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Where the runway meets the street

キム・ジョーンズ(Kim Jones)のDIOR(ディオール)のメンズ クリエイティブ ディレクター退任が発表された。堂々たる2025年ウィンターコレクション発表のあったパリ・ファッションウィークから1週間後のことだった。

イギリス人のキム・ジョーンズは、7年の在任中、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)時代以来手がけてきたラグジュアリーとストリートウェアの融合を前面に押し出し、DIORを完全に変貌させた。

2024年末前後、DIORは最もホットな現代ラグジュアリーブランドランキングから外れることが多かったが、そんな中でもジョーンズはDIORの収益増大に貢献した。厳しいラグジュアリー市場概況の中でもDIORの収益が上昇し続ける理由はDIORのブランド力にあると言えるだろう。

2018年、ジョーンズはDIORでの任期を華々しくスタートさせた。2019年に発表した、アーティスト・KAWS(カウズ)との大々的コラボレーションによるデビューコレクションは、キム・ジョーンズのDIORを象徴するものとなった。

ジョーンズのDIORの初期のスタイルは、空山基、レイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)、ショーン・ステューシー(Shawn Stussy)といったアーティストとの一貫したコラボであった。やがてそれはERL(イーアールエル)創設者のイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)や、DENIM TEARS(デニムティアーズ)のトレメイン・エモリー(Tremaine Emory)といったデザイナー、そしてアメリカに生まれイギリスで活躍した詩人・文芸批評家、T. S. エリオット(T. S. Eliot)の遺産などを取り入れるまでに拡大した。

ジョーンズはDIORで(FENDI(フェンディ)でも同様のことを多く行っていたものの)かねてからシグネチャーとしてきたコラボにおける傑出した手腕を発揮した。

またシーズンごとのコラボ以外でも外部人材を起用した。例えばDIORのメンズのジュエリーデザイナーにはAMBUSH(アンブッシュ)の共同創設者・ユン(Yoon)を迎えた。またジェットコースターバックルをあしらったバッグやベルトは、1017 ALYX 9SM(1017 アリックス 9SM)の創設者マシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)を起用したことで誕生したものだ。

人材採用ではなくコラボにより本物に直接アプローチし、作品にその文化的影響力を吹き込む。その効果をジョーンズはわきまえている。

その威力が最もよく発揮されたのは、1年余りのDIOR在任期間中に彼が発表した、「DIOR × NIKE AIR JORDAN」のコラボだったろうか。2017年のLOUIS VUITTON × SUPREME(シュプリーム)のコラボ以来最大のストリートとラグジュアリーとの融合プロジェクトだったと言えるものだった。

落ち着いたDIORのコレクションに話題性のあるコラボで大衆的魅力を与え、普通であれば成し遂げにくいものをジョーンズは見事に実現した。BALENCIAGA(バレンシアガ)などの競合ラグジュアリーブランドがトレンドを追いかけたり生み出したりする一方、ジョーンズのDIOR メンズは、タイムレスな都会的な定番アイテムに、文字通り芸術的なステートメントピースで活気を与えるという内容であった。

ジョーンズは外部パートナーを招き入れることでDIORの守備範囲を広げ、DIOR本来の成熟し、洗練された世界を保ちつつ、若々しいエッジィを導入した。

それは、クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)など、過去のクリエイティブディレクター達が築き上げたDIOR メンズの型には忠実でありながら、ジョーンズ自身のスタイルを色濃く反映したものだった。

DIOR × STONE ISLAND(ストーンアイランド)も DIOR × BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)も、ジョーンズなしには誕生し得なかった。

昨年FENDIを去ったジョーンズは現在フリーエージェントである。ストリートウェアの申し子である彼のこうした商業ノウハウは、今後彼のサービスを検討しているブランドに向けた売りとなるだろう。

デザイナーのブランド移籍が相次ぐ現在、ラグジュアリー業界は大きな変化の時期を迎えている。ジョーンズのDIOR退任もこの目まぐるしい移籍劇の新たな一幕に過ぎない。

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