2021年にスタートしたIM MEN(アイム メン)は、構造設計と素材研究を起点に「身体と衣服の関係」を再定義するメンズブランドだ。三宅一生のマニフェストとも言える「一枚の布」という根幹となる思想を軸に、彼の間近で仕事をしてきた河原遷、板倉裕樹、そして小林信隆の3名が主体となってチームをリードしている。

「一枚の布」による衣服は、無数の実験を重ねて設計され、着る人すらも気づかないレベルで動きと呼応する。エンジニアリングと手仕事を行き来し、機能的かつ詩的に表現されている。その根底には、衣服デザインを通して社会を見据えていた三宅の精神がある。土地に根付く技術に目を向け、産地・工場との協働を通して磨き上げた素材を作り出す。三宅の美意識を継承する3人の共通言語「三宅らしさ」を求めて、滋賀県湖南市のなかにし染工を訪れた。

IM MEN 2026年春夏コレクションは、陶芸家・加守田章二の作品が持つ造形美と、作家自身の一途な挑戦心がインスピレーションの源泉となっている。色彩を構造的に組み込むことや、文様を彫刻的に描くことなど、器と彫刻の境界を問うていた加守田作品。用途性から意図的に逸脱し、独創的な造形美を持つ挑戦的な彼の作品に触れたデザインチームが、三宅の精神に通ずる何かを感じたことが始まりだった。

「加守田氏の作品を最初に見たときに “柄や色彩がテキスタイルのようだ” と思ったのが始まりでした。そこから、いくつかの美術館さんにご協力いただいて、チームで作品を実際に見て触れるといった体験をさせていただき、試織やプリントのテストを重ね、作品の質感や色彩に近づけるために試行錯誤しました」(小林)

IM MENを牽引する河原、板倉、小林の3名によるデザインプロセスは、彼ら独特の共通言語を操りながら、正解を模索するように作業が進められているという。最後まで最善を追求する姿勢を変えることはない。それは、作っては直してを繰り返しながら、より良いものづくりを実現するという、三宅のやり方を受け継いでいる。失敗してもいいからとにかくやってみる。一瞬で消費されるものではなく、ずっと残り続けるものを作るために創造を重ねてきた彼の薫陶を受けてきた3人にとって、それはごく当たり前のことなのだ。

ショー会場に吊るされた長い一枚の布に浮かぶ文様。2026年春夏コレクションを特徴づけたファーストルックのUROKOMONを描き出した「ボンディング・オパール加工」を開発したのが、滋賀にあるなかにし染工だ。昔ながらの加工に独自の技術を発展させ、総勢5名のスタッフで、染料プリントを一切使わず、特殊な加工のみを扱う。工房の中央には、約25メートルの捺染台を4台構え、壁にはぎっしりと版が立てかけられている。外に置かれた布に熱を与える大型のベーキングマシンは社長の手作りだ。

ボンディング・オパールは、捺染したチュールとコットンジャージーを貼り合わせ、最後に薬剤をのせて溶かすことで、チュールの透け感を残すテキスタイルだ。透けた部分と貼り合わせた部分とが凹凸となり、見事な立体感を描き出す。色の組み合わせによって様々に表情を変え、繊細かつ大胆な色彩のバランスと構造の妙が、見る者を惹きつける。その作業行程は果てしなく、一日の生産量は5人がかりで50メートルが限界だ。

社長の中西善久さんは、かつて京都で着物の図案の型紙を制作する「型屋」の職人として、小刀を使って繊細な文様を描き出していた。その後、テキスタイル業界に入り、「誰も見たことのないような生地を作ろう」と決意。紙や新聞を貼った生地、洗濯できる越前和紙の生地など、平面的な概念を覆す凹凸のある生地を実験的に創出。特殊加工の第一人者として、衣類のみならず、インテリアやアート分野にも応用を広げた。

