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ブランド:CFCL(シーエフシーエル)

2月16日(水)よりCFCLが伊勢丹・イセタンサローネでポップアップを開催。1階アートウォールでは美術家、磯谷博史の作品が展示。芸術に造詣の深い2人が語るファッションを媒介したアート視点の重要性とは。

——アートという共通点を持つお2人はもともと交流が深く、磯谷さんはCFCLのロゴも手掛けています。出会いからコラボレーションまでの経緯をお聞かせいただけますか。

高橋悠介氏(以下、高橋) 僕が磯谷さんに出会ったのは、大学院の卒業コレクションを撮影してもらった共通のカメラマンの友人に紹介して頂いたのがきっかけです。卒業制作のディレクションみたいなことをしてもらいました。もう15年くらい前になります。

磯谷博史氏(以下、磯谷) 悠介が学生時代に交換留学で通っていた学校の大学院に僕も行く予定で、その頃でしたね。卒業制作をプロのカメラマンに頼んで、アートディレクターを入れて撮影したいっていう意志を持って向かって来て、その熱意に押されて協力したんです。明らかに同級生の中で浮いてて、今思うとCFCLで今作っているものとほぼ同じ、ホールガーメントでニットの作品を作っていた。繊維の組織が建築的な構造だとかそういう会話をしたのを覚えてます。

高橋 うん。それでダンサーに着せて。

磯谷 最終的には裸で服を着てくれって。他の作品との差がありすぎたのか異色すぎて卒業制作カタログの最後に追いやられちゃってた(笑)。

高橋 僕、建築がすごく好きで。作品のヴィジュアル、コンセプトとかも結構現代建築みたいなものがインスピレーションになっていたんです。磯谷さんも元々建築を勉強されてて、フィーリングが合うんじゃないかということで紹介を頂いたんですよね。友達としての仲が長くて、新しくブランドをするっていう時に調べていった結果、磯谷さんにやってもらうのがいいのではないかということでお願いをしました。

磯谷 悠介は自分のアイデアとかコンセプトをただ具現化してもらうっていうのはあんまり面白がらなくて。対話した結果どこか違うところに着地させるとか、彼のアイデアを膨らませて全然別のものになったとしても面白ければ良いみたいな。だからグラフィックデザイナーにヴィジュアライズしてもらうだけじゃない何かを期待してたんじゃないかと思います。

高橋 ニットっていうアイテム自体がどうしてもカジュアルな印象を持ちやすい素材だと思うんですよ。でもCFCLにおいてはオケージョンにも対応できるような品格を持ち合わせたいと思っていた。磯谷さんにはロゴだけじゃなくて、名刺から下げ札、折りネーム、ハンガーからシーズンのヴィジュアルまで全部ディレクションをお願いしたんです。それは、磯谷さんの作るものの緊張感みたいなところが好きというか、アートに近いデザインにしている印象があって。ブランドの空気を作るのに非常に重要なんじゃないかと思ったという経緯があります。

磯谷 着る人によって完成する彼の服は、だれが着るかも含めて身体に依るという建築的な部分があって、そこが僕が最も共感したところ。どんな作品でも体験であって、解釈の幅や広がりが大切な点は僕と共通している部分かなと思っています。

——『イメージの入れ物』展についてお聞きします。この名前の由来と、CFCLとのコラボレーションにあたりどのようにアプローチしたのかお聞かせいただけますか。

磯谷 洋服を器と見るCFCLに対して、僕の作品は観客の想像力やイメージ(図像)の入れ物です。そこに観客が何を入れるかとか、どういう風に使うかというイメージを持って、タイトルとしました。最初のCFCLの立ち上げのコンセプトヴィジュアルも今回作品化しています。洋服をまさに器として撮影したものなのですが、衣服と人間の関係がすごく象徴的だなと。

——『花器』は足を花器に見立てているのですか。

磯谷 これは、僕が寝転がって足を空中に上げてるんですね。足の裏に花を置いて写真を撮ってる。1メートル30センチくらいの大きな作品なんです。ここには、画像に対する付き合い方の変化が含まれていて、普段見ているものが極端に近づいて見える。展示空間においても、小さい作品だと作品に近づいて、大きい作品だと距離をとる。鑑賞者の行動に対して振付するように構成しているんです。空間のなかでどういう体験で見せるかが僕が一番勝負してるところなので。

Hirofumi Isoya Vase 花器 2021-2022 Pigment print, painted frame 96.2 × 133.2 × 4.5 cm Edition 1 of 3

——シーズンヴィジュアルはいつも撮影されてるんですか?

