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Life beyond style

ブロンディ・マッコイ(Blondey McCoy)がイギリスの首相になる日が来るとすれば、ソーシャルメディア教育が義務教育化されることだろう。「今の子供達に、セックスし放題とインスタグラムのフォロワー1万人とどちらが欲しいかと聞けば、フォロワーが欲しいと答える子が断然多いと思う。がっかりだよ」とマッコイは笑う。

ロンドンのプロスケーター、アーティスト、モデル、デザイナーの顔を持つ22歳のマッコイは、ソーシャルメディアによって、何かを見たい、知りたいという欲求が、すぐに簡単に満たされる現象に支配された今の若者文化のあり方に苦言を呈す。

「これから1年半アートショーに注力するつもりだけれど、そんな時期にもスケートボードをする自分がタクシーに撥ねられるシーンが相当な話題になったりすると、あんまり真面目にやっててもしょうがないな、と思ったりもするね」と2017年の「Place Skateboards(パレススケートボーズ)」のスケート映画「Palasonic」に触れ、マッコイは言う。

自身の最新(通算7作目)のアートショー 「Stella Populis」を開催中のロンドンの高級地区メイフェアにある「Ronchini Gallery」周辺をマッコイが歩いている。このショーは宗教とポップカルチャーへの熱狂についての探求であり、写真、デジタルイラストレーション、インスタレーションアートを通して宗教とポップカルチャーの類似点を描き出そうというものだ。ポップカルチャーの不動の女神であるダイアナ妃の戴冠時のポートレートのレンダリング作品、ミラーとアクリルを使い、告解や、ペットショップボーイズの歌 「It’ s a Sin」の歌詞の一部などの罪の言葉の刻印やUVプリントした磔刑のテーマによる作品などが展示されている。

25枚のトーストにセレブ達のポートレートをレーザーエッチングで焼き付けた 「Epiphanies」は、朝食のトーストの焼き目がキリストの顔に見えたことをキリストが実在する証拠だとする人々への皮肉を込めたパロディ作品だ。親密な展示空間の壁を覆うこの作品では、アメリカ合衆国の俳優でプロレスラーのザ・ロック(The Rock)ことドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)の肖像画に「Fuck my life superstar」(私の人生のスーパースター、クソ喰らえ!)、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の肖像画には 「Having let you finish」(もう君の話はいいから)、 クリスティアーノ・ロナウド(Cristiano Ronaldo)の肖像画には 「Uneasy lies the head that wears a crown」(王者に安眠なし)、 ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)の肖像画には 「The lips God gave me」(神から与えられた唇)と、セレブの顔の肖像に皮肉な一言が組み合わせられている。

展覧会のセンターピース 「TheLovedOne」は1955年の映画「理由なき反抗」でサル・ミネオが演じた、 グリフィス天文台の階段で警察官に射殺され、仲間の大学生の罪の代償として生贄の仔羊のように命を落 とす架空の登場人物プレイトウ少年の実寸大のシリコン像だ。映画の小道具製作会社がロサンゼルスの鋳物工場で製作したこの人形には人毛が一本一本パンチ植毛され、有名なハリウッドサインと同じスタイルで書かれた巨大な 「T」 の字の上に括り付けられている。

「ダイアナ妃もジェームズ・ディーンも若くして亡くなった結果、触れることのでない世界へと到達した。自分たちの世代は伝説しか知らない。生きている間にあった事実は知り得ない」とマッコイ。「ポップカルチャーのアイコン的人物は死を機に本物の人間ではなく神話的な存在になる。死を超越する、まさにそこが宗教なんだよ。自分の死後も記憶に残る存在でありたいと思うのがセレブさ」

ジェームズ・ディーンをキリストに例える表現についてはまだ寛大な受け取られ方がなされたが、キリスト教社会で悪魔の日とされる6月6日の午後6時に本展が公開されるという情報が解禁されるといよいよ、 世間は反感を露わにした。「お前は地獄で火炙りになる。助かりたければ聖書を勉強しろと書かれたメッセージが大量に送られてきたよ」とマッコイ。

こうしたアート表現はいずれもマッコイによる大衆の献身行為への評論の一端であり、今日のポップカルチャーにおいてセレーナ・ゴメスの「真実」にすがって生きている1億5,500人の生き様と、キリストを信じる人の姿との間に違いはほとんどないということを主張したものである。「人間の人生において何かに憧れるということは必要なこと。その崇拝対象がセレブであれ、宗教上作り上げられた人物であれ、そこに確固たる事実は何もない。全ては隠蔽、歪曲されて作り上げられてきたものなんだ」とマッコイは言う。

彼のインスタグラムに30万人のフォロワーが集まり、彼が彼自身の小コミュニティーにおける聖人の座にいるのもそのような仕組みによるものなのだろうか?

