style
Where the runway meets the street

7月、エディ・スリマン(Hedi Slimane)は 「The Dancing Kid」 と題した動画で「CELINE(セリーヌ)」の2021年春夏メンズコレクションを発表。フランス、マルセイユのレーストラックで撮影されたこの動画はTikTokとInstagramでライブ配信された。ロックダウンの中ソーシャルメディア上で席巻した、にぎやかなポストモダンスタイルに着想を得たこのコレクションは、スリマンによる、Z 世代のe-boyやスケーターへの賛歌だった。オーバーサイズのステイトメントパーカー、バスケットボールショーツ、さらには「夜の奪還の暗喩」だというLEDに飾られたジャケットまで登場した。

CELINEはこのThe Dancing Kidのコレクションについて、外出自粛、自宅隔離を機に、創造的自己主張、自己解放を実現する今の世代を素直に映し出したものと説明している。リラックス感のあるライン、ロゴの主張の強い本コレクションを「エディらしくない」と非難する声も聞かれたものの、スリマンは本作で若者の精神を巧みに描いている。そしてその若者の精神こそが自身の才能の土台であることを、彼はこれまで繰り返し実証してきてもいる。

COVID-19到来前、ライブやクラブ、フェスはユースカルチャーを育む土壌であった。スリマンはこれまでのキャリアを通してずっと、ベルリンのクラブからロンドンのダイブ、カリフォルニアのフェスティバルと、さまざまなユース運動のエッセンスを作品の中で見せてきた。そんな彼が今回注目したのが、2020年インターネットを会場に展開していたダンスパーティーだった。現在の10代から20代前半の若者に中でも盛んに利用されているTikTokだ。

TikTokの掌握は多くのブランドが試みてきたが、それに成功しているブランドはこれまでほとんどなかった。スリマンはCELINEというブランドをTikTokの世界に入れ込むのではなく、今のテイストを作り出す若い世代についての理解に時間をかけ、彼らの世界観と自身の世界観を融合させる方法を見出した。ノエン・ユーバンクス(Noen Eubanks)、チェイス・ハドソン(Chase Hudson)、カーティス・ローチ(Curtis Roach)、アンソニー・リーヴス(Anthony Reeves)といったTikTok界の大スターにもアタックした。いずれも、ラウドでありながら、ある種の繊細さのようなものも感じさせるスタイルが特徴だ。こうしたスター達に、CELINEを身にまとってダンスを踊る動画の投稿を依頼した。使用曲はカナダのラッパーTiagz の代表曲「They Call Me Tiago」の15分拡大版。スリマンがTiagzに特別制作を委嘱したものだ。

フランスのビッグメゾンのクリエイティブ・ディレクターであるスリマンが現在のインターネット文化をこれほどまでに直接的に利用する様子には新鮮なものがある。しかしスリマン自身、オフラインでのミレニアルファッション創世記において、インターネットのアイコン的存在だった。2000年代初め、スーパーフューチャーの‘supertalk’ を始めとするファッションフォーラムのメンバーらは、スリマンの日本製ディオールメンズ19センチメートルジーンズをNikeのティアゼロスニーカーに合わせて熱狂していた。WDYWT(what did you wear today:今日何着た?)のスレッドには、SupremeやKAWS、そして今はなきOriginalFakeなどのTシャツとスリマンのディオールメンズのアイテムを合わせた着こなしで踊っていた。当時KAWSとDIORが公式にコラボレーションをすることなどは不可能と思われた頃だった。しかしその不可能も、2018年、キム・ジョーンズが現実のものとした。

かつて“cool kids” 達のものであったストリートウェアやスキニージーンズ、(Nikeの)ダンクSBなどに、あろうことかハイファッションが惚れ込んでしまい、そうしたものがカイリー・ジェンナーの着こなしに登場したり、「基本」のワードローブとして浸透するまでになった今の時代、スリマンはどんな手に出るのか?

10月にモナコで発表したレディースコレクションでは、女性インフルエンサーのユニフォームの提案役を買って出た。シグネチャーのスレンダーなスタイルを捨て、ボリューム感のあるブーツカットのデニム、オーバーサイズのシャツ、チェルシーブーツにバレエフラットと、スマートフォンが普及する以前の時代のアメリカ中部へと見る者を連れ戻すかのようなデザインだった。「Portrait of a Generation’(ある世代のポートレート)」と題されたこのコレクションでは、メンズショーと比べ、インターネット文化的なデザイン要素が遥かに少なく、ワイルドなヘアカラーも見られなかったが、それでも、がんばり過ぎずにかっこよくあること、好きなものをどこからでも取り入れて融合させること、ミーム動画やサーストトラップ(注意を引く罠のような動画)、バズるダンス動画を楽しむための装いをするなど、Z世代の時代精神を確実に掴んでいた。

2021年CELINEの春夏コレクションは表面的には「あまりエディらしくない」ように見えるかもしれない。しかし一歩引いてみると、彼のデザインが長年にわたってファッション界を夢中にさせている理由が、彼が他の誰にもできないような方法で、反骨精神の正体を突き止め、捉え続けていることにある、ということに気付くことができるだろう。

再生回数やいいねの数によって大ヒットが生まれるTikTokダンスは、これまでの何十年もの間スリマンの創造性を刺激してきた、ギターを叩き壊したりするようなパンクなレベリオンと同じとは言えない。しかし、権力に逆らうような姿勢、退屈に任せてDIYに乗り出す精神は共通している。ロックダウンの真っ只中、コンテンツマンションでリアルのパーティー騒ぎをし、逮捕されたTikTokスターも2〜3人いる。トランプが二期目に当選すればTikTokはアメリカで禁止されるところでさえあった。

外出、イベント通い、クラブ通いができないとなると、デジタルが現実社会と化すのだ。e-boy やインフルエンサー、TikTokスターになることは、2020年の若者の精神を喜んで取り入れることを意味する。スリマンによるCELINEのコレクションは、そのエネルギーの核心を突き、さらにはZ世代というもの、そして彼らの「インターネットのために装いを決める」というポストモダンのスタイル感覚を、ファッションの未来における正規の力として、より確固たるものにした。

メンズコレクションはCELINEのECとブティックで発売中、ウィメンズの展開は2021年2月26日を予定している。