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ドイツのケルンで誕生したRIMOWA(リモワ)が創業125年を記念して、NY・ケルンの3都市を巡回するエキシビション「SEIT 1898」が東京・原宿で封を切った。工業デザインの歴史が常に技術革新とともに歩んできたように、航空機の素材から着想を得たRIMOWAも時代とともに進化してきた。

当展示では、アルミニウムやポリカーボネイトなど時代の革新的な新素材を通して技術の進歩を垣間見ることができるが、最も着目するべきは、この軽量かつ堅牢でシンプルなスーツケースがいかに多岐にわたり様々な業界と密接に関わり、文化的な発展に貢献したかにあるだろう。ある時は音楽家の特別な楽器の搬送に繊細に向き合い、またあるときはメイクアップアーティストの複雑なリクエストに応えた。ゴルフクラブ、シガーケース、シャンパン、ラジオ……RIMOWAによって安全に移動したカルチャーの担い手は様々な土地で伝播し、発展を遂げることで新たな文化を作り出してきたのだと実感する。

エキシビションでは他に、多くのファッションブランドと行ってきた様々なコラボレーションがじっくりと見られるのも魅力だ。ファッションデザイナー、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がケルンの工場に足を運び、斬新なアイデアで産み出した透明なスーツケースは、ファッション文化と技術の側面においてひとつの時代の象徴と言えるだろう。他には、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)やオラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)などといった現代アーティストが手掛けたピースもお目見えする。

デスティネーションが増えるたびにスーツケースにはステッカーが増え、表面についた傷を見ると旅の記憶が鮮明に蘇る。会場ではステッカーによるインタラクティブな企画も楽しめるが、クライマックスは特別に陳列されたミュージシャン、パティ・スミス(Patti Smith)やアーティスト・村上隆など著名人達の個人的なスーツケースの圧巻の展示だ。何千マイルを隔てて一人ひとりが紡いできた旅のストーリーを垣間見ることが、冒険や体験に溢れた旅の魅力を再確認させてくれる。

東京を皮切りにスタートしたエキシビションにあたり、RIMOWAのマーケティング&製品担当シニア・ヴァイス・プレジデントのエミリー・デ・ヴィティス(Emelie De Vitis)に話を聞いた。

——125周年おめでとうございます。東京をスタート地点とした展覧会の旅が始まりましたが、どのようなお気持ちですか。

日本には1979年から参入してるのですが、日本ではRIMOWAがカルト的な人気を博しています。まず東京の皆さんに初めにお見せしたいと思い、最初の場所に選びました。外に出れば、街中や新幹線など、本当にどこにいてもRIMOWAを見かけますし、日本の旅行者はRIMOWAの耐久性、職人技術、品質への信頼を高く評価していると感じますし、日本市場で成功している理由の一つだと思います。

——展示会でスーツケースに個々の物語があることを知って興味深かったです。

スーツケースを長年使っていると、ひとつひとつに物語が生まれます。自分がどこを訪れたのか、どこにいてステッカーを貼ったのか、いつ傷がついて、いつへこんだのか、そういうことを正確に覚えています。それがある意味、永遠のアルミの美しさだと思います。

——私は傷がつくのが嫌でポリカーボネート製を買ったのですが、その話を聞いてアルミニウム製にしたくなりました。

最初の傷はショックですよね。でもそれによってスーツケースが個性を持ち始めますし、何度も世界中を旅した人のスーツケースは、私にとっては芸術作品です。それが今回の展示の着想源にもなっています。ステッカーを貼ることで、スーツケースに自分らしさを映し出すことができます。

——RIMOWAは旅行鞄のブランドとしてだけでなく、ライフスタイルや他の産業にも貢献していることが興味深いと思いました。

RIMOWAの魅力は、どんなカテゴリーにも参入できることです。ポーカーゲームやチェスなどのボードゲームへの進出も、その一例です。これまで、音楽のカテゴリーではバイオリンケースを発売しましたが、次はフルートやトランペットのケースなどを作る予定です。私達の製造には様々なものをデザインできる能力がありますので、アーティストに部品を渡して、彼らが想像を膨らませ、家をつくるように創造性を働かせます。彼らのクリエイティブによって、アルミニウム製品が象徴的になります。

——業界の垣根を超えて表現することでさらなる広がりが生まれるんですね。

前回の取り組み「lifetime of memories(生涯の思い出)」では、初めて使用済みのスーツケースを紹介しました。旅の相棒として何年も使用した通称「LOVED SUITCASE(愛すべきスーツケース)」は、持ち主の個性を表現することを前面に打ち出したんです。同時に、耐久性があるので長らく旅の相棒になることができる。そのため、スーツケースが壊れたら代わりを提供するのではなく、修理をする生涯保証を導入しました。これが、私達が競合他社との差別化を図っているポイントでもあります。私達が持続可能性を信じ、優れた製品を作ることで、旅においてそれらを維持できると信じています。この点において、RIMOWAはファッションとは少し異なるのです。ファッションでは常に再発明や新しさが求められますが、スーツケースは何十年も旅の相棒となります。

