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Where the runway meets the street

@Dilan Lurr

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デビューコレクションである2017-18年秋冬シーズンから注目を浴び、話題のブランドとして人気を獲得したスウェーデン発「NAMACHEKO(ナマチェコ)」。クリーンなシルエットやミニマルなルックながらも、毎シーズン高いレベルのクリエイションを披露し、世界の名だたるセレクトショップのバイヤーも虜にしている。

今年1月に映像形式で最新コレクションを発表し、実力派ブランドとしての地位も確立した今、デザイナーのディラン・ルー(Dilan Lurr)は何を思うのか。

今回で5度目のコレクション発表でしたが、ある種の達成感などはあったのでしょうか? 何か感じたことなどあれば率直に教えてください。

5回目のコレクションだからと言って、満足感を得た訳ではありません。ですが、コレクション自体は満足いく出来栄えでしたし、ブランドとして次のステップへと進むことができたと思っています。いつもはコレクションを発表した後、私の性格もあってか暗い気持ちになってしまいますが、今回はいつもより少し幸せな気分になりました。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(Rainer Werner Fassbinder)の作品からインスピレーションを受けたということですが、実際にはコレクションへはどのように反映しましたか?

彼が作品の中で表現した、社会における争う人々の姿にインスピレーションを得ました。今回のコレクションでは「アウトサイダー」、「グランジ」、「パンク」と、NAMACHEKOを語る上で欠かせないキーワードをテーマに掲げています。

ランウェイのムービーからは少し暗い印象を受けました。特に全ルックが顔の半分をヘッドピースで覆っていて、今の先行き不安な時代を象徴しているように感じました。そのムードとは対照的にモヘアのニットやテーラードのロングコートなど、明るい色が度々見られます。これは何かのメッセージがあるのでしょうか?

その通りです、現在の世界情勢を強く反映しています。モデルが着用したヘッドピースは、私たちの体は自己防衛のために成長するべきだということを表現しています。コレクションの映像では一切の言葉によるコミュニケーションを排除しているため、ヘッドピースでこの考えを体現しました。しかしながら、私達が住む世界をより良くするために、物事へ対して疑問を抱く新しい価値観、責任感を知的に育んでいくというアイデアにより重きを置いています。私たちの社会には、人類と自然にとって良くないものが溢れており、それは、誰もが知っていることだと思います。一方でアイテムに用いた明るい色は、未来への希望であり、どのような状況にあっても諦めてはいけないというメッセージです。

今シーズンはさらにウィメンズのルック数が増えていますが、メンズウェアをデザインする際のアプローチとは異なりますか?

メンズとウイメンズコレクションが異なるものだとは捉えていません。これら二つは密接につながっていて、互いに変化していくものです。

9歳まで育ったイラク・クルド地域とスウェーデンでは、「装飾的とミニマル」というように、デザインに対する美学が相反するように思えます。そういったバックグラウンドは、どのように影響していますか?

私は常にクルドというアイデンティティからアイデアを得ようとしていますが、実際はスウェーデンの伝統や、実際に今仕事をしているベルギーの文化から強く影響を受けていることに気付きました。NAMACHEKOというブランドを構築する上で、これらのアイデンティティから得られる着想、そしてバランスを見つけることが重要なのです。

大学では土木工学を専攻されたと以前のインタビューで拝見しました。ファッションも極端に言えば、人々の生活を豊かにするという点で似ているのではないでしょうか。そういうことは意識しながらデザインすることはありますか?

今までエンジニアリングとファッションデザインの関係性について、意識的に考えたことはありませんでした。しかし、良い服は人生を豊かにし、実用的で美しいと感じるものでなくてはならないと強く信じています。装いを美しいと感じる一連の行為は非常に大きな力を持っています。何を持って美しいとするかについて、私は瞬時に美しいと感じられるものは永続的な美しさを持ち得ないと思います。これは私にとって非常に重要なことで、常に挑戦し続けている命題でもあります。

時代を超えた普遍的な美とは、一般的に美しいとされている価値観から少しだけ離れたところにあるのではないでしょうか。

@Dilan Lurr

シーズンを追うごとにルックの一つ一つが洗練され、シルエットやショーのスタイリングも計算されつくしていて、完成度の高さにうっとりしてしまいます。これも土木工学を専攻した影響が作用している、もしくはいわゆるご自身は完璧主義者なのかなと感じます。

最初の質問に戻りますが、私は完璧主義者であるために苦労をしています。コレクション後に満足感を得られないのは、毎回不完全な点があるからです。私にとっては、各コレクションがそのシーズン毎のレファレンスをより詳細に再現できることが非常に重要なのです。

毎シーズン困難なのは、意味を成しながらも私自身と結びつきのあるインスピレーションを見つけること、その着装源に忠実であり続けることです。

国を超えての移動やアートエキシビションの開催が困難な現在、どうやってインスピレーションを得ていますか?

よく読書や映画鑑賞をしますが、今シーズンはそれ以上に重要な事に気づきました。ある意味、自分がファッションデザイナー以外の何者でもないと初めて自己認識することができ、最もコレクションの内容に自信を持つことができました。それは自分自身をより深く見つめ直すことにもつながり、今ではより一層、自身の感性に従って仕事をするようになりました。

それでは最近特に印象深かった本や作品を教えてください。

Semiotext(e)というドイツの独立系出版社が出している『The German』を最近読みました。ベルリンの壁の崩壊前後の社会変化についてを収めたドキュメンタリーです。また最近は、70年代のイタリア映画やSFにもハマっています。

2020年秋冬コレクションでは、グレゴリー・クリュードソン(Gregory Crewdson)とのヴィジュアルを披露しました。進行中のコラボレーションなどのプロジェクトがあればお聞きしたいです。

 

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今のところ彼とコレクションでのコラボレーションの予定はありませんが、写真作品などのコラボレーションは今後も考えています。もちろん誰かが面白いアイデアを持ってきてくれれば直ぐにでも何かしたいと思っています。

現在の状況下では着飾る機会が減っていますが、ファッションが社会や個人に貢献できる部分とは何でしょうか?

服を着ることによって美しいと感じることは、今まで以上に重要になっていると感じています。ファッションは、人々を夢中にさせ、夢を抱かせてくれるのです。これは今、本当に大切なことだと思います。

今後ブランドとして成長していく上で、必要だと感じることをお聞かせください。

有難いことに、NAMACHEKOは過度に私へ依存することなく成長を続けています。もちろん私は自分の仕事を全うしますが、今はブランドが大きくなっていくのを肌身に感じています。

今後は状況が良くなれば、以前のようにフィジカルのショー開催を考えていますか? フィジカルのショーの良い部分やメリットと考える部分があれば教えてください。

パリで開催するのか、どのような形式なのか今は分かりませんが、また実際のショーができればと思っています。しかし、私の作る服は生活の中で人が着ることを想定しているため、フィジカルで発表することが非常に重要です。ビデオや写真を通せば、どんなものでも良いものに見せられます。しかし本当に良い服とは実際に目にして、着て初めて良さが分かります。デジタルのショーはリスクを伴うと理解する必要があります。

NAMACHEKOとして今後目指していくことは何ですか?

ゴールはありません。次のコレクションの事だけを常に考えています。