style
Where the runway meets the street

本年度の「LVMHプライズ(LVMH PRIZE)」ファイナリストに選ばれたデザイナー「サミュエル・ロス(Samuel Ross)」が手がける「ア コールド ウォール(A-Cold-Wall*)」。今シーズンはコレクション発表の場に、東ロンドンに位置するインダストリアルな雰囲気漂うウェアハウスを選んだ。招待客へ送付されたのは通常のインビテーションではなく、会場と呼応するかのような保護ゴーグル、防塵マスク、耳栓のセット。ショー開始前から”何か”起こりそうな予感を感じさせる。

そしてその予想を遥かに超えるドラマチックなオープニングでショーはスタートした。登場したのは普通のルックではなく、防護服のようなもので身を包まれた20人ほどの人体が練り歩く。一瞬にして会場内の注目を集めた。

ストラップを身体に巻きつけて着用する変形アウター?やPVC素材のショート丈トップス、テントをウェアラブルにしたようなポンチョなど序盤から目を引くものが序盤から続く。そして度々見られたのがコートに配されたグラフィカルなカラーライン、ベストやトラウザーに取り付けられたポケットだ。これはヴェルクロを使用し、取り外しが可能となっているためデザイン性だけでなく機能面も兼ね備えている。

また複雑なレイヤード、異素材をミックスしたり裾の長さが左右非対称であったりと、一見ちぐはぐのようだが、それぞれのピースをバランス良くスタイリングし全体をスッキリとさせた。

そして今ショーのキーとなっていたのが救命胴衣のようなウェアや工具バッグ、ワイヤーチェーン、石膏のアクセサリー、スプレーをふきかけたようなディテールだ。テーマとなった”Human. Form. Structure”を表現するかのように、それらの要素をプラスして人間の持つ脆弱さを補強したのかもしれない。

終盤には大きなボックスがランウェイ上に運び込まれ、その中から頭部のみを覆われた男性が”誕生”した。血にまみれながら彷徨うその様子はまるで、登場したばかりのルックと人間の無防備な状態とを対比するようだった。

2015年のブランド創設時より常にイギリスのユースカルチャーやそのコミュニティをテーマとしてきた「ア コールド ウォール」。今シーズンは“ブレクジット(Brexit”)”後さらに募る現代の若者の不安や、脆さというメッセージを乗せたように受け取れた。