INTERVIEW | ジュリアン・クリンウィックスが語るアイデンティティとアートプロジェクト
FACT.は、2018年10月19日(金)から28日(日)の期間中、“SIGNAL TO NOISE”と題したポップアップストアをUNION TOKYOにて開催し、ブランドのバックボーンでもあるスケートカルチャーや音楽をテーマに、ミリタリーアイテムをカスタマイズしたカプセルコレクションの販売を行った。
そしてオープンを祝した初日のレセプションパーティでは、自身も今回の為にTシャツをデザインした、ジュリアン・クリンウィックス(JULIAN KLINCEWICZ)が来日し、新曲を含む数曲をインストアライブで披露した。
10代の頃からすでに様々なメディアへ度々登場し、昨今ではファッションブランドのキャンペーンを手掛けることも珍しくなくなったジュリアン・クリンウィックス。以前には、東京で個展を開催するなど、日本国内でも注目されている。デジタル最盛期にアナログカメラを使い続け、アーティストやミュージシャン、スケーターなど多様なプロファイルを持つジュリアンは現在何を思い、今後はどのような作品を生み出していくのだろうか。
色々と多岐に渡った活動をされていますが、改めてご自身のプロフィールを教えて下さい。
アーティストかな。ビデオ作品の制作が多いけれど、音楽もやるし、服のデザインも少しする。スケーターでもあるし、ここ最近はこのポップアップの為のTシャツ作りにずっと集中をしていたよ。数ヶ月前にはアルバムもリリースしたんだ。他にはジェイ・ジー(JAY-Z)とビヨンセ(BEYONCÉ)のツアーの仕事もしたりしているよ。
過去のインタビュー等で、ご自身のことをヒューマンビーング(人間)と表現されていますが、それは何故でしょうか?
それは多分、僕の人生や作品のテーマがずっとATTAINABILITY(到達可能なこと)、CONNECTION(繋がり)だからだと思う。人間が普通に経験するようなことだね。人生においては軋轢などのせいで、カテゴリー分けされることがある。クールだとか、クールでないかとか。だけどアーティストであっても、銀行員であっても結局は誰だって一人の人間だよね。僕にとって一番大切なことは、他の人と繋がりを持とうとすること。どうやってアート活動に向き合っているかというと、自分の心をオープンに開いて『こんな感情を抱いた』『こんなことを感じた』とか自分の経験を、誰でもアクセスが出来るものに落としこもうとしているんだ。だからこのTシャツも同じで、19歳の時に一人で初めて海外に来たのが東京で、多くの時間を過ごしてきた東京は、僕にとって凄く近いと感じる場所なんだ。だから必然的に僕の人生においてこの都市は大きな存在になったんだよね。Tシャツに使ったフォントは、僕の好きな本からインスピレーションを得ていて、それで日本の友達に挨拶をするみたいに『元気?』とプリントしたらクールだと思ったんだ。
そのような東京での思い出をファンと共有しようとしているのでしょうか?
そうだね、東京だけには限らないけど。僕が思うに、人生の中で最高なことの一つは、誰かと体験を共有出来るということ。それが恋人と行くデート、友達との間に生まれる経験でもね。僕は詩を通して沢山の美しい経験をして、それらが凄く心に響いたんだ。僕がやろうとしているのは、それらの体験を誰でもアクセス出来るようにしたい。今回でいうと僕は東京での旅行者だから、ツーリストTシャツを作りたかったんだよね。ただのプロダクトではない、自分にとって意味のある、深いモノをね。
“人間”という言葉を大切にされていますが、テクノロジーの発達と共に何処か“人間らしさ”が失われつつあるように感じます。アナログビデオを使っているのは、それに対してのアンチテーゼでもあるのでしょうか?
アンチテーゼかは分からないけれど、確かに人間らしさは失われつつあると思う。多くの人は、今起こっている何かを体験し、参加するのでなく、何が起こっているのかドキュメントする方に重きを置いているよね。実際に起こっていることに向き合って経験するのでなく、受け身になって物事を見る側に回ってしまっているんじゃないかな。
ファッションブランドと仕事をする際は、自身の作品に対するアプローチと異なると思います。どのような違いを感じますか?
