art

現在PARCO MUSEUM TOKYOで開催中のジェームス・ジャービス(James Jarvis)の展覧会 。ピンク色の壁に彼のKawaiiキャラクターが並ぶ本展は、「Hello Bauhaus(ハロー バウハウス)」と題されている。彼の過去の作品イメージよりさらに簡素化されたキャラクターと、バウハウスを掲げた意図とは何だろう?オープン前の展示会場でインタビューに応じてくれたジェームスは、30年以上のキャリアを持つアーティストながら、スノッブな雰囲気のないスケートボーダーであることが緊張を和らげてくれた。更に今回の展示のために作られた巨大な着ぐるみに大喜びし、キューレーションを行ったNANZUKAギャラリーのカナさんに教えられたギャルピースで記念写真に応じる姿はKawaiiそのものだった。「オジサンがカワイイものを作るって、それだけ聞いたらちょっとアウトっぽいよね。僕はセーフだといいけど(笑)」と笑いながら会話はスタートした。

——まずは今回の展示タイトルについて教えてください。なぜバウハウスなのですか?

僕は昔から、バウハウスの「Form follows function(形態は機能に従う)」っていう理念が好きなのと、ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)がカートゥーンキャラクターを描いたとしたらどんなものだろう?って考えたりしていたんだ。ただそれが、直接この展示のテーマということではないんだけどね。正直なところ、バウハウスというのは一つの美的理念としてこの展示と僕の考えを表現するのに適切だと思ったから、シンジ(南塚真史 / NANZUKA)と相談してピックアップした言葉なんだ。

——なるほど。今回の展示はドローイングというより体験型のインスタレーションのような雰囲気ですよね。こういった空間演出をしたのはなぜですか?「Form follows function」は、展示会場の壁や床に描かれた標識的な白い線にも通じるような気がします。

そうだね、「Form follows function」はこの展示の多くの要素に通じているよ。そして今回の展示方法は、会場が渋谷PARCOというところもポイントなんだ。アートが好きな人だけじゃなく、色々な人が買い物を楽しみに訪れるという、PARCO自体の商業的でコマーシャル的な要素に、この巨大なステッカーみたいな作品がうまく作用すると思ってね。ポール・マッカーシー(Paul McCarthy)やマイク・ケリー(Michael Kelley)的なインスタレーションを、PARCOに合わせて僕らしさでやってみたとも言える。でも、完成するまで仕上がりが想像できなかったし、ものすごく浅はかで薄っぺらい展示になるかもしれないとも思っていたよ(笑)。僕はプラトン(Platōn)の、「最も完璧なモノの状態とは、そのモノ自体ではなくそれが存在するというアイディアである」って考えが好きなんだ。今回作った林檎も、デフォルメされて実際のリアルな林檎とはかけ離れているし、キャラクター自体もこれまで以上にミニマルにしている。僕はミッフィーやハローキティーのような、シンプルなラインで描かれたミニマルなキャラクターが好きで、ピクニックをしたり、自転車に乗ったり、花を持っていたり……、そういう無害なことをしているKawaiiキャラクターを見た時、じゃあ僕のキャラクターだったら何をするかな?と考えて、僕なりのKawaiiキャラクターを作った。それらをただ展示するんじゃなく、ストリートのような環境を与えて、インタラクティブな空間にしたんだ。バウハウス的なデザイン性があるストリートサインや標識や、トラフィックコーンも昔から好きでね。普段は慎ましいハンドドローイングが好きだし、どこかのラグジュアリーブランドのように日用品をオーバープライスで売るようなことには興味がないタイプだけど、この機械で描かれ日本の技術で贅沢にクラフトされた、ラグジュアリーで巨大なステッカーのような作品を作ってみるっていうのも、僕にとっては皮肉っぽくておもしろいんだ。

——確かにステッカーみたいですね。そして今回のキャラクターも、仰っていたようにハローキティーやミッフィーのジェームスバージョンという気がします。SILASの頃のキャラクターなど、’00年代に私たちがよく見ていた作品から進化していると言うか……。全ての仕事や作品を経ての今だと思いますが、これまでのキャリアを振り返ってみてどうですか?

