今季最も注目を集めたショーであることは間違いない。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が、ついにDIOR(ディオール)でのヴィジョンを披露した。2026年春夏パリ・メンズ・ファッションウィークにて発表された本コレクションで、北アイルランド出身の彼は、伝統あるフランスのメゾンに独自の遊び心溢れる美学を見事に融合させた。

アンダーソンのDIORファーストコレクション発表を目前に控え、ブランドの公式Instagramには次々とティザーが投稿された。アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)が撮影したジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)やリー・ラジヴィル(Lee Radziwill)のポートレート、動物の形をした針山、そしてスーツ姿のキリアン・エムバペ(Kylian Mbappé)を映した縦型動画などが並んだ。

これらの投稿ではコレクションの全容は明かされなかったものの、待望の夏の日に披露されるランウェイの世界観をしっかりと予感させていた。

そして迎えた本番。アンダーソンのデビューコレクションは、時代を超えて輝きを放つテーラリングの真髄を余すことなく示す圧巻の内容となった。彼ならではのクラフトマンシップに根ざした質感豊かなワークウェアの要素と、創設者、ムッシュ ディオール(Monsieur Dior)のテーラリングへのさりげないオマージュが巧みに織り込まれている。

映画ポスター風のプリントをあしらったハンドバッグ。フリルをたっぷりあしらったカーゴショーツに重ねられたのは、やわらかな丸みを帯びたブレザー。刺繍入りのベストには、なめらかなロングシルクスカーフや、ベルベット素材のネックブレース風ボウタイが添えられた。足元を飾るのは、履き込まれたハイカットスニーカーや、ソックスの上から重ねたフィッシャーマンサンダル。そして全体のトーンを引き締めるのは、絶妙な色落ち加減のブルージーンズ。

アンダーソンらしさとDIORらしさがふんだんに込められている。芸術性と親しみやすさを兼ね備え、リアルクローズとしての強さを感じさせるルックが並んだ。

常に領域を越えた発想を得意としてきたアンダーソンが、その独創的な遊び心をDIORにもたらしたのは非常に喜ばしいことだ。近年のDIORは、膨大な顧客層や商業的ステークホルダーに応えるため、ギミックよりも服そのものに一層注力する姿勢を強めている。

11年間にわたり、クラフツマンシップあふれる趣深いLOEWE(ロエベ)で実績を積んだアンダーソンは、そのキャリアを経てDIORのメンズ、ウィメンズ、オートクチュール部門のクリエイティブディレクターに就任。メンズ部門はキム・ジョーンズ(Kim Jones)、ウィメンズ部門はマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)の後任となる。

40歳のアンダーソンは、ムッシュ ディオール以来、初めて全ラインを統括するクリエイティブディレクターとなった。一方、自身のブランドJW ANDERSON(JWアンダーソン)および同ブランドとUNIQLO(ユニクロ)の継続的なコラボレーションにも引き続き携わっている。

年間で手がけるコレクションは18本にのぼり、そのうち10本がDIORのものだ。

ファッション業界は、LVMHの中でLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)に次ぐ800億ドル規模のこのメゾンに、アンダーソンがどのようにシュルレアリスム的な魅力をもたらすのか(あるいは本当にそれが可能なのか)という期待に胸を膨らませてきた。そして今、まさにその答えが示された。

ロンドン芸術大学出身の彼が、奇抜で型破りな感性を名門ブランドに注ぎ込んだことで、これからのメンズウェアの新たな可能性が提示されたばかりか、次に控えるオートクチュールとウィメンズラインへの期待もさらに高まっている。

DIOR 2026年サマーコレクション