art

4月27日(木)から「Space Traveler」展を控えるアーティスト・空山基のインタビューに向けていくつかの記事を読んでみたところ、あまりに同じような通り一遍の文字列が並んでいて驚いた。デビューから60年を迎えようとしているにもかかわらずその作風は変わらず、衰えず、透明感と輝きを放ちながら時代の圧力を跳ね返すほど普遍的に鮮度を保っている。ジェンダー視点において見て見ぬ振りはできない表現をしてきていることにはあまり触れられず、DIOR(ディオール)やミッキーマウス、1997年発売のロボット犬AIBOなど、ドメジャーなブランドとのコラボレーションをしつつもアンダーグラウンドを匂わせている。稀代の策士か妖怪か。見極めるべく五反田のアトリエを訪れた。

——今日のテーマはフェミニズム視点で行こうと思ってます。

それはまずいね。以前NHKの特集で上野千鶴子さんが来たこともありますよ。いい人だったけどね。

——3年前に “SEX MATTER” というテーマで展示を発表していますね。2018年の#metoo運動に代表されるように第4派フェミニズムの流れの中、オス・メスの境界線をあえて明示した意図をお聞きしたかったんです。

前から描いていたというだけです。展示をそういうふうに編集したというだけで、(NANZUKA 代表の)南塚の笛で踊ってあげただけです。

——ロボット女性の値を用いてセックスの表現をすることで、性差の固定概念を払拭するような役割がありますね。

私が描いているのは女神像ですから。繊細なタッチにしているだけで、本物の肌を描いたらネットにも上がらないからね。

——狙ってやっているんですね。

うん確信犯だよ。光と反射と透明感というのが私のライフワークであって、そういうテーマでやってきてるからね。なぜステンレス、アルミニウム、ブロンズで彫刻を作るんだと言われてきたけれど、昔から彫刻は木とか大理石だとかいろんなモンで作っているでしょう。疑問に持つ方がおかしいと思うんだけど。時代に合ったモン出してどこが悪いんだよ、って思っちゃうね。

——結構、叩かれてきたんですね。

都合の悪い批判は全て無視してきただけです(笑)。そうしないと絵なんて描けませんから。そもそも(初期の作品を指して)あそこにあるのが50年前に描いたものだからね。

——飽きないんですか?

最初のデビューからずっと好きで描いているだけ。だからそれが一生続けばいいと思っているし、食えるだけのお金を稼げれば十分じゃない。これから先にどんなことをしているかなんて自分でもわからない。この先5年の実現可能なことしか計画してない。好きなことするだけだから。

——4月27日からの展示は ”SPACE TRAVELER” がテーマです。人間性の未来をテーマにしているとのことですがどのような内容なのでしょうか。

等身大のセクシーロボットを6〜7点並べて、その奥には、延々と続くアリスの鏡の部屋のような空間のインスタレーションを行います。

——仮想空間に入ったような体感をイメージしたら良いですか?

そう。お客さんが入ったときに虚像と虚像に両側から挟まれてロボットと人間が合体する世界を作りたいなと思って。視覚と建造を生かして本当に体験できる、入れば誰でもわかるっていうインスタレーションです。いずれは卵型の鏡の空間を作りたいの。

——大きな作品にも挑戦したとか。

3面で作り上げた横幅4.2mの作品ね。手描きのイラストレーション原稿を4億画素で複写して拡大しました。でも正寸で出力したものを3つ並べるとバランスが悪くなるので、視覚的に不自然にならないようにわからないように長体をかけたの。これだけ大きい作品は初めてです。複写して、12色のプリンターでキャンバスにプリントして引き伸ばして、プリントが上がってきた時点で、蛍光色を使いました。以前は蛍光色やカラーインクは耐光年数の関係で使うことがタブーだったんだけれど絵の具業界も研究が進んで、「空山さんが行きている間は絶対劣化しません」って。だから補佐的な使い方をしているけれど、アカデミズムでは絶対教えない手法だよね。私、独学だから。

——独学でスキルはどうやって磨いたんですか?

