style
Where the runway meets the street

Highsnobiety / Thomas Welch

27歳にしてすでにストリートウェアカルチャーのベテランと化しているCHINATOWN MARKET(チャイナタウンマーケット)のマイク・シャーマン(Mike Cherman)。UNIVや5&A Dimeをはじめとしたサンディエゴの主要なショップやニューヨークのProhibitなどで働いた後、パーソンズ美術大学時代にプリントラボで温めていた構想をもとに、ゲリラ的なポスターキャンペーンを立ち上げ、ジェフ・ステイプル(Jeff Staple)と共に事業化した。賛否両論のシャーマンだが、どんなに厳しい批判を受けても彼のスマイルフェイスは揺るがない ―― そう、ブランドのスマイルも。

アメリカ・ロサンゼルスのSix Ounce Studioは落書きだらけの建物の中にあり、建物の北側には高速道路の10号線、東側には水のないロサンゼルス川が見える。そんな建物の中が新進気鋭のブランド、CHINATOWN MARKETの拠点となっている。入るとすぐにそれらしさが漂ってくる。プリントされたCHINATOWN MARKETのブランド名が荷積み台の下にたくさん見え隠れし、6,000ドルするプリントガンも置かれている。その隣にはPrada(プラダ)のロゴをパロディ化したようなビジュアルも飾られ、まさにCHINATOWN MARKETを象徴しているようだ。皮肉たっぷりなアイテムを素早く作り、大手ブランドから訴えられることも恐れない。

中では作業員たちがたくさんの箱を出荷に向け梱包している。外壁沿いには在庫商品が並ぶ。そのほとんどに、ブランドのロゴであるスマイリーが入っている。このロゴも、SmileyWorld(スマイリーワールド)とライセンス問題で揉めているものだ。イギリス・ロンドンを拠点とする同社は、黄色のスマイリーの顔全般に対して何十年も前に商標登録を行っている。SmileyWorldがCHINATOWN MARKETのスマイルを“誤ったもの”と見なし、初期のプロダクトは生産停止に追いやられたこともあった。

Highsnobiety / Gabi Levitt

CHINATOWN MARKETの創立者であるマイク・シャーマンは机の向こうに腰掛け、2人のグラフィックデザイナーの様子を見ている。実際に2人の仕事内容を見ているというわけではなく、また仕事面の細かい部分にまであれこれ気を配るわけでもなく、クリエイティビティ面だけに集中したいと思っている雰囲気が感じられる。メールを送る彼のそばに置かれた本棚に目が留まった。経験上、人が自身のそばに置いている物は、その人がクリエイティブ性を発揮するために必要だと感じているものである場合が多いということを私は知っている。本棚に置かれていたのは、『Slash: A Punk Magazine From Los Angeles』、『Top Graphics』、『The Best of Punch Cartoons in Colour』、『American Trademark Designs』、『The Anarchist Cookbook』などの書籍だ。

ようやく30分の休憩に入ったシャーマンにインタビューすると、自分の功績よりも、抱えるスタッフの優秀さを多く語る。27歳にしてニューヨークのNike Bowery Stadiumでアシスタントデザイナー、KITH(キス)でフリーランスデザイナーを務めた後、自身のブランドICNY(アイスコールドニューヨーク)を立ち上げてクリエイティブ・ディレクターとなった彼は、ファッションのあれこれをすでに経験している。以前はワンマンショー的な態度が目立った彼だが、今ではすっかりチームのトップ、指導者に転身している。

「僕らはストリートウェアにおいての“失われた少年たち”みたいなところかな。スタッフのみんなには自分が通ってきたのと同じ道を通ってほしい。そうすると製品の作り方だけじゃなくて、出荷とか在庫管理、そういうこと全てが分かるようになるから。それから、もっと勉強して向上できるように、少し失敗するチャンスも与えたい」とシャーマンは話す。