高橋 1シーズンに10枚ほどお願いしています。

磯谷 セーターをレンズに被せて外部を撮影し、体を入れる側と服があって、さらに外側の世界があるっていう構造をヴィジュアルにしてみたり。視点の実験みたいなものを常に2人でしている感じです。お互いの活動が既にあって、そこに言語を介してないというか。見たことない視点だから良いんじゃないかとか。

高橋 磯谷さんのポイントって、アカデミックな美術感がすごくあるところ。正直一般的に受け入れられにくい空気があるかもしれませんがそれが磯谷さんの良さだし、継続して取り組むことで結果的にCFCLの価値にもつながるんじゃないかと思ってます。最近はファッションとアートのコラボレーションが氾濫していて、一つの流行りになってしまっているように感じます。CFCLとアートとの絡みをそういうムーブメントの一つとして認識して欲しくない。だからその空気を作る意味では良いなと思ってます。以前、伊勢丹サローネで展示した時にはエルムグリーン&ドラッグセットの作品を並べたのですが、現代アートの文脈を意識的に紐付けたかった。

磯谷 100年ぐらい前にデュシャンが視覚的な刺激を主題とする網膜の美術を批判して、概念を主題とする芸術へパラダイムを動かしていった。現在のファッションとアートのコラボレーションっていうのは、そういう意味では視覚性に依っているものがたくさんある。全然違う戦略を持つっていうのも悠介くんたちには良いかもしれない。

——磯谷さんは、時間軸を変えたり反復のイメージの強調でメソドロジーを変えながら見るものの既成概念に揺さぶりかけるというようなことを行ってこられています。そこにはどういったメッセージや問題提起が込められているのでしょう?

磯谷 長い時間軸で考えていて疑問に思ってるのが、20世紀の初めに近代の情報が完成されていって……分かりやすくいうと時計とかね。そういうものによって自分たちの身体が持っている時間が消滅しちゃったんですよね。みんなが時計という便利な時間単位で動いていますが、それまではそうじゃなかったわけですよ。このように、あらゆることに標準化されるものが出来ている。時間や寸法、洋服ももしかするとそうかもしれない、パターンというものがそこに出来ていて、そうじゃないものをもう一度発見したいなというのが一番大きいところです。視覚的インパクトを優先した表現のほうがアートの世界でもお金に代わりやすいんですが、ファッションブランドとコラボレーションする、記録的な高値をマーケットで出すっていうのは、資本主義を制度的に強化していて、強いシステムを更に強くする方向に表現で加担するっていうのはなんかあんまり面白くない。

Hirofumi Isoya Shadow Makes Light 影が光を生む 2020 Pigment print, painted frame 96.2 × 133.2 × 4.5 cm Edition 2 of 3
Hirofumi Isoya Measuring Things 測る方法 2018 Pigment print, painted frame 25.2 × 35.3 × 3 cm Edition 2 of 5
Hirofumi Isoya Certain Grounds ある事由 2014ー2019 Pigment print, painted frame 24 × 35.3 × 3 cm Edition 2 of 5

——既存のシステムを壊して新しい基準を作りたい?

磯谷 それは難しいと思うんですよね。どっちかっていうとスパイ的な、そういうものを滑りこませていくようなことをやりたいかなと。真っ向から勝負しても勝ち目はないんで、コミュニケーションを距離感を持って淡々とやっていくしかないのかなと思ってます。“誰か”にしか出来ない技巧的な価値を自分の作品に入れたいわけじゃなくて、誰もがアクセスできるようなツールを使いながら、また別の視点を持って欲しいなという風に。

——高橋さんは、服=体の器という概念が主軸にあり古臭く感じずに着られる服というのを心がけて作っていらっしゃいます。これまで3シーズンを振り返って発展したり変化したと思うところはありますか?

高橋 ファッションはシーズン性が求められるものではあるので、シーズンごとにみると相反するところがありますね。デビューシーズンはとにかくニュートラルな世界観を心がけていましたし、セカンドシーズンは秋冬のニットという概念をどのように拡張するかを考えた時に構築的・建築的なニットを作ることからはじめました。なので、今季を初めての春夏シーズンと捉え、ニットで春夏の服を作るという非常にハードルが高いチャレンジにおいて、抜け感や軽さを色鮮やかさで表現したり。そういった大きな課題を乗り越えながら、手を打ちながら考えるっていう感じなんです。 今、服を作りすぎてるって言われてる中でCFCLの存在意義を考えた時に、CFCLの服を多くの人に着ていただくことで世の中が良い方向に向かっていくという自負がありますし、常に時代に必要とされる服を作ろうと思っています。世の中にないものを作るっていう気持ちがある。そこをぶらさずにやっていこうと。

