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ロエベ財団クラフトプライズ 2023受賞者を発表し、大賞を稲崎栄利子の「Metanoia 」(2019年)が受賞。特別賞には、ドミニク・ジンクペ(Dominique Zinkpe)と渡部萌が受賞した。

今年度のクラフトプライズでは、ものの本質から熟考し時間をかけたテクニックと、素材を巧みに操る術を探求した作品が選ばれた。今回の候補作には思いがけない形や色彩が登場し、見る者に遊び心と驚きを与えている。ファイナリストの作品は、2023年6月18日(日)まで、ニューヨークのノグチ美術館にあるイサム・ノグチのスタジオで展示される。また、このスタジオでの展覧会はオンラインでも閲覧可能。ファイナリストの各作品を収録した展覧会カタログを通じて記録される予定。

マグダレーン・オドゥンド(Magdalene Odundo)、アナチュ・サバルベアスコア(Anatxu Zabalbeascoa)、オリヴィエ・ガベー、パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)を含むデザイナー、建築家、ジャーナリスト、批評家、キュレーターなどから構成される審査員によって、 30名のファイナリストの中から選出された。また、ファイナリストは2023年の1月、117の国と地域からなる2700点以上の応募の中から専門家たちによって選出された。16の国と地域を代表するファイナリストたちが用いた作品の素材は、陶磁器、木工、テキスタイル、レザー、ガラス、金属、宝石、漆など多岐にわたる。

 

稲崎栄利子の複雑な陶磁器による造形物は、極小のパーツを集積することで結晶化した表面を生み出した。審査員からは、「陶磁器でさまざまなエレメントから相乗効果を生み出すという、これまで見たこともないような卓越した技術である」と評価された。この作品の傑出した技術と芸術性は、展示空間を支配し、驚きを与える魅惑的な存在感を生み出している。

ドミニク・ジンクペは「The Watchers」(2022年)で特別賞を受賞している。小さなイベジ(ヨルバ語で双子の意味)人形を組み合わせた作品は、ヨルバの伝統的な信仰である多産を連想させるもの。審査員は、伝統的な信仰を彫刻的に再解釈し、現代のクラフトのあり方を拡張している点を評価し、この作品が選ばれた。

渡部萌は「Transfer Surface」(2022年)で特別賞を受賞している。胡桃の木の皮でできた箱は、季節の循環に敬意を表し、日本古来の伝統である生け花を想起させる。審査員は、樹皮の素材感の素晴らしさと、建築の構造や修理の伝統に着想を得たリベットの使用で、この作品が選ばれた。