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Where the runway meets the street

マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)は1997年のLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)入社当時から、ロゴだけは変えてはならないと聞かされていた。しかし、彼はロゴを変えてしまった。

2001年にスティーブン・スプラウス(Stephen Sprouse)と手がけた「アンチスノッブ・スノビズム」で、LVのロゴをアーバン、ストリート、カウンターカルチャー路線に翻案。単に視覚的なロゴの刷新にとどまらず、ファッションとアートのコラボレーションを根幹に据えてのグローバルブランド構築という新モデルを立ち上げた。

それまでバッグとレザーグッズのブランドであったLOUIS VUITTONに、ジェイコブスは、1997年の入社以降、ブランド初となるウィメンズプレタポルテラインを立ち上げた。そして2004年にはメンズウェアを発表。LOUIS VUITTONのメンズラインは現在も、メトロセクシャル・ダンディ、スポーティ・エレガント、ハイテク素材という、ジェイコブスの定めた方向性に概ね沿って展開されている。

 

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ジェイコブスはスプラウスに加え、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)、リチャード・プリンス(Richard Prince)、草間彌生、村上隆らともコラボレーションを行う中で、ラグジュアリーを現代化し、業績は4倍に成長した。ジェイコブスが打ち出したのは、ダウンタウンでありながらアップタウン、ヤング、グラマラスで意志の強いヴィジョンだ。やがてデムナ・ヴァザリアへと譲り渡したLOUIS VUITTONでかつてジェイコブスが手がけたコレクションやランウェイは、驚きや大胆さ、反体制的な感情、掟破りを主軸としていた。

トム・ブラウン(Thom Browne)、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)へと受け継がれていったLOEWE(ロエベ)でも、いたずらっぽさ、茶目っ気、大胆さ、遊び心を感じさせるショーを展開していた。キム・ジョーンズ(Kim Jones)が後任となったDIORでも、ジェイコブスは平凡を非凡へと変えて見せていた。MSCHFは企業のロゴをハイジャックして話題となったが、マーク・ジェイコブスはその先駆けでもある。

ジェイコブスは噴水、ホテルの廊下、エスカレーター、実物大のLVトレインなどを使ったショーを披露し、ファッション界の偉大なショーマンとして知られていた。ジェイコブスのLOUISVUITTONでの最後のコレクションのテーマが「to the showgirl in all of us(私たちに内在するショーガールへ)」であったのも頷ける。

ブランドの伝統を圧倒的な現代化によって守るという戦術を、LOUISVUITTONは、ジェイコブスが去った後も変えていない。

COLLABORATION コラボレーション

2001年、ジェイコブスはLVのロゴを、スティーブン・スプラウスによるスプレー描きのグラフィティヴァージョンに変身させた。「グラフィティ スピーディ」のバッグは発売と同時に大ヒットし、現在リセール市場でも好評を得ている。

2003年には、村上隆版モノグラムバッグのコレクション「アイ・ラブ・モノグラムコレクション」を発表。2006年には日本で「スーパーフラット」モノグラムの広告を放映。村上隆とのコラボレーションでは、今ではすっかりおなじみとなったマルチカラープリントのほか、プティパンダ、モノグラモフラージュ、桜のプリントも登場した。

2013年にジェイコブスが手がけた草間彌生のコラボレーションを、LOUIS VUITTONは2023年に復活させている。

2008年、ジェイコブスはリチャード・プリンスとコラボレーションし、ブラックレースのマスク姿の看護師をランウェイに登場させた。2007年にはグッゲンハイム美術館でプリンスの展覧会「スピリチュアル・アメリカ」を鑑賞したことを受け、パルプ・マガジンの時代のシースルーの制服やマスク、ブランドハットで「ナース・ペインティング」シリーズの絵画を再現。ショーに登場した、プリンスの「ジョーク」シリーズを思わせるハンドバッグは、後にラフ・シモンズ(Raf
Simons)がCalvin Klein(カルバン・クライン)の初のキャンペーンで使用した。

COLLECTORS ITEM コレクターズアイテム

「いつも、不思議で不完全なものに惹かれる。そういうものの方が断然面白い」——ジェイコブス

自身も熱心なアートコレクターであるジェイコブスは、アートとファッションのコラボレーション、そこから生まれるコレクターズアイテムを、高級ブランド構築手法の一つとして導入した。かつては斬新なものとして見られていたアート作品が、今では高級ファッションアイテムという形態を取って、高級ブランドを形成する存在になっている。

CELEBRITY セレブリティ 

今日のファッションクリエイティブディレクターにミューズは欠かせない。ジェイコブスのミューズとなっているのはヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)、ソフィア・コッポラ(Sophia Coppola)、ケイト・モス(Kate Moss)、ミス・ピギー(Miss Piggy)といった面々である。

2012年、ミス・ピギーはマーク・ジェイコブスのデザインによるLOUISVUITTONのカスタムルック姿でBAFTAアワードに出席。その後、BALENCIAGA(バレンシアガ)は「ザ・シンプソン」のファッションショーでポップカルチャーの領域に踏み込んだ。

 

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LOUIS VUITTONのアイコンキャンペーンもジェイコブスの在籍当時に開始されたもの。メッシ(Messi)やロナウド(Ronaldo)の位置にいたのがペレ(Pele)、ジダン(Zidane)、マラドーナ(Maradona)。モハメド・アリ(Muhammad Ali)、ミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)、キース・リチャーズ(Keith Richards)なども登場した同シリーズは現在も継続している。

※この記事は、作家、ブランドコンサルタント、The Sociology of Businessの創立者であるアナ・アンジェリック(Ana Andjelic)執筆のゲスト寄稿によるものです。