磨いたことないのよ。好きなことしてるのになんで練習がいるのかわかんないの。例えば大谷(翔平)くんなんかも実戦が訓練練習なのよ。毎日楽しいことしてて、練習であっても苦しいって思ったことあんまりないと思うんだ。努力・訓練・忍耐って一切私の辞書にないの。

——昔の人ほど、成功を手にするためには苦労しないといけないような刷り込みがあるものではないですか。

それはB級だね。A級は天然。なんで好きなことをやめなきゃなんないのかがわからない。苦しいと思ったらもう向いてないよ。2万以上の作品を描いているのに未だに質感が描けないとかデッサンが取れないなんて悲しい人生じゃない?作品集は世界で50冊以上出版しているし、展示も100〜200ぐらいはやっているけれど、放っておいてもみんな誘ってくるよ。それは確信犯でもあったけれどね。

——どんなことをしていたんですか?

すべての作品を予め写真で撮ってプリントしておいたんだよね。当時1枚1万円したし貧乏なんだけど、話が来たら即渡せるようにしていたから、相手も重宝して仕事が次々と来るでしょう。印税なんか大したことないんだから向こうにほとんど取らせてもいいと思ってやってましたよ。TASCHEN(タッシェン)の画集は世界中で結構刷られていて、キム・ジョーンズ(Kim Jones)やステラ・マッカートニー(Stella McCartney)も学生時代に教科書で見たって言ってたけれど、画集なんかはフレイヤーとしてばら撒けばいいと思っていたの。デザイナーにも一切クレームつけないしね。エアロスミス(Aerosmith)のCDジャケットが左右反対で刷られたのは驚いたけれど。それでそこそこ売れたら、出版社の上層部は「もう一発行け」となって芋づる式にオファーが来るもん。自分の利益だけを追っかけているのはサステナブルじゃないよね。

——勉強になります。

講義代もらうよ(笑)。私が好きな作家さんを見ていると、みんなロックだなと思って。北斎、ダ・ヴィンチ(da Vinci)、ディズニー(Disney)それから(ジャック=イヴ)クストー(Jacques-Yves Cousteau)。自分の研究とわがままを貫き通すためにイリーガルでもものともしないっていうのがロックだよね。ああいう人の生きざまは眩しいね。

——技術革新や世の中が次のステージに行くためにはそういうイノベーターいてこそなのかも知れないですね。

いやそれは後からいうセリフで、本人は怖いと思うよ。自分欲望というか満足するためだけにやっていて、それをロックっていうんじゃない?そういう生きざまで運ばれる人を尊敬しています。こっちの業界でいうと、例えば宇野亜喜良さんや湯村輝彦さんは同性から見てもセクシーだね。年取ってボロボロになっていても色気を感じる。

——宇野さんのお名前が出たので、春川ナミオさんてどんな方だったかお聞きしたいです。

お尻のフェティシズムを描いてこられましたよね。東京にも個展があってもいつもお忍びでしか来ない。家族も多分嫌がるだろうと思ってずっと隠していたのよ。巨大なお尻に一生をかけたってすごいじゃん。業界としても全然相手にしないから、亡くなってからオマージュとしてギャラリーや家族のためにトランプを作ってあげたの。箱の筆記体は筆で描いたんですよ。

——交流は長かったのですか?

一回もないの。彼の作品集にコメント書いたりしたことはありますけれど。赤字が入れられて俺の文章じゃなくなっちゃっていたけどね。名字は春川ますみさんという豊満なストリップ女優から、谷崎潤一郎の『痴人の愛』主人公「ナオミ」から名付けられていたんだよね。僕たちはお互いを認め合うというかね、メンタルの部分では繋がっていたのだけど、トランプ作ったのは亡くなった後だから。多分その辺にいたら「すまんな」って言っていたんだろう。家族もしばらく認めることができなかったようだしね。

——ゲイが生きていくことの大変さは以前ハイスノで『薔薇族』の伊藤文學さんにお聞きしたことがあります。でも今、海外から逆輸入的に再評価されている面もありますよね。

当時は存在を認められず後ろ指を指されていたし、本屋でも売れなくなって出版社も撤退してしまってかわいそうだったよね。海外の人たちは面白がっているだけだと思うな。だから私も微力ながら、メジャーの仕事しながらマニア向けにあえて下品に描いたりもしている。妬まれながらだけど、両方やっていたら少しはこちら(マニア)側のランクも底上げするんじゃないかな。ある程度の力を持ったら両方のバランスを考えるべきだしそういう人も多いですよ。