「世間の目を引くために自分の生活をもっとシェアしようと思ったことは一度もない。自分の人生は誰よりも自分のためのものだと思ってる」と断言する。「クリエイティブにおける成功は売り上げや人気、フォロワー数で測定されるべきものじゃない。そういうものはクオリティーとは関係がない。結局受け取る側はクオリティーになんて全然関心がないんだから。だから自分のすることのクオリティーを一番大切に思うのはどこまで行っても自分自身だよ。アートでもスケートでも、そう考えてる」

マッコイは驚くほど高い自己認識とキャリアを遥かに超えた仕事哲学を持っている。そんな彼の考えにおいてビジネスとレジャーとの垣根はしばしば曖昧になる。

表紙撮影の日、外でタバコを吸うマッコイの姿を見かけた。

トレードマークの短いカーリーカットのヘアスタイル、ジュエリー、ゴールドの歯、履き潰されたドレスシューズ、ショートパンツ、ふくらはぎまでのハイソックス姿で、マッコイはノースロンドンにあるスタジオにやってきた。ビンテージのボイラースーツにプラダのブラックのブローグシューズ、自身のスケートブランド「Thames」のパステルTシャツいろいろと、同じくThamesのピンストライプオックスフォードの私服ひと抱えを携えて。

撮影は通常通り始まったが、後からマッコイのタトゥーアーティストであるクラークがやってきたかと思うと、ラップに包まれたベッドを設営し始めた。マンチェスターのストリートソウルクラシック「Broadway 1991 Moss Side(Maxine’s Party)Pt1」をかけ、踏み台からマッコイがタトゥー施術を受けている間に撮影されたポラロイド写真を取り出す。こうなると俄然レジャーモードだ。

結果として今マッコイの左胸に入った野球ボールくらいの大きさのタトゥーには、彼が施術の2〜3週間前に描いたThamesのクラウンロゴが見て取れる。そこにタイポグラフィーを合わせるかどうか散々迷った末、最終的には手書きの文字の上にシンプルなテキストを合わせるデザインを選んだという。

「自分の心臓のところに自分の新しいロゴを入れられて自慢だよ。タトゥーは11カ所入れているけれど、これが最高のお気に入りだよ。全力でやるのがスケートボードだ。全身全霊でやらないと何にもならない。タトゥーは、馬鹿げたものだと分かった上で入れる限りいいと思う」

そこにはなりゆきとルーティンを混合させたマッコイの実生活が垣間見える。実際彼の一日はそうして成り立っている。仕事の電話やメール対応の合間に撮影をこなし、ウェストミンスターのアール・デコ調のリージェンシー・カフェで遅めの昼食を取り、夜はクラークと親友のジャクソン、撮影クルー数人と2時間カラオケをした。

「相当ハッチャケたね。ヒット曲からとっておきの曲まで歌った」と、ソーホーのスタジオのすぐ近くにある ディーンストリート・ティーハウスで、チップスとほうれん草のサイドディッシュを食べながら翌日マッコイは言った。このお店に通うのは、地元のスパ&ダイニング、バー・ブルーノに毎週通うのと同様、お決まりになっている。

冬の間ずっと、ハイドパーク内に設けられた臨時遊園地兼フェスティバル会場ウィンター・ワンダーランドで目の回るようなスケジュールをこなすマッコイ。3年近く前にアルコールを断って以降、カラオケが息抜きになっている。

「麻薬やアルコールをやめてすごく気分がいい。ドラッグに依存していないことで自信、幸福、平穏を感じる。馬鹿みたいに聞こえると思うけれど、カラオケに行くとエンドルフィン(気分の高揚感、幸福感をもたらす脳内神経伝達物質)が出るんだ。ジェットコースターに乗った時みたいな爽快さがある」とマッコイ。週に2度はカラオケに通っている。

「全員レパートリーがあって、 何を歌えばアガれるかも分かってるから」 とマッコイは笑う。 カラオケと言えば気取ったものではないが、マッコイは大人数にしたがらない。「絶対1曲ごとに 「Wonderwall」を入れたがるヤツが出てくるんだけど、今のポップソングは本当にないと思うんだ。絶対最初はロビー・ウィリアムズの 「Angels」で始めて、締めもロビー・ウィリアムズの 「Come Undone」っていうのが仲間の中で 唯一の決まりになってる。あとはだいたい1980年代の曲を歌ってる」

楽しむ以前に、こうして気晴らしをすることはマッコイにとって癒やしになっている。自分の人物像や仕事がすぐに公の目に触れる生活において、マッコイが地に足の着いた暮らしを続けられているのもそんな気晴らしのおかげだ。しかしそこに至るにはそれなりの時間を要した。

イギリス人の母とレバノン人の父の間に生まれたマッコイ(本名トーマス・エブレン)は3人きょうだいの末っ子として、サウスウェストロンドンの郊外、ニューモールデンで育った。12歳のときに両親が離婚。幼い頃から同世代の子供達よりも自立して生きてきた。ウェストミンスタースクールに通っていたが、授業に出ず、イギリスのスケートボードシーンの非公式ホームとされるロンドンのサウスバンクや、その後はスラムシティー・スケートでのスケートに明け暮れ、15歳で出席日数が足りず退学となった。