まず第一に、凄く早いタイムラインで進んでいくことを感じます。ブランドサイドと一緒に作品を作るようになって4〜5年ぐらいだけど、求められることも最近は変化してきた。最初に撮影したのは、3分ぐらいのショートフィルムだったけれど、今は一つのビデオじゃなく、10個ぐらいの短いビデオの依頼が多いんだ。時代の流れがインスタグラムにシフトしているからね。だけど、今年はもうファッションブランドと仕事をする予定はないんだ。今後は分からないけれど、今は興味が段々と無くなってきた。良い作品、つまり面白くて意味のあるモノを作るには時間が掛かるんだ。現在のファッション業界の早い進み方では、ほとんどの場合、僕は良い作品を作ることが難しいと感じているからね。意味がある作品というのは、僕個人にとってもだし、それが僕の作品であるとちゃんと感じられる必要がある。ブランドや彼らのコンセプトにとっても意味がなくてはならないと思っているよ。
今後暫くは、ご自身の活動に集中されるのでしょうか?
そうだね。ブランドサイドと少し話もしたりしたけれど、ゆっくり時間が取れそうならやってみたいと思っているよ。だけどAcne Studiosのランウェイ動画の時みたいに、早さが求められると難しいかな……。自分が誇れるような作品じゃないとね。だから今はどうしてもファッションフィルムを作る気にはなれないんだ。他にそういった早い枠組みの中で出来る人はいるし、それは良いことだと思うよ。僕は自分の時間を数ヶ月、一年とかゆっくり時間が使えるプロジェクトの方が良いかな。
ユースカルチャーの代名詞のように扱われることもありますが、昔と比べてそういったカルチャーの変化はどのように感じますか?
どちらとも言えないかな。だけど変わっていくこと自体は、そんなに問題でないと思うよ。物事って常に変わっていくものだから。人生において重要なのは、人が何かする時にその背後にある意思や理由が大切だと思う。もし子供がスケートが好きで、スケートを始めたならば、それはクールだよね。それが一番だよ! ストリートウェアが自分に特別な感情を与えてくれると感じて、着るならばそれもクール。だけど何かを始める際に、その物事に対して理解もなく、ただ単純に周りの皆がやっているからという理由なら、それは本物でないと思う。少なくとも僕はそういった類のファンではないかな。人それぞれだけど、何かをするなら幸せを感じられることをやらなきゃ。もし好きだったり幸せだったりという純粋な理由だったら、いつだってその経験に戻れるし、楽しめるはずだよ。例えば、もし何処のブランドか分からない服を買ったとしても、本当にその服やファッションが好きだったら、生地や誰が作ったのかなど気になってリサーチするはずだよね。そういった経験って人を成長させると思うんだ。ただ単にお金があって、その二倍の金額を払って買ったとしても、ピュアに好きな人よりは、そのジャケットの良さは最大限に引き出せないと思う。スケートや写真、友達とパーティーに行くのだって同じだと思う。純真なところからきっかけがないと、それは時間の無駄だと思う。
今回のポップアップに携わった経緯を教えてください。
もともとUNIONのクリス・ギブス(CHRIS GIBBS)と親交があって、以前にも一緒にプロジェクトを数回やったんだ。VansとGosha Rubchinskiyのコレクションのビデオを撮影したり。カプセルコレクションや本の出版、そのローンチイベントもやったんだ。そういった関係が四年くらい続いていて、今回のポップアップに誘われたんだ。最初はDJをやらないかって言われたんだけど、僕はDJが凄く得意ではないから、Tシャツのデザインとライブの提案をしてみたんだよ。
今回の東京滞在はどうですか?
昨日着いたんばかりだけど最高だよ! おにぎりは大好きだからもう10個ぐらい食べた(笑)。あとは色々な本屋やBIG LOVE RECORDS、スケートショップにも行きたいかな。場所は忘れちゃったんだけど以前行ったことのある、高架線下のスケートパークが無くなっていたのは少し寂しかったよ。
ミュージシャン、アーティスト、スケーターで活動する時、それぞれ違うメンタリティなのでしょうか? それともいつも同じ“ジュリアン・クリンウィックス”なのでしょうか?
