JIL SANDER(ジル・サンダー)の2026年秋冬キャンペーンは、偶然発見されたもののようだった。それはまるで古着屋の片隅で2ドルの古いビデオテープをたまたま見つけたかのような感覚だ。それもそのはず、一枚一枚の写真は実際、アルプス近郊の廃墟となった滑走路でモニ・ハワース(Moni Haworth)が撮影した、さらに画質の粗い短編映画から切り取られた写真だからだ。

そして完成したのはTikTokで流れてくるような広告とは異なり、90年代にデヴィッド・リンチ(David Lynch)がGiorgio Armani(ジョルジオ・アルマーニ)やYves Saint Laurent(イヴ・サンローラン)(あるいはJIL SANDER)のために制作していたファッションフィルムを彷彿とさせるものだった。これは、ルーシー(Lucie)とルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻の8年間にわたるあたたかみのあるロマンチックな解釈を経て、シモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)の下で奇抜な一章に突入した現在のJIL SANDERにふさわしいものと言える。

ベロッティは、わずか2シーズンでJIL SANDERをファッション界で最も前衛的かつカルチャーリテラシーに富んだメゾンへと変貌させた。彼のデビューコレクションに先立ち、無名のエレクトロニック・アーティスト、ボーフム・ヴェルト(Bochum Welt)によるレコードをリリースしたかと思えば、2026年秋冬コレクションは、まるで時代を超越したパフォーマンス・アートのような仕上がりだ。

こうした変貌は歓迎すべきものだが、決して想定外の変化というわけではない。ベロッティは異質さの扱い方を熟知している。比較的小規模なスイスのレザーブランドBALLY(バリー)での、短期間ながらも批評家から絶賛された在任期間中にも、彼は数十年前も前のスイスのサブカルチャーの有名人達から着想を得たコレクションを発表していた。例を挙げるならドラァグアーティストのルチアーノ・カステッリ(Luciano Castelli)から、50年代〜60年代のバイカーや反逆者達を撮影していた写真家のカールハインツ・ヴァインベルガー(Karlheinz Weinberger)などだ。

©︎ JIL SANDER

BALLY時代に初めて提示されたベロッティの芸術的傾向は、いまやはるかに大きな舞台で発揮されている。今回の2026年秋冬キャンペーンが示す通り、彼はカルチャーのニッチな領域に対する関心をいまも持ち続けている。撮影を手がけたヘイワースは、この手のシュールな雰囲気を作らせたら右に出る者はいない。中でもMIU MIU(ミュウミュウ)の長年のスタイリストであるロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)と共同制作した2024年の写真集『0081』は、アーティストの靈樹(Raiki Yamamoto)と共に日本を巡る、ディヴィッド・リンチ(David Lynch)映画のような旅路を捉えた一作だった。

メイヤー夫妻が築いてきた安定したヴィジョンが約10年間続いた後、10億ドル規模のファッションブランドでこのような実験的なアプローチを打ち出すのは、極めて大胆な決断であり、まさにベロッティらしいと言えるだろう。