。資源に細心の注意を払う試みは以前から行われていたものの、改めて声を上げることでよりポジティブなリアクションにつなげるステイトメントとして掲げられた。
「『3.1 Sustainable Balance』とは、私たち一人一人が自分が今いるところから始めよう、そして環境への影響について考える、ということを意味しています。それは、現実的である必要があるからーー人間として私たちは100%サステナブルでいることはできないし、完璧ではないから。ただ、私たち一人一人は自分たちの人生のバランスを保ちながら小さいステップは踏める。それは、本当に小さいことからでも良いと思います。カップやフォーク、ナイフなどプラスチック製品を使わない配慮をしたり、オフィスへ歩いて行ったり。そして、ブランドとしては最初から天然繊維を使用することで、洋服のその後を考える。そして、常にお客様からや業界内でより良い解決策について学び、共有していきたいと考えています」とフィリップ・リムは語る。
同じ価値観を共有するパートナーと共創して環を広げていきたい。そんな思いで掲げた「3.1 Sustainable Balance」。今回のプロジェクトは、高い生分解性を持つオーストラリアンメリノウールからモダンな女性たちのリアルなワードローブへと進化させた。
「私達が強調したかったことは(ほかの繊維と比べ)、ウールは美しく、ラグジュアリー、そしてイノベーティブにもできる素材でありながら、最終的に地球に戻る汚染の少ない天然繊維であるということ。例えば、コットンとメリノウールの新しいブレンドにより、デニムでありながら、ウールの自然な特性である洗濯の必要性の少なさや環境への配慮をもって“ウールデニム”を作り上げました。デニムはもともと環境への負荷が多い素材だからね。ウールは天然繊維であり、生分解性であり、抗菌性があり、何よりシーズンレスです。オーストラリアンメリノウールを使って、ユースフルでシック、そして心もマインドも心地よく着られるアイテムを完成させました。それが、現代を生きるグローバルシティズンである3.1 Tribeが望む物ではないでしょうか?」
「3.1 Tribe」それは、3.1 Phillip Limが考える価値観だ。多様性やクラフト、ダイバーシティ、目的、希望といったメッセージを、服や写真などのクリエイションを通して発信している。時代そのものとも言えるその価値観は、共通言語を共有しながら形を変えてクリエイティブなコミュニティとして存在する。「美」を通して思考を促し、感動を誘い、ファッションやクリエイティブに身を捧げる者同士が責任を自問し、支え合う。そうして価値観の波紋を広げるためのプラットフォームとしても存在している。
20年春夏では、サステナブルなNYのアクセサリーブランドARIANA BOUSSARD-REIFELとコラボレートした。
「彼女の作品と彼女の芸術性のあるジュエリーが大好きです。彼女のブランドが私たちの価値観と合致したんです。彫刻的であり、様々なカルチャーから着想を得ている彼女の作品は、どのピースもエシカルでサステナブルに彼女のニューヨークにあるスタジオで手作業で作られているんです」
サステナブルとは、持続可能である仕組みだ。地球や働く人々、ともに地球上で生きる動物や人々に無理がかからないものづくりやビジネスそのもののデザインが今早急に求められている。
「ファッション業界が変化を起こせられる業界であるといつも信じています。手段はあり、業界内では過去数年間にわたり、新しい解決策が提案されてきました。これからは、それを実装し、一緒に問題解決することで変えることができると思っています。私達の会社として、デザインプロセス、プロダクション、パッケージ、そして店舗設計まで、あらゆる分野で常に考えています。何をすれば無駄を減らせるのか、ほかにサステナブルなチョイスをすることができるのか、意図的な意思決定ができるのか、そのすべてをしながら同時に美しいプロダクトをお客様に提供できるかを考えています」
一人一人の小さなアクションが世界を変える。グレタの行動によって世界が大きく変わろうとしているのを目の当たりにしている私達。フィリップが掲げるように「美」を愛するという価値観を共有するコミュニティの一員として、小さなコトでも自分にできることをまず、初めてみてはいかがだろうか。
問い合わせ先
3.1 Phillip Lim Japan
TEL 03ー6433ー5011
- Words: Yuka Sone Sato