——評価の得られにくい分野に、人知れずトリビュートしていたんですね。

年取ってくると少しは丸くなったのかもね。こんな汚れきった心の持ち主でもかくありたいのよ(笑)。

——独学ということですが学校に対してどんな思いがあったんでしょうか。

雄で生まれるとまず父親を超えるという使命がありますよね。学校を卒業した後は、アカデミズム超えて、社会を超えて、学閥を超えなきゃなんない。でも独学ならば最初からハードルがないから楽だよね。だから学校なんか行くなって言うよ。ただ、学校に行くとその高いレベルだったコネクションができるのはいいけれど、入ることにばかり気を取られて入って安心しちゃって、芸大という名前だけの人も多いよね。

——一目瞭然の美しさと驚きは作品に一貫していますが、それをし続けるのは難しいのではないでしょうか。

だからそれに行間を入れるんです。描くときはその業界のことをしっかり調べつくしてテクニックでネジ伏せる。イラストレーターだからわかるんだけれど、広告って、暴力的に訴求力あるんですよ。そうじゃない限り意味がないからね。美術館だとか画廊は見る側も深読みしようと構えてくるけれど、それのどこが面白いのかがわからない。現代美術はマネーギャンブルの人たちが、社会的だとか経済的とかの謳い文句でわざとわかりにくいことしている感じがします。なんでわかりやすいことで勝負しないんだろうと思います。

——NFTはアーティストへの還元率が高いとも言われています。今回デジタル作品を作られましたが、NFTについてどのような考えですか?

デジタル作品っていうか、映画の序章みたいなものです。まだまだ私の求めるクオリティーからは程遠いですが、あと100年くらいやれば完成すると思うので。NFTとか、私には投機のための道具にしか思えません。クリエイティブを度外視してお金のためにやってもゴミになるだけです。

——アートは市場価値よりも本来自分の感覚を最優先するべきなのかもしれません。

それに、デジタルで数値が出る時代のせいか、人の目の感覚に合わせてバランスを取ることを知らない人も出てきたよね。フランスのトリコロールは等間隔にみえて膨張する色である白の幅が小さくなっているし、フォントの字詰めや丸い文字が大きく見える。そういった人間の目のニュアンスアナログの世界では調整してきたんだけれど、それを無視してパソコンの数値が正しいっていう。私が見れば一目瞭然なんだけどね。

——人の感覚を無視して機械に支配されてしまう感じは怖いですね。

人間の目の構造を無視して直線の処理をするからね、焦点画法でさり気なく馴染んでいく処理は機械にはまだできないですね。近頃のCGはザラつきとかの表現ができるようになってきたけれど、未だに不気味の谷があるよね。みんな時間と金があればできますって言うけど、結局センスと愛情と誇りだと思うんだよね。

——最近はChatGPTを使ってるメディアもあるみたいで、ライターは存続の危機です。

開高健さんの文章なんて釣りのエッセイにしろ文章にしろ、あの人が書くと釣りをしない人でも興奮するような文章で、伏線で持ってく。機械ではああいうことができないでしょう。そこって本当にセンスだし愛情と見栄だからね。それから、日本語の文章の持っていき方が天才なのはやっぱし谷崎潤一郎だね。あの人の姿勢もロックだよ。純文学でも天下取ってて、なおかつポルノだとかフェティシズムの世界も両立させている。『美食倶楽部』とか『富美子の足』とかもう明らかに特異な世界ですごく引き込まれる、本当に素晴らしいですよ。そんな文学界の巨匠みたいに私もなりたいですね。後ろ指を指されるような絵とロボットのとんでもない絵と両方ともちゃんとやりたいし、私にとっては境目もないのよ。

空山基「Space Traveler」展
会期:4月27日(木)〜5月28日(日)
時間:11:00〜19:00 ※月・火休業
会場:NANZUKA UNDERGROUND 東京都渋谷区神宮前 3-30-10

会期:4月26日(水)〜5月27日(土)
時間:11:00〜16:00(金・土 11:00〜17:00)※日・月・火休業
会場:3110NZ by LDH kitchen 東京都目黒区青葉台1-18-7

会期:4月27日(木)〜未定
時間:11:00〜20:00
会場:NANZUKA 2G 東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO2階