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アートディレクション、グラフィックデザイン、ファッションデザインを手がける田中優大、田中杏奈によるユニットBIOTOPEが、東京・渋谷のPARCO MUSEUM TOKYOにて展覧会を開催。「WELCOME TO BIOTOPIA」と題された本展では、会場を架空のジオサイトにある展望台と想定し、(仮想の)窓から見える風景や、この土地の民族衣装とも云うべきファッション、モニュメント、そして観光客のためのリーフレットやスーベニアショップが展開されている。このコンセプチュアルな世界観の発想はどこからきたのか。そもそも昨年の「INTERNATIONAL TALENT SUPPORT」で、アートワーク部門グランプリを受賞したBIOTOPEとは一体どんなユニットなのか。展覧会スタート直前の本人達にインタビュー。

——まずは、お2人がどうやって知り合い、一緒に活動を始めたのかを聞かせてください。

優大(以下 Y):もともと僕達は、グラフィックデザイナーとして同じ広告制作会社で働いていました。

杏奈(以下 A):私達が初めて会ったのは、その会社の最終面接で。

Y:すごく忙しい会社で、広告的なグラフィックをたくさんやっていたんですが、忙しい中でも、好きなアーティストさんの作品を見てインスピレーションを受けたり、憧れていましたね。僕はその会社に3年ほどいて、その後転職しました。転職後少し時間に余裕ができたので、writtenafterwardsの山縣良和さん主宰の “ここのがっこう” に通うようになりました。その頃には杏奈と2人で暮らすようになっていたので、僕が作ったものを見せて話をしたり、グラフィックデザイナーとして相談をしあったりしていました。

A:仕事や作品について一緒に考えたりしながら、優大の “ここのがっこう” での制作を、「いいなぁ」って思っている日々でした。

Y:“ここのがっこう” は、通ったり通わなかったりも自由だったので、断続的に通っていたんですが、学校で作った作品が、去年のITS(INTERNATIONAL TALENT SUPPORT)というコンペにノミネートされて、イタリアに行けることになったんです。その時、提出書類にチームメンバーの名前を書く欄があったんですが、こんな機会だし、「2人で行くしかない」ってことで、杏奈の名前を書きました。

A:私も、「行きたい」って。

——確かに、選ぶなら感性を共有できているパートナーですよね。

Y:そこから、2人で作品作りをしているという形に世間的にも見てもらうようになり、僕らも違和感なくこのスタイルで活動しています。

——BIOTOPEという名前にしたのはなぜですか?

Y:ビオトープって、生物学の用語で、動植物が安定して生きていける環境っていう意味なんですが、クリエイションで同じようなことができたらいいなと思って。今回の展示もそうなんですが、いろいろなコラボレーターと仕事をさせてもらって、その方々の作家性も尊重しながら、みんながクリエイティブなことを楽しめる環境が理想だな、と。

A:こちらから発注して、色々と注文をつけて「こうしてください」っていう一方的な感じよりは、「こうしたらどうかな?」って相談をしながら、コラボレーターさんと何かを一緒につくっていきたいと思って。

Y:僕達はアートディレクターという立場で仕事をしているので、普段から、カメラマンさんに頼んで撮ってもらうとか、業者さんにお願いして作ってもらうことが多いし、そういうやり方が楽しいんですよね。なのでBIOTOPEの作品作りも、もちろん僕らのコンセプトやアイディアですが、それをいろいろな人と一緒に作っています。なので、僕らが普段リスペクトしている方々に頼むことが多いですね。

——お2人の作品はファッションの要素も強いですよね。ファッションも以前から好きだったのですか?

