ポーランドとスロバキアにまたがるタトラ山脈の名を冠した都会派ダウンブランドTATRAS(タトラス)。由来となった地では岩盤が山肌に露出し、氷河によって谷や湖が荘厳な自然のフォルムを成す。美しくそびえ立つ山岳は、高品質なグースダウンを育てる母なる大地だ。

TATRASは創業当初からポーランド産ホワイトグースダウンを軸として採用。自然由来の要素に、日本の機能性とイタリア・ミラノの洗練されたデザインをマリアージュさせ、独自の「都会派ラグジュアリー」を成立させている。さらに、ブランドの骨格には “ミリタリー” のアーキタイプが潜む。耐久性、ストイックな構造美、無駄を削ぎ落とした機能性というミリタリーの美学が、高純度の真正ダウンを用いたデザインに奏低音のように流れている。

2025年秋冬シーズンは、1970年代のヴィンテージスポーツウェアとミリタリーの機能性がインスピレーション源だ。ジャケットやキルティングにダウンを忍ばせつつ、懐古的なフォルムやディテールをモダンに再構築している。高くウエストマークしたベストとのセットアップは、柔道着からヒントを得たものだ。さらに2024年秋冬にリリースされるなり、高い人気を保持し続けているカーゴパンツは、フリース素材や裏毛スウェットなどを使用し、佇まいを変えつつも、窮屈になりがちな冬の装いに解放と洗練を届ける。アビエイターのフォルムにダウンを詰め込み、ディテールを排除したジャケットは、ミリタリーという自身の持つアイデンティティを逆説的なステートメントにした、時代性の高いアイテムになっている。

Bomber, Foodie, Pants, T-Shirt TATRAS / Glasses TALENT’S OWN
Vest, Sweater, Pants TATRAS / Glasses TALENT’S OWN

人知を超えた自然の営みから派生し、日常を彩るTATRASの2025年秋冬コレクションを着こなしたのは、俳優、松重豊だ。静かに貪欲に「食」に向き合う自然体の主人公としてお茶の間に知れ渡る存在でありながら、数多くの作品の要として異彩を放ち、2025年は監督・脚本・主演にも挑戦を遂げた。

衣装には一つ一つ積極的に袖を通して純粋な興味を示し、撮影では、ポージングの要望にも軽やかに応える。そんな松重が作り手を尋ねていく配信シリーズからは、衣類やモノへの強いこだわりを垣間見せる。自身の俳優としてのあり方を「空洞」として捉えるという(※)その姿勢に通じている哲学を、衣類を通して紐解く。

※『空洞のなかみ』松重豊 著

──アウターをひとつずつじっくりと試着していましたね。着用してみて、いかがでしたか?

僕の場合、若い頃はちょうどいいサイズがなかったんですよ。君の服はないよってずっと言われて、ここ10年ぐらい、どこの店に行っても僕の着られる服があるっていう時代になった。特に輸入物がダイレクトに入ってくるようになったから、着てサイズが合うっていうのが僕の満足感なんですよね。さらに、バリエーションもある。だからひとつずつ本当に確かめていました。TATRASさんは上着の絞りの位置とかが独特で、面白いなと思って見ていました。

──ベストは、柔道着から派生したデザインだそうです。

そうなんですか。なんとなく僕が横で結んだのは、間違ってないんだ。道着は本来ならもうちょっと下げますけどね。実は、昨日と一昨日に泊まっていた韓国のホテルの部屋着も、柔道着の帯みたいなのが吊るしてあったので、そういうのって今トレンドなのかもしれないですね。

──レトロ回帰が昨今の流れにあるのかもしれません。

僕らのようにある程度長く生きていると、どの時代のレトロを今引っ張ってきて、若い人は面白がっているのかというのは、不思議で、楽しいですよね。それぞれの時代のどこかを狙って、なおかつプラスアルファして着てるじゃないですか。それが面白い。

──今回のコレクションは、1970年代のヴィンテージスポーツウェアから引用しているようですが、関連する思い出はありますか?

そう言われてみると、ベストの首元のボアの感じは、1950〜60年ぐらいに着ていたような気もします。

──TATRASは、ダウンをシグネチャーとしているブランドで、今季も様々なアウターを展開しています。本日着用いただいた薄くダウンの入ったボトムのように、都会でファッションウェアとしてのダウンボトムそのものに懐古的な印象を持ちますが、着用されてみていかがでしたか?

ダウンっていうものがある時期一斉に入ってきたときのことも覚えていますね。当時はそんなデザイン性があるわけじゃなく、ただ「あったかいぞ」っていうことで着ていたのを覚えてるんですけど。その頃のイメージが先行していて、ちょっと苦手意識があったんですよね。ただ、実際にはあたたかいのは間違いないし、かつてのダウンとは違うデザインも現在は取り入れられているので、苦手意識を取っ払って着たほうがいいんだろうなと思いますね。

──普段、アウターはどういったものを選んでいますか?

着ぶくれするのにちょっと苦手意識があるので、できるだけタイトでありながら、なんとか防寒ができないか、って思いがちなんですよね。それはその1970年代ぐらいに最初のダウンを大切に着たけど、結局デザインも当時のものにそれほど愛着を持てなかったというのがあるのかもしれません。

──松重さんが服を選ぶ時に一番こだわる部分はなんですか?

