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Life beyond style

100年前と100年後を憶えるものづくりは、作り手の哲学や思想をたっぷりと蓄え、資本主義による効率化から逸脱した、異様な空気を漂わせている。工業化に始まり、デジタル革命という2つの大波により画一化されたもので溢れかえったこの時代では特に、その異質さが意味するものは大きい。非常にパーソナルな物語で語られる「個人による個人のためのものづくり」は、限界を迎えた資本主義におけるものづくりの次章突入を宣言する。そして、過去の遺物を蘇らせることで未来の考古物を発掘することをコンセプトにしたブランド「Taiga Takahashi」のデザイナーで現代美術家の髙橋大雅による “時間学” がそれを加速させる。

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——考古学的な発想でものづくりをするようになった経緯についてお聞かせください。

人生の半分近くを海外で過ごした中で、日本のものづくりは何かという疑問がありました。アートやファッションといった西洋発祥の文化を今まで学んできましたが、日本人としての自己表現が必要だと常に意識をしてきました。日本のものづくりは何か既にあるものをもとに、より発展させ独自のかたちにすることに長けていると気づき、本当のものづくりの価値は歴史の中に既に存在しているのではないかという視点から、考古学者のように過去の歴史の背景や性質を研究しています。

——昔のものを蘇らせるだけではなく、現代的解釈、高橋さんのフィルターを通した表現となっています。それは復元ではなく解剖と仰っています。

「考古遺物をどのように現代に蘇らせるか」をテーマに、衣服や彫刻、建築などを掛け合わせ総合芸術として表現しています。全く新しい何かを生み出すことよりも、過去に存在した遺物を解剖する感覚に近い。時間の性質を可視化するような。自身の作品が、化石やタイムカプセルのように時間に耐えて生き残ることで、失われつつある歴史、文化、伝統も閉じ込めることができるのではないかという実証実験をしています。

 

——歴史あるメゾンはアーカイブから着想し、現代的に解釈を加えていますが、新しいものを生み出しているという意味では Taiga Takahashi とは全く違う発想ですね。

ファッションにおけるある春夏 / 秋冬コレクションという形式をある意味で、論文のように捉えています。自分の蒐集物を通して、ものづくりの歴史の意義を見つめ直す作業が現代に再び必要なだと気づきました。そのような観点においては自分には新しい衣服を作ることは全く興味がないのかもしれません。

——実際にどのような過程で製作されていますか? 込める思いとは?

10代の頃から様々な国で海外のアンティークディーラーや古美術商を通じて70〜100年以上前の衣服を蒐集し、それらのコレクション(蒐集物)を通して考古学の観点から過去の衣服の歴史を解剖しているような感覚です。

100年以上前の衣服が回りに回って自分の手元にあるのは、その衣服が100年間生き残ったという証拠です。そして、その衣がどうやってつくられているかを理解すれば、自分が作る衣服も100年後に残るのではないだろうか。時間をサバイブする服をような衣服を作りたいのです。そういった観点もあり、一種の”分岐点”とも言える今から100年前、1920年代のアメリカで始まった大量生産、大量消費が生まれる時代のものづくりに関心を寄せています。

アメリカ型資本主義社会を背景に、職人による伝統的な手の技がなくても生産可能な体制、そこで生み出された服の仕様や設計には、効率が追求され、デザインといわれる要素が全くと言っていいほど存在していません。直線的な縫製、平面的なパターンによる簡易化、重労働に耐えるための生地の耐久性やポケットの形状・・・当時デザインという概念はおそらく言語化されていなかったのではないかと。それらが世代を超えて引き継がれる着物の設計と合致している部分が多いのではないかと思い至りました。日本古来の永く生き続ける伝統工藝の精神性と、相反するアメリカの大量生産のような合理的なマインドを融合させられないか。このような問いが私のものづくりの根底にあるのです。

滅びの美学が通奏低音のように流れる日本古来の美意識を、自分の作品に対して宿らせるように努めています。

——時代を超えるものづくりの中にある伝統工藝の精神性や物質的な構造における具体的な例をあげるとすると?

茶の湯の世界では、「好み」あるいは「好む」という独特の言葉が使われます。茶人が意匠などを指示して道具を作らせる。その道具は、茶人の名前を冠して「誰々好み」と称されます。好みものとは茶人の独自の設計と、その意志を理解した職人の技術との、共同作業によって生み出された物。茶人の創意工夫による独自のデザインが職人に指示され、茶人の意志を理解した職人の技術によって意味出されたものが多くあるのです。茶人の創意と技術との共同作業によって生み出されるという一面が、茶道具を含めて工業的な目的ではなく、一個人の思想が時代を超えるものづくりの精神性につながっていくのではないかと思っています。

——「ウィメンズは自分が着るものではないから、ファンタジーでヴァーチャルな感覚があって、彫刻と似ている。メンズは自身で着たいものだからよりリアルである」という言葉が印象的でした。ものづくりを通して、アウトプットする過程での違いはありますか?

自分自身の中に二重人格のような部分がありまして。現実と妄想の狭間に常にいるような感覚です。英語と日本語を話すとき、アートとデザインを考えるとき、ウィメンズとメンズをデザインするときでは全く思考回路が異なります。

社会情勢の現実と、自分自身の妄想を重ね合わせて、伝えたい目的が何かを見定めなから、自分の頭の中にある引き出しから取捨選択してます。

 

 

 

——2021年12月にTAIGA TAKAHASHI 初の旗艦店がオープン、というよりも髙橋大雅の総合芸術空間が京都・祇園につくられました。ただ、”見る”のではなく、記憶や想像のリアルの向こう側、あるいは超越した空間を”視る”という、日本の美意識の本質が感じられました。茶の湯でいう、宇宙に行く、という感覚です。これまでの物質的なモノを作って売るというファッションブランドの枠組みから外れています。このような方向性、哲学、またはビジネスにファッションハウスを向かわせる意図とは?

物質的な価値だけではなく、一個人の幻想または思想が、現代における均一化された価値観に変化を加えることができるのではないかと考えています。

——彫刻、茶の湯、空間設計など様々な分野まで表現の幅を広げています。どの業界でどんな世界で何をするにしても、自身のコンフォートゾーンから抜け出すような挑戦は覚悟が必要です。

私は道楽を極めている数奇者です。自分の好きなものだけを追求していった結果、様々な分野においても芸術によってつながることができると分かりました。今までにやってきたことやこれからしたいことなどをまとめていくために、今回の京都・祇園での総合芸術空間「T.T」、立礼茶室「然美(さび)」が生まれました。

衣服は、自分の総合芸術という屋根を支えるひとつの柱なのです。衣服、彫刻、建築、空間、茶の湯など・・・遠い過去から堆積の営みに欠かせない文化を、考古学の観点で紐解くために私の作品が存在していくのです。

現代芸術、伝統工藝、建築、茶の湯に関わる様ざな方々と共にこれからも追求していきます。

HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE08+(2022年4月15日売)に掲載。