ファッションウィーク中のニューヨークにいると、マンハッタンのセンター・ストリート沿いに、CHANEL(シャネル)の店舗によく似た建物を見かけることがあるかもしれない。しかし、それは実際にはCHANELではなく、店内にもCHANELの商品は一切売られていない。厳密に言えば、服すら置いていない。ずらりと並んだジャケットやバッグ、そして靴やジュエリーは、全て廃棄物や端切れなど不要になった素材を使って手作業で制作された彫刻作品なのだ。

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「31 Rue Cambon」と題されたこのインスタレーションを手がけたのはトム・サックス(Tom Sachs)。DIYデザインの要素を取り入れたアーティストとして広く成功を収め、近年再始動したNikeCraft(ナイキクラフト)レーベルなど、Nike(ナイキ)との長年にわたるコラボレーションでも知られる人物だ。ダウンタウンにある自身のスタジオ内に設置された「31 Rue Cambon」は、クリーム色の日よけや鋳鉄製の門、ベージュのカーペットや鏡張りの壁、そして柔らかい光が差し込む窓に至るまで、パリにあるCHANELの有名な旗艦店を再現している。

店内に足を踏み入れれば、一見見慣れた空間のように感じる。キルティングバッグやスリングバックシューズ、コスチュームジュエリーの横には、ブークレのスーツがラックに並んでいる。しかし、目に見えるもの全てに騙されてはいけない。ジャケットは合板を削り出して作られ、バッグは段ボールから組み立てられ、ジュエリーはラインストーンとレゴを組み合わせて作られている。

展示されている31着のジャケットは、ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)やオリビア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)からマージ・シンプソン(Marge Simpson)まで、名だたる著名人が着用したCHANELのルックをそれぞれモチーフにしている。オープン前日に開催されたプレス向け特別プレビューで明かされたところによると、サックスのお気に入りは、ココ・シャネル(Coco Chanel)が1960年代に着用していたアイボリーのジャケットだそう。そのブークレの質感は、白い塗料を削り落とし、その下にあるざらついた黄色の層を露出させることで再現されている。

あらゆる不完全さは、サックスの制作活動においてはいつもの通り、敢えて残されたものだ。縫い目や工具の跡、むき出しの縁、凹凸のある表面を隠すのではなく強調し、それぞれの作品の構造をありのままさらけ出すことを意図している。それは完成品と同じくらい、手作業のプロセス自体に重要な意味があるからだ。CHANELは通常、完璧な仕上がりによってそのような手仕事の工程を隠しているが、サックスはその痕跡を前面に示している。

ラグジュアリーメゾンと彼との “関係” ――とは言え、「31 Rue Cambon」はCHANELから公式に承認されているわけではないが――その歴史は、30年近く前までさかのぼる。

1998年、サックスはCHANELのロゴをあしらったギロチンを制作し、メゾンの保護に厳しいことで知られる弁護士達を “激怒” させた。しかし、当時のクリエイティブ・ディレクターだったカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の反応は、予想外のものだった。

サックスの作品の写真を一目見たラガーフェルドは「すごく気に入った」とコメントしたと伝えられている。

CHANELの店舗は、サックスが自らの独創性の限界に挑み続ける彼の意欲を如実に表した例である。

ある日は “つまらない” 靴、次の日にはセルフィー映えするポップアップ体験などで、見せかけのラグジュアリーと消費文化への批判を展開する。大衆性と高度な知識の鮮やかな融合。それこそがトム・サックスなのだ。