A:はい。学生の頃からファッションもアートも好きだったんですが、専門学校ではグラフィックデザインの勉強をすることにしました。グラフィックデザインは、全部平面で考えられて、ファッションともアートとも地続きになっているから、グラフィックをやっておけばじゃないですけど、それをやることで可能性が広がるな、と。

Y:僕らの好きなグラフィックデザイナーって、仲條正義さん、服部一成さん、COMME des GARCON(コム・デ・ギャルソン)の制作物のデザインをされた井上嗣也さんのような、ファッション界でも注目されながら、グラフィックデザイン界でもアカデミックに活動されているような人達なんですよね。なので、ファッションへも必然的に関心が向いていました。

——PARCOもファッションと繋がりが深いというか、むしろ昔からファッションを発信し続けている場所ですよね。そんな場所で展示が決まった経緯を教えてください。

A:去年の9月にイタリアに行ってITSの審査が始まったんですが、飛行機が欠航になったり、作品が一部届かなかったりして、私達結構傷つきまくってたんです(笑)。そんな中、ASHUの中西さんからPARCOでの個展の提案をしませんかとご連絡をいただいたのがすごく嬉しくて。「沁みるなぁ」と。

Y:沁みたよね。企画書を作って提案して、決まったのは年明けくらいでした。

A:昔の渋谷PARCOって、地下に本屋さんがあったじゃないですか。あの本屋さんで見られる本がすごく好きで、学生時代によく通っていました。そういう思い出のあるランドマークで展示ができるのはやっぱり嬉しいです。

Y:PARCOの本屋さんすごく良かったですよね。海外のファッション誌やアートの本もたくさんあって、僕もよく足を運んでいました。

——PARCO出版の本も面白いものがたくさんありましたよね。では今回の展示の世界観はどうやって作っていったのかを教えてください。

Y:まず最初の着想は、手書きのイラストレーションなんです。“ここのがっこう” に通っている時に、中学生以下の子達に向けたファウンデーションコースがスタートするので、僕らにアートディレクションをしてくれないかというオファーを山縣さんからいただいたんです。そこでまず、目がついているキャラクターのようなイラストレーションを作りました。単純で、誰にでもわかって、排他的じゃなくて、というのがデザイン背景にあります。その時の作品から派生したのが今回の展示のモチーフにもなっています。起点になったものが告知物というのも僕ららしいというか。

A:そこに、ファッション、グラフィック、アウトドアみたいな自分達の好きなものをつなげていく過程で、島というコンセプトを思いついて。

Y:僕らにはアウトドアとキャラクターが融合した服が先にあったので、それを着ている人達がいる場所を想像しました。ディズニーランドみたいなところって、みんな当たり前のようにキャラクターの耳をつけたりするじゃないですか。その感覚で、僕らの作った服を着るのが当たり前な島がこのBIOTOPIAです。ピーターパンの世界観や、国立公園をイメージしたりして。

A:展示会場は、その架空の諸島の本島にある展望台っていう設定なんです。グラフィックの人間なので、販売グッズも観光地のお土産屋さんによくあるポストカードを作ったり、浮き輪のパッケージもお土産っぽくしました。それと、国立公園とかにあるリーフレットもこだわって作らせてもらったんです。

——確かに、観光地のお土産屋さんにある感じそのものですね。このリーフレットも、昔のテーマパークの地図みたいです。

Y:まさにそういう発想で、昔のパンフレットを参考にしたり、モデルにしたい年代や地域をリサーチして、その空気感を作っていきました。音楽もコラボレーターさんに作ってもらって、告知物のデザインは全部自分達でやらせてもらいました。

——今回どうしても作りたかったグッズなどはありますか?

A:特にコレが!というわけではないんですが、私達がこれまで作ってきた服は、一般的な服より150%くらい大きいスケールのものが多かったんですが、今回は、中くらいのものから、ビーズみたいな小さいものまで、私達のオリジナルの形がいろんなサイズで実際のモノになっているのが嬉しいです。

Y:そうですね。今までは大きなショーピースとTシャツのみだったことが多かったんですが、今回はショーピースのエッセンスを持ちつつ、みんなの手に届くものが作れたのが良かったです。

——では最後に、お2人がアーティスト活動をする上で大切にしている考え方や指針などはありますか?

Y:押し付けないこと、かな。

——それはオーディエンスにもコラボレーターにも?

Y:そうですね。時間も、クリエイティブの自由度も、一方通行ではいたくないなと思います。性別や年齢を問わない表現。広告デザイナーでスタートしたのが大きいと思うんですが、作る側も見る側も、みんながハッピーになるものを作りたいですね。

A:ですね。

WELCOME TO BIOTOPIA
会期:〜6月19日(月)
場所:PARCO MUSEUM TOKYO(東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 4F)
入場料:500円