style
Where the runway meets the street

フェティッシュとミニマルが同居する細やかな技巧が凝らされたスーツや開放的なムードのプリントドレス。緊張と緩和が心地よく拮抗するFERRAGAMO(フェラガモ)の新作コレクションは、クリエイティブ・ディレクターのマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)がルーツに持つカリブと、自身のクリエイションのDNAでもあるフェティシズムが、イタリアの自然体なライフスタイルへと融合し、極上のシンプリシティが形になったものだ。

そこに、「伝統と革新」「厳格と自由」といったパラドックスが存在するのは、1960年代前半にイタリアで興った芸術運動「アルテ・ポーヴェラ」からもインスピレーションを受けたことに起因するという。

「ピュアでストレートなコレクションを」という彼が作り出したピースは親しみやすくも一つ一つが独創性を持ち、果てしない奥深さを醸し出している。ブランドの原点であるシューズは、計算された緻密な美しさを描き、新作のFiammaをはじめHugなどのバッグにはそれぞれ芸術性の高いグラフィカルな形状や装飾が施されている。

この逆説的な美学を表現したのはHINA YOSHIHARA。幼い頃から世界で活躍するダンサーになることを夢に活動してきた現在22歳の彼女は、2017年にグローバルポップグループ「NOW UNITED」の日本代表として全世界デビューを果たした。昨年グループを卒業した彼女は現在、世界で注目される存在だ。

海外でデビューという異例のケースを通して培った感覚や視点とは。2024年、本格的にソロ活動を始めた彼女の長い道のりは始まったばかりだ。

——本日の撮影はコンテンポラリーダンスをテーマにしていました。HINAさんはダンスホールのような照明と衣装にすんなりと溶け込んでいきましたね。

自分で曲をかけながら撮影したいなと思ったので、ヘアメイク中に自分でプレイリストを作って、ダンスのイメージを膨らませていました。

——マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)の「Feeling Good」でジャジーに入り、やがてフレックス(Frex)の「Forever Thing」やエリカ・バドゥ(Erykah Badu)などR&Bの楽曲でコンテンポラリーダンスを披露していましたね。今日踊ったダンスはどのようなジャンルになるのでしょう?

ヒップホップでもないし、ジャズでもないし……。その間のヒップホップジャズですかね。手と腕のシルエットを綺麗に見せるのが好きなので、ワックというジャンルも好きですね。撮影するときは、手から入って徐々に体に移っていくんです。

——インスピレーションを感じる能力と体の動きを表現する能力が結びついて、さらにリズム感覚が求められる。ダンスで身体表現することは、簡単ではありませんね。

私はきっと体で表現するために生まれてきたと思っていて。本当に小さい頃からずっと体を動かしてきました。最初はチアダンスから入って、小学校5年生の頃から本格的にダンスを始めました。「ダンスしてなかったら何をしていたんだろう?」と思うくらいずっと踊っていますし、好きですね。

——当時、ロールモデルのような存在はいたのでしょうか。

ビヨンセ(Beyoncé)はずっと好きですし、誰かをかっこいい、かわいい、素敵と思うことはありますけど、この方みたいになりたいとはあまり思ったことがないです。自分は自分なので(笑)。周りの友達が一番刺激的です。

——本日はFERRAGAMOの撮影でしたが、コレクションを着てみていかがでしたか?

フィッティングルームで着た自分を鏡で見て「WOW」となりました。1着目のフリンジのドレスはフリンジがドラマティックに見えるように足を反対側に動かせばきっと綺麗に見えるだろうなと。2着目のドレスは着た瞬間、私がアートだと思って美術館の絵になりきりました。

——世界中をツアーしていましたが、FERRAGAMOの拠点、イタリアでの思い出は?

イタリアは一度だけ撮影で行ったことがあります。撮影は2日間だけだったのですが、一人で前乗りしてドゥオーモなどの伝統的な観光地を散策しました。芸術的な建築物ばかりで圧倒されっぱなしで、まるでずっと映画の中にいるようでした。外で食べる一人ご飯が苦手なのですが、ふらっと入ったレストランがものすごく美味しかったですし、街の人々はおしゃれで、ドレスを着ている人もいればスウェットで歩いている人もいて刺激的でしたね。一人でショッピングも楽しめました。

——イタリアでのお仕事は、どのようなことが印象に残っていますか?