Highsnobiety / Thomas Welch

先ほど登場した2人のグラフィックデザイナーは今、この事務所の在庫商品棚を埋め尽くすほどの大量の商品を作るのに忙しいが、シャーマンはマーケティング部門から梱包作業員に至るまで、全スタッフから新アイデアを募っている。現在自分が抱えているスタッフの多くが、いずれは自分自身のブランドのオーナーになりたいと思っていることを理解してのことだ。シャーマンは自社従業員の独立志向に怯むような人間ではない。むしろ自分のブランドが、マイク自身の儲けのために犠牲にしていいような人材で固めた組織でないことは彼の誇りだ。

「いつもみんなには、一生をここでの仕事に捧げるべきじゃないと伝えてるんだ。僕が自分のブランドを最初に立ち上げたときには投資家がいて、競業避止義務があったから、そのブランドに集中するしかなかった」

シャーマンが言うのは、ICNY設立時の話だ。このブランドは、サイクリストたちが無謀な運転をするバイクライダーの犠牲になる事故を防ぐ必要性を説き、American Apparel(アメリカンアパレル)のTシャツやUNIQLO(ユニクロ)のソックスに反射材を付けるという発想をもとに誕生した。ブランドは成功したが、PUMA(プーマ)とのコラボレーションや、セレクトショップのcoletteとUrban Outfittersへの供給問題で、自身のクリエイティビティをその他のプロジェクトへ柔軟に生かすことができずにICNYから退任することとなった。

「あのときはそれまでの人生で一番窮屈だった」とマイクは当時を振り返る。

恩恵は仮装をしてやって来るとよく言われる。それが事実であれば、CHINATOWN MARKETのスマイリーロゴは、マイクが抜け出した暗黒時代に幸運をもたらすものかもしれない。ニューヨークを後にした彼は、これまでと全く異なる冒険を求めてロサンゼルスに繰り出した。

アメリカ・南カリフォルニアといえば、クリエイティブ関係者の多くが現地の生活に根づいているスケートやサーフィン文化に傾倒するが、マイクは幼い頃の思い出の場所、一時は世界の密造酒の聖地にもなったニューヨークのカナル・ストリートへ想いを馳せた。

Highsnobiety / Thomas Welch

「父がファッション業界界隈で働いていたから、自分たちも食事や買い物に行くのにカナル・ストリートを通っていた。子供時代の僕にとってはすごい場所だった。ノートやオモチャのカエル、偽のROLEX(ロレックス)まで買いに行ったりね」

CHINATOWN MARKETのDNAの核は、カナル・ストリートにあるのかもしれない。しかしロサンゼルスは、ニューヨークで決して得られなかったものをもたらしたとマイクは迷わず指摘する。それはすなわち、安価な賃料で借りられる広い物件だ。

「今この会社でやっていることを再現するのは、ニューヨークでは不可能だ。こんなに広いオフィスは絶対に手に入らなかったし、こんなにたくさんの人も雇えなかった」

現在のCHINATOWN MARKETは、ある一つの製品を作ろうというシンプルな発想から生まれた。それはマイクとフォトグラファーのアレックス・ボルツ(Alex Bortz)とのコラボレーションによるものだった。“Fuck you, you fucking fuck”というフレーズをスクリーンプリントしたTシャツを作るという考えで二人は意気投合した。これはマイクが昔味わった驚きの経験を想起させる、ニューヨークへ来る観光客向けのTシャツだが、自身のクリエイティブな姿勢の結晶でもあるという。

Highsnobiety / Thomas Welch

マイクの根底には“Mikey Merchandise”(マイクの商品)という言葉が常に存在していたし、そしてこれから先もきっと存在し続けるだろう。“Mikey Merchandise”とは、高校時代にDIYのTシャツをプロデュースした後に付けられたあだ名だ。そこで、その文字をデザインしてプリントした。反響さえ良ければ最低限投資分の回収くらいはできるだろうと目論み、ComplexConにブースを出展した。CHINATOWN MARKETの成功は一朝一夕でもたらされたものではないが、業界からはDover Street Market辺りでも販売を仕掛けるべきだとの声が寄せられるほど反応は上々だった。

