style
Where the runway meets the street

時代の寵児、BALENCIAGA(バレンシアガ)のデザイナー・デムナ(Demna)がGUCCI(グッチ)の舵を取ることに。GUCCIが再起をかけるこのタイミングで、デムナ自身にも新たなスタートが求められていた。衝撃的なニュースではあるが、非常に理にかなっている。

3月13日、GUCCIはデムナの就任を正式に発表。近年のクリエイティブディレクター就任劇の中でも、ひときわ意外性のあるニュースだった。マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)のCHANEL(シャネル)入りは多少の噂があったものの、デムナのGUCCI行きは? 全くの予想外だ。

デムナは2015年、自身のブランドVETEMENTS(ヴェトモン)でセンセーションを巻き起こし、その後BALENCIAGAのクリエイティブディレクターに就任。以降10年間、同ブランドを再構築したその功績は、誰もが認めるところだろう。(VETEMENTSの名前を覚えているだろうか?)

BALENCIAGA在籍中のデムナが、ファッションそのものを再構築したと言っても過言ではない。

彼が就任初期に発表したBALENCIAGAのインパクト抜群な「Triple S」スニーカーは、スニーカービジネスの流れを一変させた象徴的な存在だ。さらに、デムナの代名詞とも言えるグランジを取り入れたストリートスタイルは、新世代の先鋭的な模倣者らに大きな影響を与え、そのスタイルをひとつのレガシーへと昇華させた。

(ちなみに、デムナのオーバーサイズのパーカーやルーズなジーンズに芸術性が欠けているという意見は単なる高慢に過ぎない。それどころか、彼は新生BALENCIAGAのクチュールでその意見を意図的に利用している)。

デムナがBALENCIAGA在籍中に残した功績を簡潔にまとめるのは難しい。それほどまでに、彼の存在感は圧倒的だった。

彼は、GAP(ギャップ)や『ザ・シンプソンズ』、さらにはGUCCIといった異色のブランドとのコラボレーションを手がけ、そのほかにも、レザー製「ゴミ袋」や腰穿き風スウェットパンツなど、SNSを騒がせたアイテムを次々と世に送り出した。そして彼のファンにはキム・カーダシアン(Kim Kardashian)やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)、ミシェル・ヨー(Michelle Yeoh)といった著名人が名を連ね、その多くは最近、BALENCIAGAのアイテムとしてアイコン化されている。

このようにして、デムナはBALENCIAGAの年間売上をわずか10年で1,700万ドルから20億ドル超にまで押し上げた。

しかし、革新を続けたデムナのBALENCIAGAも、次第にその輝きを失っていった。2022年、物議を醸したキャンペーンによってBALENCIAGAは窮地に立たされ、ブランドは方向転換を余儀なくされた。いくつかの瞬間的なバズはあったものの、デムナのBALENCIAGAは驚くべきことに「平凡」へと変貌してしまった。模倣者や後発ブランドがひしめく中、オリジナルはその輝きを失ってしまったのだ。

ファッション商品検索エンジン「Lyst」が発表した2024年第4四半期の世界ラグジュアリーブランドランキングトップ20において、BALENCIAGAはわずかに持ち直したものの、順位は17位から15位に上がっただけだった。

GUCCIもまた、厳しい状況が続いている。

アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)のもとで絶頂期を迎えたGUCCIは、2022年にミケーレがクリエイティブディレクターを退任後、サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)を新たに迎えるも迷走。そのサルノも今年初めに退任し、売上は2桁の減少を記録している。

ラグジュアリー市場全体の減速を考えれば珍しくはないものの、GUCCIは親会社ケリングにおいて非常に重要な位置を占めており、その業績はグループ全体の命運と密接に関わっている。

デムナの起用は、GUCCIを再びトップに押し上げるために必要な変革であり、ジョージア出身デザイナーの彼にとっても、自身を再構築する絶好の機会となるだろう。

第一印象を何度でも塗り替えられるのがファッションの世界なのだから。