皆さん自由なところですね。ロケーションに着いたときも「HEY!」と声をかけられて、「ん? 会ったの5回目?」みたいな(笑)。あと時間には結構ルーズでしたね。のんびり皆さんでクロワッサンを食べて、コーヒーを飲んで、準備できたら撮影始めようか、みたいな。「私、ここのランチ好きじゃないから、ちょっとあっちで食べてくるね」ということも。「あ、それもアリなの?」って(笑)。でも楽しかったです。好きでした。

——イタリアはマイペースなのが特徴のようですね。HINAさんは自分のペースはどのように守りますか?

私は基本自由なんですが、時間はきっちりするタイプです。自分のペースを守るために、バタバタしている朝はあえて掃除から入るんです。今は、湯船に浸かって、お風呂を蒸気でサウナのように埋めて汗をかいて、水を飲んで、勇気があるときはスーパーに行って自炊します(笑)。

——合格し、国際的なパフォーマーと活動する中で、自分がアップデートしなきゃいけないと感じたことはありましたか?

ありました。やっぱり、最初は英語を喋れないのが恥ずかしかったんです。恥ずかしいし、寂しいし、言いたいこと言えないし、何を言っているか分からないし。けど、それをそのままにしていたら、何も変わらないなって思って。とにかくやらないと、と必死でした。

——いろんなルーツのメンバーと一緒にいることで、人生観や価値観に影響はありましたか? 社会的なことに目を向けている人は日本よりも多いのかなと思います。

学ぶことが常に多かったです。宗教によって食べられるお肉が違ったり、ベジタリアンの子がいたり、お魚も食べられない子がいたり、とマネジメントチームが大変そうでしたね。服装も、この国に行ったら肩は出しちゃいけないと事前に聞いてはいたけれど、実際に行くと、目以外を露出してはいけなくて、髪までしっかり隠さないといけなかったり。いろんな世界を見て、いろんなことを学べました。

——現在のSNSではいろいろなファッションを楽しんでいると感じますが、HINAさんにとって、ファッションはどういうものですか?

初対面の相手に対しても自己紹介のツールとして一番簡単な自己表現だと思っています。選ぶときは、誰と会うかなどのTPOを考えますが、ダンスの日は、その日の出来事と、その日に聴いた曲、観た映像、気分で決めていますね。音楽とファッションってすごく繋がっているなと最近気づいたんです。一人暮らしを始めてから洋服を選ぶときには、まずその日の気分の曲をかけると、踊りたいという気持ちも湧いてきて、そこから選びます。

——HINAさんにとってダンスの魅力はなんですか?

海外に行って気づけたことでもあるんですが、言語としても使えるし、素敵な表現ができること。あと、たまに真っ暗な中一人で踊るんですけど、そのときの気分や感情を自然と体が表現してくれるので、今、自分がこういう感情なんだって知ることができるんです。客観的に自分を見つめたり、感情のバランスをとったりできることが魅力です。

——日本と外国、どちらの視点も持っているHINAさんですが、これまでの人生において最大の気づきはなんだと言えますか?

国もそうだし、ファッションや音楽もそうだけど、実際行ってみないと、やってみないと分からないということです。きっとファッションも音楽もとにかく何に関しても、やってみないと分からないことだらけだな、ということに気づきました。

——視野が広くなるからこそ見えるものがありますよね。

15歳のときからいろんな国を行ったり来たりして、若い頃から凄い世界を見れたなって思います。15歳からサウジアラビアなどの国に行き来する機会はあまりいないですよね(笑)。実際に現地の方と会話して、いろんなものを食べたりした経験をこれからの活動で表現として活かすことができたらなって思います。歌もファッションもダンスも頑張りたいですね。

FERRAGAMOの創始者であるサルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)は元々イタリア南部の田舎町で貧しい家に生まれた名もなき存在であった。セレブリティの靴を仕立ててグローバルブランドへと育て上げた成功の背景は、埼玉の「平凡な家に生まれた」というHINAに勇気を与えるかもしれない。

1915年に16歳でイタリアを離れ、米国カリフォルニアで店舗を構えると、瞬く間に舞台に立つ人の足もとを支えたサルヴァトーレは、南カリフォルニア大学で人体解剖学を学び、人間工学に基づく靴型を開発した。大量生産が溢れ出した時代でも、手作業で丁寧に作られる創造性の高さと機能性にこだわり続けたという。探求を続けたフェラガモのスピリットに共鳴するべく、グローバルなダブルスタンダードを更新する彗星HINAが身体性を最大限に拡張し、革新を続けるFERRAGAMOの創造性を形にした。