美大生の頃、僕はエアブラシでスケートボードにゆかりのある風景や物体だけを描いていたんだ。キャラクターじゃなく。そこから次第に、この景色の中にはどんなヤツがいるんだろう?って想像するようになったんだ。でも、なぜか直感的に人間を描く気にはなれなかった。犬や猫やネズミでもね。その生き物には僕らの生活とつながりを感じる存在でいてほしいとは思ったけど、実在する生き物でいてほしくはなかったんだ。それが僕のキャラクターの始まりで、以降イラストレーターやトイデザイナーとしてキャラクターを描き続け、当時のSILASの人気にも後押しされてキャリアを続けてきた。ただ、作品にギリシャ哲学を匂わせたり、’90年代のスケートボードのリファレンスを使ったりして深みを持たせても「あなたのキャラクターが大好き」って言う言葉しかもらえないことに、ある時憤りを感じたんだ。表面的なことしか言われないなら、もう深い想いは込めずに純粋に見た目だけのものを描いてやるっていう、ある意味反発的な気持ちで描き続けた時期があったんだけど、結果、それを素直に楽しめている自分がいた。それはすごく良い気づきだったと思うね。純粋に魅力的なキャラクターを描くということに自分の中で価値を見出せたから。自分のためにランドスケープを描くこともあるけど、世の中が僕に求めているのはキャラクターだし、もうそれを30年も続けている。自分がキャラクターアーティストなんだなっていうのは実感しているし、今更ランドスケープアーティストに路線変更はしないと思う(笑)。

——ランドスケープも拝見したいですが(笑)。とにかく今回も、新しいジェームスが見られて嬉しい人もたくさんいると思います。

そうだと良いね。僕は制作過程において、ルールみたいなものを設けるのが好きなんだ。’70年代にブライアン・イーノ(Brian Eno)が作った「Break Strategies」っていうカードがあってね。ミュージシャンたちがスタジオで使えるカードなんだけど、そこには「逆再生する」みたいなランダムな指示が書いてあるんだ。面白いだろ?そういうカードを使うように、僕も自分でルールを決める。今回の作品については、できるだけ少ないシンプルなラインでKawaiiキャラクターを仕上げることにしたんだ。昔は、パンクとか、メタルとか、レスラーとか、そういうビジュアルスタイルを持ったキャラクターを描いてきたけど、ここ数年はキャラクターが「何か」、というより「何をしているか」を描いている。その変化の延長線上に、今回のミニマルな作品があるんだ。

——スケートボードに関することをしているキャラクターもやっぱり多いですね。

そうだね。僕は今でこそスケートパークで時々スケートをする程度だけど、スケートボーディングの本当の魅力はストリートスケーティングにあると思っている。そしてストリートスケーターは街にあるベンチや縁石や壁みたいなモノを、スケーターらしい視点で見て愛でている。そうやって多くのスケーターに好かれたモノは、有名なスケートスポットになる。それってある意味、石を崇めたりする日本の神道的な感じもするんだ。このベンチもVictoria Benchっていうロンドンのアイコニックなスケートスポットだったんだよ。そしてキャラクターは、見る人をその環境に招き入れる力がある。気に留めていなかったモノや景色も、キャラクターが添えられるだけで人の目を引くから、その点ではキャラクター自体にもバウハウスの「Form follows function」という言葉が当てはまるよね。

——長い間日本のストリートシーン、アートシーン、東京のカルチャーシーンも見てきたかと思いますが、22年ぶりの渋谷PARCOということで感慨深いものがあったりしますか?

もちろん。前回の展示はSILASの人気がお膳立てしてくれていたものだと思っているけど、その頃から僕のファンも僕と一緒に年をとったし、僕をあまり知らない若者たちもいる。どんな反応をされるか全く予想ができないワクワク感があるよ。僕の日本への興味は、Kawaiiカルチャーからじゃなく、黒澤映画や他の伝統文化からだったけど、スケートボードを通じて日本のファッションシーンにも繋がり、そこからたくさんの人に会って仕事を続けてきて、数十年後にハローキティーのステッカーからインスピレーションを受けるなんて面白いよね。でももう次の試みも始めているんだ。僕が好きな日本人アーティスト、湯村輝彦の「ヘタウマ」スタイルを参考に「ヘタ」なドローイングを描いてるよ。僕の場合は「ヘタカワイイ」になるのかな?Ugly Cuteだね。それと今回本当は、シンジのおかげで完成した着ぐるみで、明治通りを練り歩きたかったんだけどできなかったんだ。いつかやりたいね(笑)。

James Jarvis「Hello Bauhaus」
会期:〜 12月5日(月)
場所:Parco Museum Tokyo(東京都渋谷区宇多川町15-1 渋谷PARCO 4F)
入場料:500円
※会場にて展覧会記念アイテム販売あり