うーん、違うけど、同じかな。それぞれの媒介は、異なる特性があるからね。例えば音楽を演奏する時、僕はソフトに歌っていると思う。それはナイロン弦のギターを使うから、自然と弦が出す音と同じようになってしまうのかな。VHSを使ってビデオを撮影すると、スタイルがまた変わってくる。スケートをする時はよりアグレッシブになる。何を媒介にして表現をするかによって、結果が左右されるんだよね。何に取り組んでいるかによって、その度に違うマインドやアプローチを持っているのかな。同時に、無意識的に『これをこう作りたい』とかではなく、自然にやっていると、自分が何をやっているのか気が付く瞬間がある。一度それに気が付くと、更にその向こう側が見えてくるんだ。だけどプロジェクトによっては始め方は異なるかもしれない。アートプロジェクトの場合は、コンセプトから入って、作品にそのコンセプトを反映しようとしたりするからね。
今現在、何か進行中のプロジェクトはありますか?
いくつかあるよ。それぞれ別プロジェクトの書籍が三冊と、最近は沢山の詩を書いているんだ。もしかしたら、詩集も出版するかもしれない。他にはSlam Jam(スラムジャム)と一緒にイタリア・ミラノで、エキシビションを計画している最中だよ。だから今は、どんな作品が良いかとか考えてるんだ。あとは多分、アメリカ・ロサンゼルスかサンディエゴでパフォーマンスも予定しているよ。ダンスと音楽、ファッションとビデオがミックスされたモノを考えているよ。始動したばかりだけど、今はそれが一番の楽しみなんだ。
“Hey I Like You”は、これまでのアートプロジェクトでは一番成功したうちの一つだと思っているんだ。色々な人がサンディエゴに来てくれて、皆が繋がって、エキシビションの一部になってくれたからね。何か新しいモノを生み出せたように感じたんだ。実際に自分の目でその光景を見て、沢山の人にとって意味のあることを作り出せたから、本当に嬉しかったよ。多くの人に面白いモノを見せることが出来て報われたように思えた瞬間だった。だけど一度やったことをまたやるつもりは無くて、さっき話したパフォーマンスの為に、振付師とダンスを試行錯誤したり、服のブランドとデザインは勿論、自分で音楽も作ったりしているから、このイベントでは、来てくれた人達が傍観するだけでは終わらないはずだよ。
最近の新しい興味はありますか?
実は最近、ビデオから段々とダンスや詩に傾倒してきているんだ。だから本を沢山読んでる。ビデオってやっぱり凄く時間が掛かるのに、クライアント作品の場合は早く納品しなければならないから一度、急ぐことなく時間を掛けて、結果に満足出来る良いモノを作りたいと考えているんだ。そこから執筆に興味を持ち始めて、今はいつか映画の脚本が書きたいって思っているよ。でもそれは多分、五年後ぐらいかな。
最後に、今後の目標をお聞かせ下さい。
自分の好きなエキシビションが開催出来るミュージアムを持ちたいな。音楽やパフォーマンス、ビデオとか何でも! アートが面白くなる瞬間って、やっぱり誰かと関わりを持つ時なんだ。例えば僕の書いた詩をTシャツにプリントすると、色々な人が手に取れる。写真や雑誌もそうだよね。それも確かに良いんだけど、もしビデオをギャラリースペースに展示したとすると、凄く具体的な文脈での提案になるよね。ギャラリーに入った瞬間、その作品が何を意味するのか、何を考えさせようとしているのかとかね。自分はその作品が好きなのか、好きでないとか。僕にとってミュージアムは、大きなギャラリーであって、自分の思う世界を一から作ることが出来る場所なんだ。自分がシェアしたいモノをベストな方法で生み出せる空間でもある。だから沢山の人にとって意味のある、皆と繋がれるような体験を作り上げられたら良いよね。
- Photography: Yuya Shimahara
- Interview & Text: Takaaki Miyake