耳が聞こえないをユーモアに
僕たちらしい声のかたち
All POLO RALPH LAUREN
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多数派=オシャレ、じゃない。
多数派をマーケットしたプロダクトやメディアコンテンツは、無意識のうちに偏った社会的価値観を植えつけてしまうことがある。数字への執着がもたらす多様性を喪失と社会の分断、そして表現のテンプレート化による人間性の喪失。多数派、少数派のどちらに属していようとも、数字のツケは必ず回ってくる。多様な視点を持つことは、現代社会を生きぬくための必須条件だ。
HIGHSNOBIETY JAPAN新連載「プライドスタイル」では、レアリティとその誇りあるスタイル(生き方)を発見、後押しする。多様性への理解を深め、多様性を包括する社会への行動を促す。
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耳が聞こえるサエキ(長兄)と、聴覚障がいをもつナツ(次兄)とマコ(三男)からなるイケメンユーチューバートリオ「POC(Piece of Cake=大したことないの意)」は、耳が不自由な人の日常生活のあるあるや手話を面白おかしく伝える動画を投稿している。
手話が使えるカフェに行き、誕生日パーティーを開く兄弟の楽しそうな生活は、聴覚障がい者と優しい社会のつながりが垣間見れるのだが、実際のところはどうだろう? あなたの働く会社に障がいを持つ人は何人いるだろうか? モデルや俳優をしている聴覚障がい者は何人いるだろうか? 少なくとも私の知るファッション、出版の業界には一人もいない。執筆業に携わるのに、蛙飛び込む水の音が聞こえないとだめなのだろうか?
効率と生産性重視の資本主義社会に置き去りにされた障がいをもつ人は、同じスタートラインにすら立てず、夢を“語る”どころか、“知る”ことさえできない。その事実を知ることさえなかった盲目な私こそ、本当の障害者であると痛感した。
Mako(Top) wears Jacket CELINE, Natsu wears Jacket CELINE
——車が好きと聞きましたが、運転はできますか? 免許はもっていますか?
ナツ:まだです。車を作るのが夢です。
サエキ:高校卒業してすぐに仕事が始まっちゃて、なかなか時間がないんだよね。聴覚障害の人達が通える教習所があるのですが、手話通訳がつくからちょっと高いみたいです。
——免許を取ったら何に乗りたいですか?
ナツ:Jeepです。
All BOTTEGA VENETA
——障害者採用ではなく、一般採用で仕事がしたいと思ったことはありますか?
ナツ:ないです。
サエキ:今勤めている会社しか考えていませんでした。でも、選択肢は少なかったと思います。
——聴覚障害を持っているから選択肢が狭まるというのは疑問ですね。
サエキ:僕も思います。
ナツ:聴覚障がい者の採用の確率は低いです。
お母さん:選べる職種が限られています。芸能界でもいないですよね。実際スカウトされたことがあるんですが、この子は耳が聞こえないですけどいいですかと聞いたら断られたんですよ。耳が聞こえないからできない職種は多いのかなと思います。
——障害の度合いや仕事内容によっては、障害者採用でなくてもいい場合があると思います。例えば、メディアで言えば、耳が聞こえなくてもできる仕事はたくさんあります。
お母さん:もともと、特別支援学校にくる求人は健聴者のように多くの職種から選ぶことができません。
——学校で限られた選択肢だけになってしまうのには違和感がありますね。
お母さん:本当にそう思います。中学生の時にパイロットになりたいと言っていたんですが、耳に障害がある人はできないって言われて。自分の夢をあきらめることが多いですよ。この子もはじめ勧められた企業は、希望の職種ではありませんでした。どうしても、希望する職種に勤めたいと先生に伝えて頑張ってなんとか入社することができました。
動物のトリミングをやりたいっていう子もいましたができませんでした。専門学校の多くは、聴覚障害のある人の為の情報保障がまだ整備されてないんです。予算のある大きい大学はいくつかあるんですけれど、専門学校に至ってはほとんどないので……。
サエキ:大学に入ったとしても、話しながらの講義なので、聴覚障害者には不利に働くことが多いです。
——もし選択肢が多かったらいろいろな仕事をしてみたいと思いますか?
ナツ:はい。
——やりたいけれどできないフラストレーションを抱えている友達はいますか?
ナツ:タトゥーの彫り師をやりたいけど、耳が聞こえないから相手とコミュニケーションが取れなくて断られたみたいです。今は他の仕事をしています。
サエキ:聴覚障害者は耳が聞こえないだけじゃなくて、コミュニケーション障害とも言われているんです。
All PAUL SMITH
——今こうやってコミュニケーション取れていますよね?
サエキ:これが合理的配慮と言って、ナツのためにコミュニケーション方法を考えることです。ただ時間がかかりますね。
——時間がかかってもいいと思います。
サエキ:みんながそう思ってくれればいいのですが……。
お母さん:社会人になって、健常な人達とうまくコミュニケーションが取れなくて会社を休みがちなったり、引いては退職、心の病気になったりすることもあると聞いています。
聾学校ではそれを防ぐために、卒業後もサポートしてくれていて、離職率は少し下がったと聞いています。どうしても目に見えない障害なので、軽視されているように思います。補聴器や人工内耳をつけていれば普通にコミュニケーションできると思われてしまうのですが、実はコミュニケーション障害だと理解いただけない場合が多いです。
——今回私は聴覚障害者に初めて会いました。言い訳に聞こえてしますかもしれませんが、私を始め、そのような人達が生きづらいシステムになっていることをそもそも知らない人が多いと思います。自分ごと化できる環境ではなかったと感じました。
サエキ:知る機会がやっぱり少ないんだと思います。交流する場がないと思っています。それを変えたいと思ってYoutubeも始めましたし、これから自分達が携わる仕事も交流する場所を作ることです。
入口は何でもいいと思っていて、自分達がいろいろやっていく中で、「あ、耳が聞こえない人達はこんな感じなんだ」と知ってもらえれば変わっていくと思います。
——これからの夢は?
ナツ:今日モデルをやってみて自分がどうなってくのかすごく楽しみだから、モデルをやってみたいです。
マコ:デフ日本代表サッカー選手とプロゲーマーになるのが夢です!
サエキ:聴覚障がいのある人達も、より社会で生きやすい世の中になるように、YouTube等で情報発信をしつつ、聴覚障害のある人もそうでない人も共に遊び学べるような居場所を作りたいなと思っています。
POC
耳が聞こえる 長男・サエキ、耳が聞こえない 次男・ナツ、三男・マコが、面白おかしく「手話」や「聴覚障がいのあるある」などについてYouTubeで発信する三兄弟。
スタイルノート
CELINE(セリーヌ)
オーバーサイズのレザージャケットとフーディー&CELINEのロゴ付きのレザージャケットは、重厚感とカジュアルのバランスがちょうどいい。
BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)
ボールドなグリーンとブラックのアートなコントラストのセットアップ。ユーモアを感じさせるシルエットのブーツは、グリッターゴールドやシューレースタイプでの展開。
Polo Ralph Lauren(ポロ ラルフ ローレン)
豊富な色展開と素材をオーセンティックなシルエットで楽しめるのがPolo Ralph Laurenの強み。自分らしいカラーブロッキングを多様に楽しみたい。
Paul Smith(ポール・スミス)
ナイトの称号を持つ偉大なるポール・スミスが持ち合わせるのは独特のアート感覚。伝統的で誠実なシルエットも柄や遊び心溢れるプリントにより、カジュアルでもフォーマルでも決まるルックが完成する。
- Photography: Sakiko Nomura
- Grooming: Takeshi @ Sept
- Edit: Yuki Uenaka