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Life beyond style

彗星の如く現れた香水ブランド「BYREDO(バイレード)」は、香水の領域を超越している。 アマチュアバスケットボール選手が夢半ばにして出会った香りというアート。 当時を苦しくも美しいと振り返るBYREDO創設者、ベン・ゴーラム(Ben Gorham)の創造の根源を探る旅へ。

 

——BYREDOの始まりとは?
香水を大学で勉強をしたわけでもないし、そういった背景もないんだ。25 歳の時にバスケットボール選手を辞めてから、 アートスクールでファインアートを専攻して、 ペインティングや彫刻などのビジュアルに焦点を当てた授業を受けていた。卒業する頃に調香師に出会ってから、香水という「見えないアート」に衝撃を受けたんだ。色々な感情を非視覚的に表現しているということに。それから、調香師のサポートを受けながら、ある記憶を香りに変換するクリエイティブプロジェクトを始めたのが、BYREDOの土台となっている。 このプロジェクトから香りにのめり込んでいって、「BYREDO」をブランドとして立ち上げようと思ったんだ。これが2007年の初めの頃。

BYREDOは古い英語の「by redolence」に由来していて、「香りが思い起こす」という意味があるんだ。シェイクスピアの言葉にもある。人が持つ感情のほとんどが、シェイクスピアの物語に描かれている。そこから感情の根源を学び、香りを落とし込んでいるんだ。

——シェイクスピアの特定の物語から着想を得た香りはある?
直接的に再現した香りはないけれど、シェイクスピアの 「物語を伝えるという精神」は取り入れている。それから、 良い悪い、生と死などの「二面性」は、BYREDO のプロダクトのテーマとなっている。例えば、「eleventh hour(最後の瞬間という意味)」 は 、「終わり」という考えをモチーフにしていて、海が終わりを知っているという考えを表現したんだ。

Cap 参考商品 BYPRODUCT
ELEVENTH HOUR ¥17,100 (50mL)
Shirt ¥46,000 th

——自身のルーツがブランドに影響を与えていると感じますか?
インド人の母とカナダ人の父の間に生まれて、11歳までスウェーデンで育って、その後はトロント、ニューヨークと移り住んだ。インドの家庭にはお香や香辛料などの香りが身近にあったから、僕の中の香りのパレットは幅広い。DNA がそう語っているのかもしれない。BYREDOのほとんどが現代的なスカンジナビアの美学に寄っていて、実際の着想源や香り、魂はとてもインドらしくなっているんだ。

——インスピレーションを香水に昇華する過程は?
初期は、レファレンスを集めて香りを作っていく方法だった。生の原料が保管されている図書館で、香水製造の知識を深めていくうちに、コンセプチュアルで抽象的なアプ ローチで架空の物語を模索するようになっていった。

——香りやそれを呼び起こす記憶、感情は人それぞれ。それをどのようにしてかたちにしていくのでしょうか?
確かに香りとは、とても主観的だ。BYREDOではまず、「思い出の集合体」を決める。自分の思い出と相互に作用して、主観的な方法で自身の中を模索し考える。だから「日本」がテーマだったとしても「日本」と感じなくてもいいんだ。考えるきっかけを作り、自身の思い出を探る香水だった。これが「思い出の集合体」の仕組み。ブランドとしてこの仕組みが、人々を魅了することだと立証されたからこそ、ここまでブランドが成長できたんだと思う。

Shoes 参考商品 BYPRODUCT, Hoodie(Coat)¥99,000 MINOTAUR
Bag 参考商品 BYPRODUCT

——香水だけではなく、他の分野にも活動の幅を広げていますね。
BYREDOはブランドとしてあまり「理性的」ではないんだ。ビジネスとして商業的な流れの中にいるのだけれど、僕がブランドの舵を握って自由に航海できている。香水にまつわる細かいレザーグッズは長年作っていて、レザーにとても興味が湧いてきた。旅に出ることが多いから、トラベルコレクションを作ろうと思ったんだ。「旅」はBYREDOにとって重要な限りないインスピレーション源だね。多文化的な背景があるから、文化を融合させることに心が躍る。トラベルコレクションは、ブランドがいろんな機能を持った「ハウス」になることができるんじゃないかと思うきっかけになった。香水とは別のカテゴリーで細部に気を配った高品質のプロダクトを作れるハウスにね。そういった意味でハンドバッグは香水とは似て非なるものだから、一つのことだけでなく他のこともできるブランドだと証明 することができたんだ。ブランドとしての骨組みを見つけるいい機会だった。

“全てにおいて、創造には意味があり、創造的価値、感情的価値が生まれるものだと思っている”