テクスチャーです。自分の肌との相性を優先させることが多いですね。自分で鏡を見て、似合うか似合わないかというのも、肌馴染みとか、着ていて心地良いかが一番ですから。体の一部っていう風に思えたほうがいいじゃないですか。

Jacket TATRAS / Suits, Shirt, Tie, Shoes STYLIST’S OWN

──松重さんはスーツのイメージも強いです。今回、アウターに合わせて着こなしていただきました。

スーツは歴史があるものですから、役のキャラクターによって変えたりするのも面白いですし、今日もTATRASさんがイタリアなのでイタリア的な着こなしもしましたが、日本人にとっては憧れるし、勉強になります。

僕、ご飯を食べる仕事があるので、あのシルエットのスーツって、おなかいっぱいにして帰るって、結構大変なんです。改めて今日イタリア系のスーツのパンツのシルエットを見て、やっぱりいいなと思いましたね。最近は少しまたウエストラインも高くなってきたり、タックが入ったりして、割とゆとりがあるのが流行っているらしいんですけど。ずっとルーズなのばかり穿いていると、そこに対して意識が向かなくなっちゃうんで、前から着ているスーツを着せられると、自分の体の変化をチェックしやすいですよね。

“似合うか似合わないかというのも、
肌なじみとか、着ていて
心地良いかが一番です”

──生産者を巡るYouTubeシリーズでは、自然素材に共感しています。

そうですね。なるだけ人間が長い間馴染んでいる素材で包んだほうが、安全なんだろうなと思います。自分の着るものかどうかというのは、絶対的に肌触りや心地よさで選んでいますね。

──衣類のテクスチャーへのこだわりは、道具好きのスピリットにも通じるのでしょうか。

人前に出る仕事ですけれども、多分 “作る人達の側” に回りたかった人生だったんじゃないかと思うんですよね。道具とか車とか機械とか、そういうものはものすごく好きですし、職人役とか技術者の役をやったときは、楽しかったです。そういう意味で、生地とか縫製とか、作る人に寄り添うほうが、この年になると興味のベクトルとしては向きやすいですね。

──作り手の思いやその先を想像する力、リスペクトを持つことは、役者としてのあり方と通じるものがあるのでしょうか。フォトグラファーのリクエストにも軽やかに応えていろいろと表現してくださったことで、瞬間的に撮影現場に一体感が生まれていました。

僕らは、衣装を着ることで「この服いいな」って思われたり、「着てみたい」と思われたりというのが、ここにいる人達の全ての思いだと思うんです。ドラマを観ているお客さんを引き付けることでしか僕らは貢献できないんで、そこを責任を持ってお客さんにお伝えするために、自分なりの洋服に対しての愛し方みたいなものを、こういう一日の仕事とはいえ、どういう風に表現しようかなというのは迷いながらやっていますね。

──役者としてより良く魅せるためにも、自分の内にベクトルを向けていることが重要なのかもしれないですね。そのうえで、服選びの哲学はなんですか?

お金に糸目をつけないということは、全く僕は考えられないので、やっぱり、ちゃんとコストパフォーマンスがいいものであること。そして、今僕がプライベートで着ている服も、仕事絡みで着る服も、本当に自分がいいと思った日本人デザイナーさんが小さなものづくりの現場で作られたものなんです。みんなに「どこの?」って聞かれても、「福岡の小さな倉庫にしか売ってないんだよ」っていう。そういう物語が多分好きなんでしょうね。生産者と意気投合して「こういうデザインがあったらいいよね」と言いながら、一緒に作ったりしているのが好きなんで。台本を作るのと一緒で、洋服を作るのもそういう物語の一環だと思っています。そういう意味で言うと、人間としての一貫性というのも、洋服とともに歩むっていうのは、僕にとっては必然だなって思います。

スタイルとかモードとかそういうものは、
やっぱり自分のいいと思っているものと
逆行することだってある。

──貴書では、俳優というご自身の人格を俯瞰で見ているような、エッセイのような寓話のような不思議な世界観がとても面白いです。あの視座は、実際の松重さんの俳優としてのあり方、さらには服選びや着こなしに通じるものなのでしょうか?

意識としては、主人公になるよりも、ちょっと俯瞰で見ている。つまり、「松重」っていうこの男を客観的に見とかないと、自分を演出することはなかなか難しい。なので、自分がこう思われたいとか、こういう風に見てほしいというよりも、このキャラクターを面白がるにはこういう方法論があるよね、ということを鳥の目で見ておいたほうがいいなと思うんです。それは俳優、誰しもがそうだと思うんですけど、若いうちはやっぱりどうしても自分のことで精いっぱいで、なかなか周りから見た自分に気づかないことって多いかもしれませんけど。そういう意識を持って衣装って考えたときに、「こういう服がいいだろう」「こういう服になるだろう」ということを選んでいるような気がします。

──そういった考え方を持って、俯瞰で見ていくうちに、その先のことも想像もできていく。

そうですね。時代っていうのはどんどん変わっていくし、スタイルとかモードとかそういうものっていうのは、やっぱり自分のいいと思っているものと逆行することだってある。気づかされることだってあるし。そういうことをちょいちょい意識しつつ、自分もまたそこに当てはめて俯瞰するということが面白いんで、とりあえず、死ぬまで洋服に対しての意識というのは向けてるだろうなと思います。

──松重さんにとって、お洋服とはどういった存在ですか?

日常的に自己を表現する、みたいなことを意識する生活をしているわけではないんですけれども。ただ、やっぱり自分が本当に好きで身に着けているものが、他人に「いいね」「これどこの?」と聞かれたら、満足感はありますよね。自分で探しにいって見つけて、身に着けることが楽しいし、それが生活の一部になってるので、それはとりあえず、死ぬまで続けてみようかなと。皮膚感覚で着てみたい、と思うこととか、着て鏡を見た瞬間の「わぁ!」っていう感覚は大切だなと思っています。幸いなことに、本当にサイズがある時代になったので、若い頃できなかった分、これからまだ探していきたいなと思います。

TATRAS カスタマーセンター
TEL:03-6277-1766