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Where the runway meets the street

香水の現在地へようこそ。Highsnobietyでは今回新たに、目の肥えた買い手が本当に求める香水、避ける香水を明らかにする調査を実施した。(結果、セレブによる推薦の効果の薄さも判明)

香水とは謎に満ちた儚い存在。その香りの魔法は消費者の心を虜にする。吹き掛ければ目には見えなくなるが、香水には記憶、感情、人柄、幻想を想起させる力がある。香りの選択には自らが良い香りまとうということ以上の意味がある、と現代の消費者も捉えている。その魔法は今も消えていない。

消費者がどのように香水を発見し、購入し、身に着けているのかを把握すべく、Highsnobietyでは初の「香水の現在地」調査を実施。2023年8月、291人を対象に、香水との関係、購入習慣、そして現在の香水業界に関する見解を聴取した。

香水体験を「意図」「発見」「購入」「興奮」の4つの区分に分け、消費者の全体的傾向、嗜好、加えて香水初心者と愛好家の主な違いを探った結果、下記の通りとなった。

意図:香水を使う理由

アンケート回答者の72%が、香水を日常生活に取り入れていると回答。「フレグランスは強力な自己表現形態だと思う」と、ニューヨーク在住、29歳のブランドストラテジスト、ノア・ジャクソン(Noah Jackson)は言う。諸ブランドは従来、恋愛上のパートナーを惹きつけるツールとしての香水という認識を利用し、セクシーさを全面に出した広告を見せてきた。しかし今の消費者はもはや香水をそう捉えてはいないとジャクソンは考える。彼が選ぶのは、自分らしさの感じられる香水だという。アンケートでもその傾向は強く、75%が香水は自己表現の手段だと回答した。

「(香水は)自信、パーソナルブランド、対外的自己発信の手段。他人ではなく自分が主体だ」とジャクソン。LANCÔME(ランコム)のデジタルコンテンツ部門のシニアマネージャーであるアシュリー・ヘッド(Ashlie Head)も「時代は変わってきている。(香水は)自分自身を満足させるもの。外的な評価を求めて使うものではない」と、ジャクソンと意見を同じくする。ヘッドもまた記憶を呼び覚ますものとして香りを利用している。「祖母の香りといえばGUCCI(グッチ)のブルーム。子供の頃母が着けていた香りも覚えている。香りが記憶と結びつく感覚が良い」

回答者のほとんどが、服を着ることと同じ感覚でその日の香りを選んでいた。選ぶ際に考慮するのはその日の気分、時と場合(どこへ行き何をするか)。「軽快でフレッシュな気分のこともあれば、陰鬱な気分の日もある。それによって合う香りを選ぶ」と、Day One Agencyのシニア・エディトリアル・ディレクター、トレイ・テイラー(Trey Taylor)は語った。また服装を軸に香水を選ぶという回答者も見られた。香水愛好家の間でこれはOOTD(Outfit of the Day:その日の服装)を文字ってSOTD(Scent of the Day:その日の香り)と呼ばれている。「クラシックな服を着るときはエッジの効いた香りでコントラストを効かせる。(香水は)私の魂と服を繋ぎ合わせてくれる存在」とパリとニューヨークを行き来するヘッドハンター、クロエ・ベロッティ=ソノワ(Chloë Belotti-Sonnois)は言う。

71%が、自らのシグネチャーとなる香りを持っていることは重要だと回答。一方、愛好家(5種類以上のフレグランスを所有、と定義)の場合、単一の香りにはあまりこだわらないことが分かった。愛好家は、初心者(所有するフレグランスの数が1〜4種類と定義)の3.2倍の割合で、香水を、新たな香りを楽しむ意味において使用している。また複数のフレグランスを重ねづけし、独自の香りをつくり出す傾向も1.6倍であった。匿名で「他の誰かと同じ香りにならないように」あまり知られていないブランドや香りを探求する、との回答もあった。またジャクソンからの回答には、どのブランドかが分からない香りをまとうことで文化的影響力が得られる、との言葉もあった。「いい香り。何を着けてるの? 素敵」と声をかけられると「通の気分になれる」という。

発見:この香りはなんだろう?