——ファッションブランドとの似ている点、違う点は?
全てにおいて、創造には意味があり、創造的価値、感情的価値が生まれるものだと思っている。品質や細部にこだわって作る過程は似ているけれど、ファッションのサイクルとは違って比較的ゆっくり作っている。香水にしろ、 バッグにしろ、100年後も使えるプロダクトにしたいから時間をかけているんだ。そして、物語にも時間を費やすからね。

——BYPRODUCTについて教えて下さい。
続きだけれど、今回は少し理性的に挑戦したんだ。ビューティーとハンドバッグの間にある何かに着目した。ナイフや毛布、スニーカー、スーツに至る様々なものを合理的に捉え 、意味のあるものにするためのクリエイティブなフィールドで、試みの場所でもある。組織やチームの様々な試みに基づく感情も大切にしている。第一弾は、僕のプロバスケットボール選手としての挫折をテーマにしている。選手生命の終わりからBYREDOの始まりを表現するのに、10着のスーツとキャップ、スニーカー、バッグをデザインしたんだ。

パリでのプレゼンテーションでは、アマチュアの若い選手がプロになるための契約交渉をするNBAドラフトの夜を再現した。バスケットボールのアマチュア選手として夢のような場所だけど、夢を手に入れられるか、失うかが決まる場所でもある。

そして、僕はそこで20年以上追いかけ続けた夢を打ち砕かれる経験をしたんだ。そしてBYREDOが始まる。僕にはとても意味のある、美しい瞬間だった。

今回のプレゼンテーションは、ドラフトに参加した2003年当時を想起させるカッティングやシルエットを意識したスーツはとてもアメリカらしいテーラリングになっている。それからドラフトで指名された選手はチームのキャップを渡されるのだけれど、今回のコレクションにもいろんなカラーのキャップが登場している。それから、 ファッション業界に新しいボディータイプを持ち込みたい と思ったんだ。昨今のランウェイでは、みんなほとんど同じに見えるし、国籍も民族性も似通っている。だから、大きくてたくましい彫刻的価値を見せたかった。今回はプロバスケットボール選手をキャスティングしているんだ。

プロダクトにあるグラフィックは M / MParis がデザインしたシンボルで、「Weeping Sunset(涙する夕日)」と言う人もいるけれど……力強いビジュアルがBYPRODUCTのアイデンティティとして必要だった。BYREDOが柱として、 BYPRODUCTは何か違う意味を持たせたかったから。

M / MParisに自分のアイデアを渡したところ、参考にするどころか別のものが上がってきたよ(笑)。でもそこが天才的なところなんだよ。聡明で、多方面での経験があって、コラボレーターでありながらも僕のメンターでもある人。

——美容業界にとどまらず、いろんなことに挑戦していますね。
一つのことにとどまることができないんだ。シェイクスピアの物語にいろんなキャラクターの複雑さがあるように。僕は専門教育を受けているわけでも、それを後押しする背景があるわけでもないから、いろんなことができると幼いながらずっと感じていたんだ。BYREDOが自分らしさをかたちにしてくれている。

社会にはいろんなシステムがあって、この10年でそれが崩れ去ると言われている。ヴァージル(・アブロー)も Louis Vuittonのほかに、いろんなことをしている。多分野に関わるということが普通の時代になっていく。それは自分の表現方法が重要になってくるということ。いかに独創的であるかがね。

ある日読んでいた記事に今存在する10のうち8つの職が15年後になくなると書かれてあった。二人の娘がいるん だけれど、一体何を教えていいのやら……。でも、一つ言えるのは、創造力と自信、思いやり、自然と人間性を植えつけてあげること。幸せは創造力からなるというのを信じている。絵を描く意味ではなく、心を開くこと。見て感じとる力、そして自身が物事を変えていく自信、自分をどう表現するか。これが将来重要になってくるんじゃないかな。

——5年後、10年後のブランドの未来をどう見ていますか?
いろんなプロジェクトに巻き込まれていくことかな(笑)。 タイムレスなブランドになっていく力は十分にあるブランドだと思っている。そして僕以上になっていって、ビジネスとしても成長して、人々に刺激を与え続けられるようになっていってほしい。

——ずばりマーケティングとアート、理論と感性、どちらが重要ですか?
どちらも重要だと思う。そのバランスと安定が重要。マーケティングはできるけど、アートという芯がないと長くは続かない。世の中はマーケティング重視になっているけれどね。情報過多な社会がヴァーチャルな世界と釣り合うためには、実際に触れられる有形のものが必要だと思う。マー ケティングとその文脈は成長する一方で、うわべだけか、 そうでないかが試される時代。娘はスマートフォンで育っ てヴァーチャルの世界にいるけれど、現実世界で実際にものを作っている。分極化した世界を僕達は今彷徨っている けれど、きっと今僕たちの作っているものは続いていくと信じている。そして持続可能な社会に向かっている。

BYREDO
公式サイト