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Where the runway meets the street

SALOMON(サロモン)とASICS(アシックス)のスーパースポーティースニーカーに突如として花のモチーフが登場し始めた。アウトドアをインドア、オーガニックをテクニカルの領域に持ち込んできている。ランニングシューズに花束とはこれいかに。

2023年最優秀シューズと言って良いであろうadidas(アディダス) Sambaは、ニッチでありながら洗練された高級品としてのカスタマイズスニーカームーブメントの先駆けだった。それが今、遂にSALOMON、そしてASICSにも波及を見せている。SALOMONとASICSが2024年の最重要シューズブランドとなる可能性もあるかもしれない。

その原動力がイノベーション以外にあるとすれば、それは若い買い手の、スニーカーへの思い、そして自分だけのスニーカーを欲する思いの強さだろう。今日のスニーカーの形の根底には、他者との違いへの渇望がある。そんな中で選択肢のひとつとなっているのがDIYによるリデザインだ。

フィリピンの天才かぎ針編みデザイナー@ilyang.ilyangはその中核的人物として挙げられる。手編みの花のアップリケで高い評価を受けるデザイナー、ダフネ・チャオ(Daphne Chao)を、SALOMONはリニューアルしたスニーカー「Speedcross 3」を広めるべく起用した(チャオはSpeedcross 3向けに、花をモチーフとしたソックスをデザインした)。

@ilyang.ilyangの最新プロジェクトで、靴ひもへの取り外しができる、名前まで愛らしいハンドメイドフラワー “Bolomon” も、ソーシャルメディア上で大いに広まっており、スニーカーにあしらう花モチーフへの需要の高さが伺い知れる。

そしてASICSもセシリー・バーンセン(Cecilie Bahnsen)のフローラルスニーカーを2024年2月に発表している。

こちらはコペンハーゲンを拠点とするデザイナー、セシリー・バーンセンの2024年秋冬コレクションの一部として登場したもので、花のアップリケによって繊細さが表現されている。

程なく、定評あるブーツメーカー、Dr. Martens(ドクターマーチン)も、バーンセンのビニール製フラワーをあしらった爽やかな一足を加えた新シーズンのラインナップを発表した。

カスタマイズとフェミニン化を融合させたこの現象は、バレエコアが緩やかに逞しくなってきている現象と同じく、誕生以来拡大しつつある。

ただ今は、無骨なスニーカーが優しさを増す傾向の方がとにかくより強くなっていると言える。

花のモチーフ以外にも、スニーカー周りには新現象が登場している。

最近、ファッション界が女性寄りになっている傾向が、かつては可憐さとは無縁だったフットウェアにも広く影響をもたらしている。

フェイクパールをふんだんに使ったSimone Rocha(シモーネ・ロシャ)のCrocs(クロックス)や、本物のパールをふんだんに使った日本のジュエラーTASAKI(タサキ)のASICSなどが顕著な例だ。

SALOMONが最近発表したインラインシューズにも同じ現象がよく見て取れる。定番の人気スニーカーXT-6はパステルカラーのリミックス、リカバリースリッポンはシングルストラップのメリージェーンに変身して登場した。

3Dのフラワーモチーフをあしらったシューズは、ニットで作られていなくとも、非常にマイクロニッチなシューズとなる。

以前のDIY Sambaスニーカーは、TikTok世代の若者達が集団から完全に外れることなく際立った存在であろうとする思いからできあがっていったが、今般のフワラーシューズに関しては、トップダウン方式で意図的に展開されているクリエイティビティと言える。

フラワースニーカーに熱いファンは確かについているが、このトレンドは、単一で広まっているというよりは、あちこちで見られている女性らしいものが増えている傾向の一端と言った方が正しいだろう。ファンは居続けると思われるものの、パワーは限定的と言える。

とはいえ、インスタグラムでの名声がひとときのものであるとしても、咲いた花が散ってしまうことはないだろう。