データが示す、「退屈」の再来。
世界的な経済低迷のせいか、それとも、その停滞を打破しようとするブランドの姿勢そのものに人々が疲れてしまったのか。いずれにせよ、今もっとも注目を集めているプロダクトは、驚くほど刺激に欠けている。少なくとも、オンラインショッピングアグリゲーター「Lyst」のユーザーが示した欲望は明快だ。求められているのは、着回しが利き、見分けがつかないほど無難で、しかも以前より手に取りやすいアイテムなのである。
昨日発表されたLyst Indexの2025年第3四半期レポートで1位を獲得したのはHavaianas(ハワイアナス)のサンダルだった。第2四半期にはその20倍の価格のTHE ROW(ザロウ)のラバーサンダルが1位だったが、今回はHavaianasがTHE ROWを抑えた。また、Nike(ナイキ)は、模倣品が相次いだムーンシューズのリメイクをJACQUEMUS(ジャックムス)とのコラボレーションで実現したことも功を奏し、復活を遂げている。
COS(コス)のベージュカシミアセーターがSKIMS(スキムズ)のホワイトタンクトップから検索数1位の座を奪ったが、いずれも退屈なアイテム同士で、違いと言えば袖の有無程度である。続く2位はテイラー・スウィフト(Taylor Swift)のウルトラノーマルな婚約ドレスだった。
今回注目のアイテムと言うと、話題になったSKIMSのニップルブラを除けば2スタイルのくしゃくしゃローファーくらいで、パッとしない。従来のローファーよりカジュアルで、スニーカーより遥かに洗練されたSAINT LAURENT(サンローラン)やThe Rowのラッフル付きレザースリッポンは、フォーマルとインフォーマルの間を行く万能シューズだ。とはいえ、出来はいいが、胸が高鳴るほどではない。
特筆すべきは、これらのランキング史上初めて、ハイストリートブランドがトップ3に食い込んだ点だ。COSが表彰台に上がり、3位を獲得した。競合よりはるかに手頃な価格帯に位置するH&M傘下ブランドであるCOSは、Indexが示すとおり、価格に見合う価値の高さが評価され、関心を集め続けている。
もちろん、今週の『HIGHSNOBIETY』でファラン・クレントシル(Faran Krentcil)が指摘していたように、Lyst Indexが語れる範囲には限界がある。それでも、現時点で得られるデータからは、人々が依然として普遍的でシンプル、摩擦のないタイムレスなスタイルを志向していることがはっきりと見えてくる。買い物かごの中を占めているのは、着こなしやすいか、価格に納得感があるか、その両方を満たすクラシックなアイテムがほとんどだ。
そう考えると、退屈さはむしろ美徳になり得る。刹那的なトレンドに振り回される過剰さよりも、よほど健全だ。もちろん、評価される美的価値としての退屈さと、やむを得ず受け入れる退屈さには違いがある。だが、その境界を越えてしまったことを悔やむ必要はない。むしろこの状況が示しているのは、経済の混乱が私達をより良い服の選び手へと導いている、という事実だ。
- Photography: © COS
- Words: Maximilian Migowski
- Translation: Ayaka Kadotani