しかしマイクは、世界各国のブティックから注目を得るためにICNYの二の舞を演じるようなことは避けたいと考えていた。今回こそは自分の欲求よりもビジネスを優先しようと決心していた。その結果が、Urban Outfittersとの提携だ。ちょうど私がシャーマンのオフィスを訪ねた日、新作Tシャツの発注を確認しにきていた。このパートナーシップは、マイクを批判の対象にすることとなった。新進気鋭のストリー トウェアブランドの信頼性を揺るがす可能性がある短期的な金銭目的の行為と見なされたのだ。クールであることが最上級の価値を持つストリートウェア業界において、そのように思われることは大いなる痛手だったが、それでもマイクはその強固な意志を曲げなかった。

「自分が目指しているのは、ビジネスをすること。Urban Outfittersのようなリテーラーを追放するのもありかもしれないけれど、そういう企業がこれまでストリートウェア業界にどれだけ貢献してきたかも認めないといけない。彼らのようなリテーラーも、実はすごく良い服を売っているし、とても良いブランドを支援している。ちょうど今、Urban OutfittersではChampion(チャンピオン)のリバースウィーブがどれでも買えるようになっていて、ブランドの復活に一役買っているんだ」

マイクの指摘には一理ある。Urban OutfittersやPacSun(パクサン)、ZUMIEZ(ズーミーズ)らで取り扱われると金銭的利益はある。それと同時に、プロダクトが広く流通しすぎるとマスブランドになったと揶揄されるのも事実である。

Urban Outfittersでは現在、Stüssy(ステューシー)やPLEASURES(プレジャーズ)、BOW3RY(バワリー)、Baker Skateboards(ベイカー スケートボード)といったブランドが取り扱われているが、当然BAPE®(ベイプ)やSupreme(シュプリーム)のアイテムが店内に並ぶことはない。ここで取り扱いのあるストリートウェアブランドの信頼性は失われていないし、独立性も保たれている。ただこうしたブランドの多くは、絶えず良い製品を作り続けている一方、自社ブランドの旗艦店を世界に展開していない点が世界のSupremeやBAPE®と違うところだ。消費者にとっては、そのブランドがどの店舗で取り扱われているのかよりも、服自体の方が重要なのかもしれない。ブランドの流行り廃りを決定付けるのは結局、消費者なのだ。

「ストリートウェアにおいては、エクスクルーシブさや手の届かないものというフィルターが、その真新しさを生み出す要因の半分である」とマイクは分析する。

パロディのようなアイテムは、エクスクルーシブの正反対に位置する存在だ。模造品というレッテルを貼られずに済むような工夫をしつつも、既存のアイデアやデザインに酷似したものを作り出すことを目指している。そのプロセスの鍵を握るのはスピード感だ。

「どんなアイデアも、社内で黙殺されるべきではない。朝の7時までには一つアイデアを出し、昼頃までにはウェブへ掲載、夜7時までには生産、そして翌朝には出荷までを終えるビジネスを運営していきたい」と、マイクは説明する。

Highsnobiety / Thomas Welch
Highsnobiety / Thomas Welch

この効率的アプローチは物議を醸しつつも、そのスピードで成功をおさめ続けてきたCHINATOWN MARKETの代名詞となった。2016年にフランク・オーシャン(Frank Ocean)がアルバム『Blonde』をリリースすると、マイクはその中の収録曲『Nikes』に注目した。そして早速、NIKE(ナイキ)のロゴとフランク・オーシャンの名前を組み合わせたデザインを思い付いた。こうして誕生したswooshfrankocean.comは、一夜にして40,000ドルの売り上げを叩き出した。しかしその後、フランク・オーシャン側から販売停止の通告を受けたため、売り上げの全額返金を余儀なくされた。

「本当にあれはものすごいひらめきだった。『これがデザインへのアプローチ方法なんだ』と思ったよ。何かに対する反応や、そこら辺にあるものでもデザインに落とし込める。それらを組み合わせてTシャツのデザインにして、マーケティングすればすぐにでも売れるんだ」