インターネットは発見のための強力なツールだ。愛好家は特にこれを活用している。初心者の2.1倍の傾向で、TikTokのようなソーシャルメディア(よく見られているアカウントの例として@professorperfume、@emma_vern、@sircandlemanが挙げられる)や、Fragranticaやr/Fragranceなど、香りに特化したフォーラムを活用し、知らないブランドや香水をリサーチしている。またJeremy Fragranceなど、香水に特化したコンテンツクリエイターや、Perfume Room、Smell Ya Later、Nose Candyなどのポッドキャストもフォローし、おすすめの香水を探している。

ジャクソンが「バイブル」と呼ぶサイトにFragranticaがある。香水百科事典、メッセージボード、コラムの機能を持ったウェブサイトだ。テイラーはFragranticaのコメント欄を読み、香水ユーザーの直接の意見に触れたり、ワークアウト中に香水のポッドキャストに耳を傾けたりしている。「ウェイトリフティングをしながら(Fragraphiliaの司会者であるジェーンJaneとジェフ・ダシュリー(Jeff Dashley)による)香りの説明を聞く時間にはとても充実感がある」と彼は言う。Scented Watersなど、香水のDiscordチャンネルで動画視聴もするという。そしてこれら全ての情報源が、彼の購入意思決定に「とてつもなく」影響するという。

ブランドや香水への関心に火をつけることに関してインターネットが重要な役割を果たすのは確かだが、画面越しでは香りを嗅ぐことはできない(少なくとも2023年の時点ではできない)。そのため、オンラインで始まった発見の旅も、たちまちオフラインへと移行することになる。本調査では45%が口コミを頼りに新しい香りを探すと回答。オンラインショッピングの成長をものともせず、百貨店で香りを試す、購入するという回答が40%に上った。全体の80%近くが購入前に香りを試すことを必須と回答。試さずとも購入すると答えたのは初心者で15%、愛好家でも30%に過ぎなかった。

ロンドンを拠点に活動する写真家のショーン・ニュートン(Sean Newton)は、市内の高級百貨店セルフリッジのフレグランスコーナー巡りを趣味としている。またジャクソンはニューヨーク市内のScent Barに足しげく通っているという。ブランドや香水に関する幅広い情報が手に入る点については2人ともオンラインを高く評価するものの、ヴァーチャルな情報源の限界についても意見を同じくしていた。「Fragranticaを深掘りしていくこともできるけれど、たまには、ずばっと『あなたが試すべき香りはこの3つだ』と言ってくれる人がいると嬉しい」とジャクソン言う。Scent Barに行くとスタッフからそんなコメントがもらえるというわけだ。香りは個人的なものであり、人によって異なる感情や記憶を呼び起こす。だから、香りそのものを感じることのできないオンラインコンテンツでは、リアルでの発見には太刀打ちできない。ニュートンがセルフリッジでまだ知らない新たなフレグランスを見て回るのに惹かれるのは、そこに「ミステリーと衝動」があるからだ。「たまに、出合うつもりのなかった香りに出合うことがある。嗅いでみた瞬間、これはいい。是非チェックしておきたいと思う。そんなふうに、瞬間的に感じることが多い」

購入:香水の引き金を引く

テイラーは香水に330ドルをかけることもある。そんな彼にとっては自宅の棚に置いたときの香水のボトルの見栄えも重要だ。「香水は良い香りのものであるのと同時に、芸術品としての意味もある」と彼は言う。調査でも半数近くが、容器が購入を左右すると回答していた。200ドルまでを予算としているヘッドも、デザイン性の高いボトルを「装飾品」と位置づけている。

香水に100ドル以上かけると回答したのは回答者の71%。愛好家の場合、なんとその3分の1が良い香りであれば500ドルまで支払うと回答した。しかしなんでも購入するというわけではない。87%が、香水の香りや成分が購入の決め手となると回答。香りの好みは当然人それぞれだが、回答者の80%が香りの持続性を重視していることから、持ちの良いベースノートとして王道のバニラ、アンバー、スパイス、ウッドなどが好まれることがうかがえる。

インタビューでは、香水マーケティングについて、時代遅れとする意見が圧倒的に多かった。「裸で馬に乗る女性、水から半裸で上がる屈強な男性のイメージから抜け出せずにいる」とテイラーは言う。「正直引くほど時代遅れだ」とジャクソン。「『これをつければすぐにセクシーになる』という感じで(ブランド側は)香水の宣伝をしているけれど、その感覚がもう古いと思う」

香水の広告によく登場するセクシーを極めたヴィジュアルは、フレグランスのジェンダー規範が異性愛を基準としている点にも通じている。レザーのようなウッディな香りはしばしば「男性的」として、フローラルでフルーティーな香りは「女性的」として売り出されるが、こうした傾向については今回の調査でも過半数が時代遅れだと回答した。61%がフレグランスのジェンダー区分を気にしていない。自身の性別向けに作られた香りを買うと回答したのは、初心者で24%、愛好家ではわずか8%だった。「『女性用』香水を意図的に男性に贈ることもあるし、『男性用』とされているものを女性に贈ることもある」とベロッティ=ソノワは言う。