「生地には、可能性があると思うんですね。以前は特許を取ったこともありましたが、今はしていません。業界の発展に繋がるのであれば、みなさんに活用してもらえたらと思っています」(中西善久)

手作業でスクリーンプリントを施すのは長男の一平さん。ヨレやホコリが付かないよう細心の注意を払い、小川由香さんと2人がかりで布を台に貼り付ける。藤田理絵さんが作ったオリジナルの顔料を適量流し入れ、捺染していく。版の幅ひとつ分の間隔を空けて染め、乾いたら間を埋める。同じ作業の繰り返しだが、毎回、均等に圧がかかるように行えるのは職人技だ。UROKOMONを描く6つの版(翡翠色のパール濃淡2色、ボンディングの糊、コットンジャージー用の薄いベージュ、緋色、オパール薬柔剤)を、一定の力加減とスピードで捺染を繰り返す。乾かした生地を洗いにかけると、薬剤でコットンジャージーが溶け、チュールが顔を覗かせる。隅々までの検反や補正は、母・亜左子さんの担当。家族と2名の技術者たちがフル稼働し、コレクションのシグネチャーとなるファブリックが作り出されていく。

UROKOMONは、2026年春夏コレクションの中でも、最も素材開発に時間を要したテキスタイルだ。チュールに辿り着くまで、オーガンジーやサテン、コットンジャージー、さらにはブルゾンやトレンチコートに用いられる生地を使ってボンディングするなど、約1年半にわたり50種類以上の素材で60以上のパターンをテストしたという。

「最初はもっと薄い生地でやろうとしてたんですけど、薄い生地で接着すると、かえって硬くなるんです。ちょっと薄めの生地でやると、もとの生地の厚みが少し残ったままで接着できるので、生地の風合いが残って、少し柔らかい感じが出るんです」

「みんなで知恵を出し合うと、いいものが出来てきますよね。やはり、それは小林さんに何度も現場に来ていただいて、一緒に理解し合わないとできない部分だなと実感しましたね」(善久)

加守田カラーを再現するにあたっては、7回の染色サンプルを提出した。ひとつの焼き物をとっても、一箇所一箇所異なる色で構成されている。土の風合い、釉薬の色味、焼き物の質感を再現するために、藤田さんは資料や写真を見ながら、実験と研究を続けた。

「何十種類もの生地サンプルを作っても、加守田作品の質感や色彩に近づくことがなく、素材や顔料の濃度、色の組み合わせを変えながら試行錯誤しました。作品のマットな質感や色彩の透明感をどうやったら出せるのかと、藤田さんに相談し、顔料の濃度やバインダーを変えたものを試してもらい、その結果、色彩の透明感とともに求める質感に近づけることができました」(小林)

版制作の高い知見を持つ善久社長によって、色が心地良く重なり合って、加守田作品の表情を布で表現することがようやくできた。そのとき既に、コレクションまで残された期間はわずか2カ月。小林は多いときで1週間に数回、滋賀を訪れ、現場と細やかな調整を重ねたこともあった。

インタビューの続きは本誌をチェック。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE16 JIN AKANISHI
発売日:2026年3月10日(火)
定価:2,200円(税込)
仕様:B4型

◼︎取り扱い書店
Amazon、電子書店
※本商品は上記ネット書店のみの販売となり、一般書店での販売はございません。あらかじめご了承ください。

購入サイトAmazon、タワーレコードオンラインHMV & BOOKS onlineセブンネットショッピング

※『HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE16』は、表紙・裏表紙以外の内容は同様になります。


【書誌情報】

タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE16 VERSACE
発売日:2026年3月10日(火)
定価:2,200円(税込)
仕様:B4型

◼︎取り扱い書店
Amazon、電子書店
※本商品は上記ネット書店のみの販売となり、一般書店での販売はございません。あらかじめご了承ください。

購入サイトAmazon

※『HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE16』は、表紙・裏表紙以外の内容は同様になります。