——日本には金継ぎのように修理する文化があるので似ているかもしれません。

私達はドイツで「RE-CRAFTED」というプログラムを導入し始めました。修理が必要なRIMOWAのアルミ製スーツケースを店頭にお持ちいただくと、新しいスーツケースを購入できるバウチャー券と交換でき、私達はそのスーツケースを修理して再販するというものです。1年前にテスト的に導入し、今ではドイツ全土で実施されています。破損の修理をして、傷やステッカーはそのまま残して販売すると、驚くことに数分で売り切れてしまいます。これは、スーツケースが持つ物語や歴史に需要があることを示しています。今後日本でも展開する予定ですが、きっと高く評価してもらえると考えています。「RE-CRAFTED」によってスーツケースに新たな命が吹き込まれ、中古品の素晴らしさを伝えることができると信じています。

——中古品というより、芸術作品を購入するようですね。

そのスーツケースも持ち主の物語を想像し、その物語をどのように継承していくのかも想像できますね。これは私達が最高に誇るものです。

——革命の話に戻りますが、デジタル革命の第3波が押し寄せていますが、このデジタル革命とどのように連携していくのがいいと思いますか?

面白いことに、RIMOWAは、常にブランドを「purpose for travel(旅行の目的)」と結び付けてきました。旅行するなら、それは豊かさや向上心、目的を持って行うものであると。私達は「wanderlust(放浪)」のように様々な場所を巡る旅行とは異なり、本当の意味での成長や向上の概念を重視しています。また、人々は基本的に旅行を続ける必要があると思います。著作家、マーク・トウェイン(Mark Twain)が「旅行は、偏見、意固地、偏狭さ、にとって致命的だ」と言ったように、私達は人々に自分自身を高める旅行をしてほしいと思っています。旅行するなら、意味のある旅行をし、自分自身のより良いバージョンになることを意識して旅行することが重要です。私達は「目的を持った旅行者」と呼ぶ人々に対して最高の旅行ツールを提供することを確認したいと考えています。

メタバースに関しては、RTFKT(アーティファクト)とのコラボレーションが非常に成功したことがあります。私達にとっては、メタバースとも結びついた具体的で物理的な要素を持つアイデアであり、限定版のスーツケースを製作した理由でもあります。私達は今後起こることに非常に意識を向けています。ただし、トレンドに飛びつくのではなく、現状を見極め、どのような機会があるかを確認した上で行動することを優先しています。

——RIMOWAが人生という旅にもたらすメッセージは何でしょうか?

メッセージは「耐久性」です。RIMOWAは一生ものであり、信頼できる相棒であり、全ての旅の経験や試練に耐えうる能力が生涯保険によって備わっています。また、私達は「誠実さ」という概念も提供しています。RIMOWAのスーツケースは修理のために設計されていますので、レゴのように破損した部分のみを取り替えることができるのです。優れたドイツの技術の力によるものですし、125年間、常に革新を追求して、軽量化、耐久性の向上などを怠ることはありませんでした。

——今後の技術革新において、どのような試みを考えていますか?

軽いスーツケースは飛行機の運搬を軽量化させることで脱炭素化に貢献します。ポリカーボネート製のスーツケースにおいては、製造工場でモールド製作機に投資するなど、資材の改良も行っています。アルミニウムのシートを切断した際に出る余り材料を溶かしてスーツケースの隠れた部分に注入することで、製造工程での廃棄資材がなくなります。このように、私達が持続的な改善に取り組んでいること、継続的にお客様の旅行のニーズに応えていることを知って欲しいですし、これらはすべてRIMOWAを購入する価値なのです。

——すべてケルンの工場で手作業で作られているのでしょうか?

ケルンの工場はオリジナルやクラシック、100%メイド・イン・ケルンなど、すべてのクラシックなスーツケースづくりが毎日行われています。非常に昔かたぎな工場で、10メートルのアルミ板を切断するような巨大な機械も見られますし、リベットを打つ職人もいて、ネジを打つのも手作業でやっています。2枚の板を合わせるマジシャンがいるのですがーーなぜマジシャンと表現するかというと、彼はハンマーで叩いて音を聴いてスーツケースの両側が正確に配置されていることを確認し、完璧に閉じることができるように丁寧に作業しているから。本当に魔法のようです。

——AIにはできないことですね。

はい、まさに。重厚なエンジニアリングと職人技術の組み合わせです。AIの開発に関して言えば、新しい製品を各地域の人々に紹介する際に、人々がゴーグルを着用して仮想空間などで新製品を見ることができるような方法を取るかもしれません。しかし、やはり私達は旅行のブランドです。常に人々が一緒に集まり、コミュニケーションを取ることは、何事にも代え難いことだと信じています。

『SEIT 1898』
期間:~6月18(日)
時間:11:00~19:00(最終入場18:00)
場所:ヨドバシJ6ビル(旧ジング)東京都渋谷区神宮前6-35-6
※混雑時は予約優先。下記サイトより予約が可能。