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Life beyond style

©︎LOUIS VUITTON

2024年はラグジュアリーワークウェアの年だ。これまでファッションブランドがワークウェアを取り入れていなかったのは、それまで何らかの正式なインビテーション待ち状態だったから、というわけではないが、ファッションブランドによるワークウェアへの熱狂は2024年になってから見られるようになっている現象だ。

ターゲットとなったワークウェアブランドはまずTimbs、そして次がデトロイト発祥のCarhartt(カーハート)だ。ただ、Timberland(ティンバーランド)に関しては正式なコラボレーションという形で6インチブーツのリミックスが作り出されたのに対して、Carharttに関してはコラボレーションではなく、ラグジュアリーブランドが一方的にその特徴的フォルムを借用しているのが違いだ。

ラグジュアリーブランド側からすると、この借用は、模倣ではなく、オマージュという主張になるのであろう。あるいはその両方なのかもしれない。しかしその動機の少なくとも一部に、Carharttがカルチャーに残してきた偉大な足跡に対する敬意があることは確かだ。

ファレル(Pharrell)が元祖をよく理解している点は誰もが知るところだ。2024年秋冬コレクションにTimberlandのブーツと共に登場したLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のチョアコートは、単に何となくCarharttを思わせるという程度のものではなく、Carharttの永遠の力をコード的に表現したものであった。

©︎LOUIS VUITTON

兄弟格のPRADA(プラダ)やMiu Miu(ミュウミュウ)もやはりワークウェアに熱を上げている。

PRADAの2024年秋冬、2024年春夏コレクションはいずれも、カット、スタイル共、オリジナルに極めて似たCarharttコートが満載であった。シングルボタンのポケットフラップも採用され、風合いを柔らかにするストレス加工でレトロなCarharttジャケットのヴィンテージ感も再現されていた。

Miu Miuのワークウェアにもやはり洗いざらしの風合いが見られるが、PRADAと全く同じかというとそうではない。

PRADAが大人路線のクラシックなチョアコートを見せたのに対し、Miu MiuはCarharttのフード付きアクティブジャケットとペインターパンツ姿のモデルが前かがみに歩く若者路線と、そのスタイルは実に対極的であった。

©︎PRADA / WILLY VANDERPERRE

CarharttのジャケットはFENDI(フェンディ)にも登場した。FENDIもまた、ラグジュアリーブランドでありながらワークウェアに魅了されている。またVALENTINO(ヴァレンティの)からも、フード付きデニムジャケットが登場している。

Carharttジャケットを発表している。sacai(サカイ)もまたCarharttとパートナーシップを結んでいる。この2例は、ファッションブランドが単独でCarharttのようなジャケットを作ったのではなく、Carharttとの実際のコラボレーションでリミックスジャケットを手がけた珍しいケースだ。

いずれにせよ、Carharttのジャケットへの需要は、突如として圧倒的に高まっている。

しかし「Carharttのジャケット」とはそもそも何か。

「Carharttのパンツ」であれば、それは基本的にダックキャンバスのダブルニーパンツのことを指す。一方Carharttのジャケットには、厳密に言うと3つの種類があるのだが、全てワークウェアとしてまとめて認識されている。

©︎MIU MIU

その3種類とは、まずデトロイトジャケット、そして腰まであるアイゼンハワースタイルジャケット、そして前述の、ジップアップのフード付き労働用ボンバージャケットとも言うべきアクティブジャケットだ。

また外側にパッチポケットが4つ付いたワークウェアの真髄、OGチョアコートも「Carharttのジャケット」に含まれる。

Carharttのジャケットにはいくつかの共通点がある。胸の部分にCarharttのパッチが縫い付けられている点、そして襟のある2種類に関しては、その襟の部分にソフトなコーデュロイが使われコントラストを効かせている点。また、Carharttならではのオレンジがかったダックキャンバス生地を使ったモデルが特によく知られている点だ。

形と素材の組み合わせが特徴的なこれらのジャケットが、まとめて、あるいは単体で「Carharttのジャケット」と呼ばれ、知られてきた。

©︎FENDI

色あせたヴィンテージCarharttジャケットの需要が高まっているここ数年は、「Carharttのジャケット」という言葉が文化的意識により浸透してきている。

古着のワークウェア自体は何世代も前から若者文化の定番だ。グランジを思い浮かべる方も多いだろう。しかし、特に昔のCarharttに関心が集まるようになったのは、2019年頃からだ。

©︎VALENTINO

2021年系ファッションbro現象、NOLITA DIRTBAGに、ニューヨーク、ダウンタウン在住の自称クリエイティブディレクターがこぞって、Carharttのヴィンテージジャケットにワークパンツ、SALOMON(サロモン)のスニーカーという装いで、Scarr’s Pizza(スカース・ピザ)の店先に優雅に現れる、そんな画像が多く載るようになった背景にも、Carharttのジャケットの需要の高まりが少なくとも部分的にはあることは間違いない。

一着一着異なるヴィンテージのCarharttはそれ自体が贅沢品だ。擦れの激しいものは特に珍重され、高値がつくこともある。そこに、高級ファッションアイテムの希少性と調和するエクスクルーシブ感がある。

ヴィンテージのCarharttは以前から一種のラグジュアリーではあった。それを究極の次元に至らしめたのが現在のラグジュアリーブランドというわけだ。

また、Carharttの衣類が古着になってもなおきちんとして見えるのは、それが元来作業をするための長持ちする衣類として作られているためだ。色あせもしっかり着込まれてきたことの証。ラグジュアリーブランドが顧客に売り込むのは、磨かれたセンスを分かち合うことの満足感だ。そのため、Carharttのレプリカには、予めストレスがかけられ、柔らかさを出すウォッシュ加工がなされている。

しかしこの元祖(肉体労働でボロボロになるまで着込まれたジャケット)と模倣(職人が繊細に加工をしたMiu Miuのワークウェア)の間には完全な対立関係がある。ゴールドのリベットがあしらわれ、決して作業現場で汗まみれになることなどないLOUIS VUITTONのチョアコートも、分かりやすい矛盾をはらんでいる。

Carharttのジャケットは、端的に言えば、リアルな人がリアルな生活の必要性の中で実際に着るリアルな服だ。

Carharttを模倣した高級品は、少なくとも元祖Carharttと同じ意味におけるリアルな服ではない。お馴染みのものであったはずのワークウェアの珍重視。そんな皮肉を真摯さに変えるかのように、重厚な価格が付いている。

それはまさに、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のスタイルだ。

とはいえ、高級ブランドに長い間インスピレーションを与えてきたCarharttのオリジナルアイテムが、良さを失うことはこの先も決してないだろう。ヒップなヴィンテージ志向集団は遥か昔からその魅力を知っていた。それを、つまりCarharttはラグジュアリーなのだ、という事実を、ファッションブランドがここへ来てようやく認めたというだけのことなのだから。