style
Where the runway meets the street

Jacket CELINE

******************************************************************************
多数派=オシャレ、じゃない。

多数派をマーケットしたプロダクトやメディアコンテンツは、無意識のうちに偏った社会的価値観を植えつけてしまうことがある。数字への執着がもたらす多様性を喪失と社会の分断、そして表現のテンプレート化による人間性の喪失。多数派、少数派のどちらに属していようとも、数字のツケは必ず回ってくる。多様な視点を持つことは、現代社会を生きぬくための必須条件だ。

HIGHSNOBIETY JAPAN新連載「プライドスタイル」では、レアリティとその誇りあるスタイル(生き方)を発見、後押しする。多様性への理解を深め、多様性を包括する社会へ行動を促す。
******************************************************************************

生物学的には女性の肉体を持って生まれたKILAは、自分が持つジェンダーの側面を流動的に楽しんでいる。隆々としたたくましい背中にセクシーなギャランドゥ、タトゥーの入った武骨な手にフラットな股間は、これまでの歴史が語ってきたジェンダーとは少し様子が違う。この神秘的な肉体にジェンダー新章突入の汽笛を鳴らさずにはいられない。

Necklace TIFFANY & CO.

‒–‒–ものごころついた時の性認識と体とのギャップはどう感じていましたか?

小さい頃から自分の意識としては男性的だったと思います。小学校まで髪がすごく長くて、中学に入った時に髪をバッサリ切ったんです。自分がいったい何者なのか分からなくて、周囲から見ても結構変わっていたと思います。コンプレックスの部分を含めて、弱い部分を隠すためにツンツンしていました。中学校は結構自由な雰囲気だったので、女の子なのに坊主にしてすごく派手にしたりして、自分の悩みの部分を隠していたのかもしれないです。弱い自分を感じられたくないというか、そっちに意識がいかないように。

自分の体や、男性器がないことについてすごく悩んだ時もあるけれど、生まれ持った体だし、それを理解して、自分のコンプレックスの部分も含めて一緒に生きられるようになりました。

Jacket, Pants GIVENCHY

‒–‒–受け入れようと思ったのはいつですか?

中学一年生くらいの時かな。その頃から18歳くらいまでは女性に恋心を抱いていたんですけが、18、19歳くらいから恋愛対象はずっと男性です。

男性的である=女性を愛することだと思っていたので、他の選択肢を知らなかったんです。男性を好きになるなんてあり得ないと思っていました。ある時、男性から素敵だねって言われた時に、嫌な感じがしなくて。心地良かったというか。

そういう人達がいることは知っていたし、自分がLGBTQ+の中の一人だっていう認識もありました。自分はトランスジェンダー(T)、プラスで男の人が好きだからゲイ(G)。FtMゲイとかって言われるらしいです。でも今FtMっていう言葉自体もだんだん「トランス男性」と世間では言われ始めていて、僕もそこは鈍いんですけど。

2丁目に行き始めて感じたのは、いろんな人がいるんだなって。その時にSNSをやっていたので、男性のゲイの方からメッセージをもらうようになりました。男として可愛い、みたいなメッセージをもらうようになりました。あなたはトランスジェンダーだけどすごく素敵だねと言われた時に、すごく嬉しかったです。

Jacket GIVENCHY

‒–‒–社会で嫌な思いをしたことはありますか?

嫌なことを言われたことはないです。それ以上に変なやつだよなって言われたくて(笑)。“女性” とか “男性” とか感じさせたくなかったし、あいつはあいつだよなって言われるぐらいでありたかったんです。でも一時期、男性トイレと女性トイレのどちらに入れば大丈夫なんだろうと思ったことはあります。それはちょっと嫌でしたね。

小さな頃に、「自分はいつかちんちんが生えてくるんだ、いいだろう」って大声で自慢してたみたいで。覚えてないんですけど笑。男の子達に混ざって立小便を一緒にやりたいと言ったりしてたみたいです。

スカートも女の子向けのアイテムもすごく嫌がって、だから家族は薄々気づいていたと言っていましたね。これが自分ですっていうのを全面に自己主張してたから、今まで改めてカミングアウトというものをしたことはないんです。中学校に入って坊主にしたのも、誰にも聞かずに自分の意思でやりました。誰かに許可を得ることがすごく苦手でした。

18歳になれば診断書さえあればホルモン治療を自分一人で始められるというのをネットで調べて、18歳の誕生日のすぐ後に一人で病院に行って診断書をもらいました。

 

Necklace, Bracelet TIFFANY & CO.