——2030年までのカーボンニュートラルを目指すなど強い推進力によるメッセージは届いていると思います。

高橋 SDGsに関心が集まっている時代の影響もあり、CFCLの存在もその文脈で捉えられることが多いですね。元々は新しい価値観とか見え方みたいなものを、現代アートを学んできた知識を生かしながら応用してその世界観を服に投影するというアプローチがベースにあるんです。上の世代や社会へのアンチテーゼを掲げるファッションブランドが多いと思うんですけど、CFCL では“社会の基盤を作る”みたいなイメージからスタートしていて。それは、さっき磯谷さんが話していたように、今ある社会自体に何か違和感があるんじゃないですか、と問題提起するのが従来の手法であるところ、美しく社会を批判する手法で伝えられたらと思ってるんですよ。 例えば、絶滅危惧種の生態系を人間が破壊するというストーリーをユーモアを以って批判するペンギン・ カフェというバレエダンスだったり、ゴミや油が浮かぶ川面を美しいと捉えたアンドレアス・グルスキーの写真(「バンコク」シリーズ)といった雰囲気をイメージしていて。

磯谷 ポップカルチャーが視覚的な強度で人を惹きつけながらも内容は社会に対しての批評性がこもってるっていう感じだよね。ポップ・アートの作家が企業の広告を地面に作って、大きな作品に企業は喜ぶけれど実は翌日から人々が踏みつけていく、というような。

高橋 ウォーホルなどのポップ・アートの作家は死や消費に対する危うさみたいなものを表現してるけど、ポップアートっていう言葉自体が一人歩きしてしまっている。

——お二人とも国際的な視点をお持ちですが、諸外国と比較して日本に対して危機感を持つ差異ってどういったところですか?

磯谷 日本の中で権威化されてるシステムや、閉じたマーケットが地続きになってない感覚はあります。日本で成功して、世界で成功するっていうステップが暗黙にある感じがあって。アーティストが作品を見てもらうことには本来なんの順序もないですよね。でも行っちゃいけないような空気を感じる。暗黙のプロセスを飛ばされたと感じる人がいたり。

高橋 ファッション業界も全く一緒で、日本で成功しないとパリに行けない風潮はありますね。日本で受け入れられることが必ずしも世界で評価される訳ではないので、やはり同じことをやってるだけじゃ難しいと思いますよ。でも一方で世界が求める日本らしさみたいなものもあって。パリという舞台で表現したいなと思います。

磯谷 同時性がある中で、あたかも海外を知らないふりして作っても変だし、向こうがこういうものを求めてるんじゃないかってあまりに意識して日本日本っていうのも時代的に違うと僕は思う。フラットな態度で表現ができるようになると、ようやく自由になれるのかなと思って。だから高橋悠介は日本人だったんだねっていうぐらいになって欲しい。日本人だからというのではなくて。

高橋 次ヨーロッパに挑戦する時点でCFCLのものづくりとか視点がインターナショナルにならないといけないとは思います。

——次に2人でどんなことがしたいですか?

磯谷 僕ら一緒に旅行してるんですよ。だからまずはCFCLのパリコレに一緒に行って、視点の実験を続けたいですね。

 

CFCL VOL.3 POP UP
会期:2月16日(水) 〜 22日(火)
会期場所:ISETAN SALONE(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン・ガレリア1F)
営業時間:11:00 〜 20:00

磯谷博史展示 『イメージの入れ物』
会期:2月16日(水)〜 3月1日(火)
会期場所:イセタンサローネ 1Fアートウォール

磯谷博史
1978年生まれ。美術家。東京藝術大学建築科を卒業後、同大学大学院先端芸術表現科および、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、アソシエイトリサーチプログラムで美術を学ぶ。彫刻や写真によるインスタレーションを通して、事物への認識を再考している。2019年『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』(ポーラ美術館)や『六本木クロッシング2019:つないでみる』(森美術館)に参加。作品はポンピドゥ・センターやサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)に収蔵されており、2017年のアルル国際写真フェスティバルでのポンピドゥーのコレクション展『Le Spectre du Surréalisme』や、昨年パリのポンピドゥ・センターで開催された『L’image et son double』で展示される。現在、サンフランシスコ近代美術館で来年8月21日まで開催されている『Constellations: Photographs in Dialogue』に参加している。

Yousuke Suzuki

高橋悠介
1985年生まれ。CFCL代表兼クリエイティブディレクター。文化ファッション大学院大学修了後、株式会社三宅デザイン事務所入社。2013年よりISSEY MIYAKE MENのデザイナーに就任。2020年に株式会社CFCL設立。2021年第39回ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞及びFASHION PRIZE OF TOKYO2022を受賞。