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ジョナサン・アンダーソン、DIORの新たな旗手に
4月中旬、LVMHのCEO、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)は、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がDIOR(ディオール)メンズのクリエイティブ・ディレクターに就任すると発表した。しかし実際に彼が任されたのは、それだけではない。アンダーソンはDIOR全体を率いることになる。
北アイルランド出身のアンダーソンは、ウィメンズ、メンズ、オートクチュール、アクセサリーを含む、DIORの全ての部門を担当する。そう、彼がこのメゾンのクリエイション全体を統括するのだ。
1969年にメンズラインが誕生して以来、ウィメンズとメンズの両部門を一人のクリエイティブ・ディレクターが統括するのは、創業者・ムッシュ ディオール(Monsieur Dior)以来初めてのことだ。そしてジョナサン・アンダーソンにとって、クチュールに挑むのはこれが初めてとなる。
「DIORのウィメンズ、メンズ、クチュールの各コレクションを、一貫したヴィジョンのもとで統括できることを大変光栄に思います。私の創作の指針は、ディオール氏自身が築き上げたメゾンの “共感の精神” に従うことです」とアンダーソンは声明で述べた。
「この素晴らしい物語の次の章を、伝説的なアトリエのみなさんと共に紡いでいけることを心から楽しみにしています」
40歳のアンダーソンは、DIORで最後のコレクションを発表したマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)の後任として、同メゾンの8代目クチュリエに就任する。キウリによるこのコレクションは、形式上はクルーズコレクションとされていたものの、オートクチュールの要素が色濃く表れていた。
今回の発表に際し、ベルナール・アルノーはアンダーソンを「同世代で最も才能あるデザイナー」と称賛し、LVMHで2番目に規模の大きいファッションハウスの命運を託すにふさわしい人物として強く支持した。
DIORは昨年から2025年初頭にかけて業績が減少傾向にあり、アンダーソンにクリエイティブの全権を委ねるのは一種の賭けとも言える判断だ。しかし、同じLVMH傘下のLOEWE(ロエベ)で彼が収めた目覚ましい成功が、この大抜擢の強い根拠となっている。
スペインのラグジュアリーブランド在籍時、アンダーソンは圧倒的な収益を生み出すともに、芸術性溢れるランウェイを演出し、ファッションの枠を超えたブランドの世界観を築き上げてみせた(LOEWEでは特に、アート界との強固な結びつきを確立した)。
そして、オートクチュールはどうだろうか。格式高いオーダーメイドの世界は、アンダーソンにとって未踏の領域だ。
服から本物の草が生えたり、パーカーがまるで「プレイ・ドー」で造形されたかのように仕立てられたりと、アンダーソンの “日常着の実験” 的な作品群は、彼の最も先駆的なクリエイションのひとつだ。オートクチュールは、プレタポルテの商業的制約を離れ、彼の奔放な想像力を存分に発揮できる絶好の舞台となるだろう。
アンダーソンが服をシュールな実験へと昇華させる独創的な手法はすっかりお馴染みだ。今度はクチュールという舞台を通して、ファッションの境界をさらに押し広げる新たな挑戦を見せてくれるのではないか。
アンダーソンのクチュールコレクションが初めて披露されるのは10月(ブランドは7月のオートクチュールショーを見送るため)だが、その時には既にメンズとウィメンズのコレクションが発表されているはずだ。これらは彼が年間で手がける18コレクションのごく一部に過ぎない(DIORの10コレクションに加え、同名ブランドJW ANDERSON(JW アンダーソン)での8コレクション、さらにはUNIQLO(ユニクロ)とのコラボも含まれる)。
彼にとって初のクチュールショーは、DIORでの3つ目の大きな挑戦を締めくくり、アンダーソン時代の本格的な幕開けを告げるものとなる。そして、DIORの卓越した職人技によって彼の創造性がかつてない高みへと押し上げられる瞬間を、私達は目にすることになるだろう。
- Words: Tom Barker
- Thumbnail Photo: DIOR