今回の調査ではセレブリティによる擁護についても厳しい回答が得られた。有名人の香水ブランドに惹かれると答えたのはわずか2%で、香水を買う際に有名人の一押しを考慮すると答えたのはわずか1%だった。「偽物な感じがする……。とはいえ、努力しているのは分かる」とセレブが顔を務める香水についてテイラーは語った。良いと思う香水には200ドルかけると答えたベロッティ=ソノワも同じくセレブ香水に幻滅している一人だ。「有名人に大金を払っている(ブランドは)その分の原材料にお金をかけていないようにさえ思える。PRではなく中身に力を入れて欲しい」

セレブリティやセクシーさに頼って香水を売ろうとするのではなく、消費者を没入させるようなイメージ、コピー、世界観を重視したマーケティング戦略を立てるべきだとテイラーは考えている。その模範例として彼が挙げたのは日焼け止めのブランドで香水も出しているVacationだ。パッケージから広告キャンペーンに至るまで、全てが1980年代のビーチリゾートを思わせる。ジャクソンもまた、香水の広告にはセレブ起用以外の道があると考えている。「抽象的な写真使いに興味をそそられる。質感や写真のスタイルから香りの雰囲気を感じることができるから」

興奮:刺さるものと鼻を刺すもの

ニッチ・フレグランスには今、勢いがある。調査では回答者の78%が、LE LABO(ル ラボ)、BYREDO(バイレード)、DIPTYQUE(ディプティック)といった小規模な(しかし紛れもなく影響力のある)ブランドを、その職人的な感覚から支持。また、D.S. & DURGA(ディー.エス. & ダーガ)、Kilian Paris(キリアン パリ)、FREDERIC MALLE(フレデリック マル)、2023 Fragrance Foundation Awardを受賞したBDK Parfums(ビーディーケーパルファム)といったニッチなメゾンもお気に入りブランドとして挙げられた。

とはいえ、デザイナーズフレグランスブランド(その多くが何十年も前から存在し、品質と名声の名声を確立している)は依然として強い。今回の調査でも、58%が、CHANEL(シャネル)、DIOR(ディオール)、YSL(イヴ・サンローラン)といったブランドは依然として魅力的だと回答。また、LOEWE(ロエベ)、TOM FORD(トム・フォード)、そしてMaison Margiela(メゾン マルジェラ)のREPLICAラインといった後発のデザイナーブランドも人気を示した。

香水は神秘的で錬金術的な芸術形態とみなされている。そんな香水に現在求められるのは情報開示だ。知識欲が高まっている。今回の調査では44%が、調香の説明や専門用語が分かりにくいと回答。特に分かりにくいものとして、天然香料と合成香料の使用が挙がった。こうした内容をブランド側から分かりやすく示して欲しいとテイラーも言う。バランスの取れた香りを調合するためには合成香料が重要であり、大量に栽培、収穫しなければならない天然香料よりも合成香料の方が持続可能性に優れる場合が多いと、ほとんどの調香師は考えているが、「天然でない」成分の安全性に関する恐怖心を煽るような誤った情報も横行している。「合成香料を使用している理由をブランド側からきちんと聞きたい」とテイラーは言う。「魅力云々とはかけ離れた話ではあるけれど、買い手として聞く必要がある」

成分に関する認知度が高まれば、ブランド側もストーリーテリングを充実させ、買上率を高めることができる。「(ブランドの)ソーシャルメディアで製法や着想源が公開されていると引き込まれる。店舗を見つけて試してみたくなる」とベロッティ・ソノワも語った。

ヘッドも、ソーシャルメディアのコンテンツを、フレグランス業界が活かしていくべき肥沃な土壌と見ている。とはいえ、そこには難しさもある。「メイクのチュートリアルの場合、できあがりの効果は一目瞭然。スキンケアの場合も経過写真を見れば効果が分かる。香水の場合には表現が難しい」と彼女は言う。TikTokやInstagramで香りを伝えることは難しい。しかしヘッドはインフルエンサーによる香水コンテンツを楽しんでいる。特に服装に合わせた香水選びに関するコンテンツが良いという。

生活に香りを取り入れる方法のイメージに役立つのは、ソーシャルメディアのコンテンツだけではない。ヘッドがブランドに望むのは「このタイプの香りが好きなあなたにはこの香水がおすすめ」であるとか、「これまでにこの商品を購入したことがあるあなたにはこれがおすすめ」といった形で、消費者と香水とをペアリングしてくれるようなクイズ形式のコンテンツだ。

香水用語が分かりにくい件に関しジャクソンは、様々ある香水の区分についてブランド側からの説明が欲しいと考えている。「何度も検索したけれど、オードパルファム、オードトワレの違いは分かりにくい」と彼は言い、香水に含まれる香油の濃度を示す用語を列挙した(最も濃いところにパルファムとエクストラットがあり、以下、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、オーフレッシュと続く)。「スプレー、オイルベース、ロールオンのフレグランスの違いと、どういう場合にどれを選ぶべきかについても知りたい。誰かに解説本を書いてほしいと思うけれど、書いてくれない?」