‒–‒–学校を卒業してからは?

中学を卒業した後にすぐ働き始めました。最初はたまたまポストに入っていたブライダル関係の飲食店の求人を見て応募しました。時給が良かったんです。赤い坊主頭で面接に行っても、「すごいね。個性的だね。なんか面白いからいいよ。その髪型と外見もなにかの自己主張なんでしょ?」って言われてそのまま採用されました。ホールでは働けないから、最初はキッチンで働き始めました。そういう意味で、僕はこれまですごく人に恵まれていると思います。

‒–‒–理解のある飲食店ですね。その時、履歴書の性別欄は?

戸籍が女性だし、声も高かったので [女性] にマルをしていましたが、面接では自分はこんな感じで生きてきました、とちゃんと伝えました。

Shirt RICHARDSON, Necklace, Bracelet TIFFANY & CO.

‒–‒–ファッションにおいて、KILAくんは男らしさと女らしさをどのように捉えていますか?

小さい頃は学校や周囲の友人から感じる “男の子っぽさ” 、“女の子っぽさ” に大きく影響をされていたので、それこそピンク=女の子っていうイメージが強かったです。自分に自信がついてからは、キラキラした可愛いものだとか、昔は女の子っぽさを感じて苦手だったピンク色も素敵だなと思うようになりました。コンセプチュアルなファッション撮影とかならスカートも全然嫌じゃないんですよ。

歳を重ねるごとに自分がどんどん解放されていっている感じが好きで。ある意味 “自分のジェンダーで遊ぶ” みたいなこともどんどんチャレンジしたいと思っています。メイクアップもちょっと可愛いと思ったり、撮影で肌を出すことも楽しいし、自分という素材で遊んでいる感覚が楽しいなと感じています。

 

Necklace, Bracelet TIFFANY & CO.

‒–‒–将来的には手術は考えていますか?

乳腺の手術は受けたいと思っているのですが、それは自分が男の体になりたいからではなく、美容整形に感覚が近いのかもしれないです。胸のふくらみは自分にとっては美しくないから取りたいな、という感覚です。(手術をすることで)戸籍を変えたいというよりは、今、自分がどうなりたいか、どうありたいか、というだけです。

‒–‒–美しさやかっこよさは主観でいいということですね。Instagramで女性器は残しておきたいと投稿していましたね。

女性器は自分の魅力の一つだと思っています。そこをもっと全面に出していきたいくらいに。自分には男性器がないのでパンツを履いても股間はぺったんこなんですが、ほかのFtMの方々は美意識から股間のふくらみをつくる人もいます。僕は生まれ持った女性器を受け入れているので、もっこりは入れたくないんです。メンズの撮影でも、自分の体のままでありたい。メンズパンツを履いて、そこがクシャッとなっていて、あれ、そこに何もないのかな?っていう感じが僕は好きです。矛盾しているけれど、それでも好きなものを着たいという感覚。外見は男性的だけど、股間には女性器がある、というのが僕はエロスを感じます。

‒–‒–最後に質問です。「普通」についてどう考えていますか? 自分は普通じゃないと思う?

普通ではありたくない、と常に思っています。

Shirt, Shorts, RICHARDSON, Necklace, Bracelet TIFFANY & CO.

 

スタイルノート

*Jacket

CELINE(セリーヌ)
エディ・スリマン(Hedi Slimane)の反骨精神は謀らずもエフォートレスに体現される。襟や袖、胸元にチェーンを配したパンクなレザージャケットはボリューミーなシルエットで品の良さも見え隠れする。

*Jacket
*Pants

GIVENCHY(ジバンシィ)
ノーカラー&タイトシルエットのレザージャケットにチェーンが付属するパンツをチョイス。マシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)の魔法にかかれば、小ぶりなアクセサリーでも無骨な印象を作り出せる。

Tiffany & Co.(ティファニー)
ニューヨークのパンクなスピリットに着想を得て誕生した「ティファニー ハードウェア」は、クラシックとエッジーさが共存する。アイコニックなエルサ・ペレッティ™️のボーンカフは、身につければファッション上級者。ステートメントジュエリーの代表格。

Richardson(リチャードソン)
20世紀後半ヨーロッパ成年漫画界に深い影響を残したイタリアを代表するコミックアーティスト、グイド・クレパックスのグラフィックを全体にあしらったチャーミングなサマーセットアップ。