今年、カニエ・ウェスト(Kanye West)が自身の息子であるカニエ・セイント・ウェスト(Kanye Saint West)を讃えるネックタトゥーをゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)がデザインするという内容をツイッターでほのめかした。そしてこのツイートでシェアされていたデザインを使い、Tシャツへといち早く仕上げたのだ。無料のフォントを使用していたため、もちろん法に触れる根拠は全くなく、ネット上で話題になりそうなこのトピックをいち早く捉え、スピードを武器にし、ビジネスへと転じさせた。「このツイートが話題になる前から、 T シャツの準備やウェブへの掲載まで済ませておいたんだ」

数カ月後、アメリカ・ワイオミング州のジャクソンホールで開かれたカニエ・ウェストの新作アルバム『Ye』のリリースパーティでシャーマンは、ソーシャルメディア上に記念グッズがアップされていることに気付いた。特に注目されていたのが、“KANYE WEST / ALBUM LISTENING / MAY 31 2018 / JACKSON HOLE”とフロント部分に書かれた黒のキャップだった。そこで独自のアイテムを作って販売したところ、公式グッズを扱うBravado社は大きな打撃を受ける結果となった。Bravado社側はこのパーティから程なくして、グッズのウェブ販売を開始したものの、キャップは予定していなかったからだ。

Highsnobiety / Thomas Welch

これまでの成功の中で最も目立ったのは、CONVERSE(コンバース)のハイトップ・チャックテイラー(Chuck Taylor)のアッパーに、スクリーンプリントでNIKEのロゴを入れてカスタマイズしたアイテムだろう。CONVERSEからの公式な同意なしに作られ、一般向けに販売されることはなかったこのスニーカーだが、2018年のNBAファイナル直前にレブロン・ジェームズ(LeBron James)の足元を飾ったのだ。「ああいう瞬間こそが努力が報われる瞬間だよ」とマイクは言う。

CHINATOWN MARKET の初期におけるアイテムの合法性は常に議論の的だが、彼らにアイデアを盗まれると考える他ブランドのことになると、マ イクはとりわけ憤慨する。従来のブランドは数シーズン先行しなければビジネスが成り立たないが、彼らの場合はいつでも好きなタイミングでアイデアを形にすることができるのだ。

「ストリートウェアブランドの模倣はしないし、周りにいる人たちに目線を向けているのでもない。そうではなくて、僕らはいわゆる巨大企業のモンスター、つまりラグジュアリーブランドの数々にオマージュを捧げつつ、それを末端のレベルまで引き下げることを仕事にしているんだ」とシャーマンは断言する。

インタビューの終盤、私は映画『Training Day』でイーサン・ホーク(Ethan Hawke)が演じていた役柄の言う台詞を思い出した。街の人の行動原理を理解しようとしながら皮肉交じりに言う、「笑顔も泣き顔も自分でコントロールしなきゃだめだろ。人間が持ちえる、誰にも奪うことができない唯一のものはそれくらいなんだから」という台詞だ。

Highsnobiety / Thomas Welch

マイクは人間関係が揺らいだことも、ブランドを取り上げられたことも、そして盗作者として責められてきた経験もある。それでもポップアップテントや卓球ラケット、オフィスに置かれるありとあらゆるものにはスマイリーの顔が躍っている。それは、自分の感情の舵取りを行っていることを示唆する事実だろう。今この瞬間も、彼の心中にあるのは、CHINATOWN MARKETをいかに次のレベルへと進化させるかという思いにほかならない。そう、彼自身の方法で。

「このビジネスに投資をして参加したいというアプローチはこれまでたくさんの人から受けているけれど、自分としてはそういうものに頼ることなく、いけるところまで自分で経営していきたい。簡単ではないけれど、それもビジネスを構築するということの一環なんだ。簡単なことをしたいなら、他の仕事に就くさ。」