「学校では問題児だったけれど、勉強が嫌いだったわけじゃない。先生たちとも仲良くやっていたよ。でも他の生徒達みたいに学校には馴染めなかったんだ」

「その頃から他の方に目が向いていたんだ。「Baker」とか「Deathwish」とか、そういうアメリカ企業がYouTubeに載せていた動画でスケボーを勉強してて、イギリスにもスケートボードがあるって知って、本当に驚いた。サウスバンクに来てみたら、思い描いていた感じの人達が本当にいたんだ。「Landscape」とか「Heroin」とか「PWBC」の人たちさ。そんなのを知ったら学校なんてもう行こうと思わないよ。そんなすごい人達とスケボーができるんだから!本当に熱かった」

そこでマッコイは自らの居場所を見出した。自由なライフスタイルを許してくれる第二の家族も見つけることができた。「ブロンディ」は11歳の頃から今に至るまで彼のニックネームとなっている。その後マッコイ はSupreme、adidasそしてPalace向けのスケーティングをするようになった。

「マッコイのスケーティングには彼にしかないものがあって見ていて楽しい。人柄的には知的でウィットがあって、 ちょっと謎めいた人かなと思う」とスケートレジェンドでアーティストのマーク・ゴンザレスは語る。マッコイとは 5年前から知り合いで、二人で一緒にスケートをしたり、ニューヨークやロサンゼルス、ロンドンのギャラリーを訪れたりしている。

だが自由と幸せはイコールではない。自由は自己破壊にもなり得る。

「すごく小心者だったんだ。ドラッグに浸ったのもそれが大きいと思う」とマッコイは自認する。「ドラッグをやると自信が漲った。今は自信がないなんていう悩みはないけどね」と語るマッコイは5年前にドラック服用をやめている。そしてドラッグをやめた先に陥ったアルコール依存症も2017年に克服した。

「一発ではやめられなかったけれど、本気で断酒しようと一旦決めたらすんなりやめられた」と、当時の闇について驚くほど明け透けに語る。更生プログラムの類に頼らず、プロのサポートも得なかった。禁酒 1 ヶ 月目は常にハイでいたり酩酊状態でいたりしなくなることが極上に感じられたが、それは仮面の極上さであった。2ヶ月目には禁酒状態に退屈し、3ヶ月目には自分がなぜドラッグやアルコールに常に依存していなけ ればならなかったのかということのより深い意味合いに気付いた。「毛布を剥がしてみると、自分の人生をもっと真剣に見つめざるを得なくなるんだ」

3ヶ月目が過ぎ、マッコイはメンタルヘルスの一助として、医師から処方された麻薬を服用することを初めて受け入れた。それは、彼自身予想していなかった苦境をもたらす。「麻薬乱用歴の有無を全然確認されずに、君はメンタル患者だからこれを飲んで」と普通に言われるんだ。自分は麻薬を乱用してボロボロになってきた身。結局やりすぎてめちゃくちゃさ」と語るマッコイは、ものの数ヶ月で崩壊し、過量摂取に走った。

「何ヶ月も体内の化学状態がずっとおかしかったんだ。そんな状態からいきなり断ち切るのはそんな状態になるのと多分同じくらい難しい」

しかし情けはいらないと言う。「そういうのはいいんだ。ドラッグに走ったのはお父さんとの折り合いが悪かったからでしょうとか、ペットの猫ちゃんが死んだからでしょうとか、そういうことを言われたら、「X ファ ク タ ー 」(イギリスのリアリティ音楽オーディション番組)の優勝狙いじゃあるまいし、自分はただ純粋にアルコールをやめようとしてるだけ、と返事していた。自分の場合、ドラッグをやってたのは、やらないより楽しかったからなんじゃないかと本当に思う。必ずしもドラッグに手をつけるのに何かの理由があるわけじゃない」

ドラッグを断つのは本当に難しかったとマッコイは言う。正しいやめ方のようなものはない。一時期は苦しいかもしれないけれど、その後に必ず良くなるものと固く信じ、自分の人生の主導権を自分で握ってより良い人生になるような選択をしていくことに尽きるのだ。

若い頃にそんなターニングポイントを経験したことで、自分のすべきことに立ち戻る必要性を感じるに至っ た。しかし極端なところはなくなってはいなかった。「今でも中毒なんだ。今は仕事とオールナイトの中毒かな。 ドラッグやアルコールよりは破滅につながりにくいものに中毒になれているだけでも良かったと思ってる」

マッコイは一度に10の仕事をこなす文化の博識家だ。そこに進化への執着があいまって、今の彼の人生がある。現在ケイト・モス・エージェンシーとモデル契約をし、Louis Vuitton、Valentino、Burberryのキャンペーンを飾ってきた。ヴァージル・アブローも、Louis Vuittonのデビューショーで、ブラッドレッドのルックに身を包み、長いマルチカラーのランウェイを歩くモデルにマッコイを指名した。i-D、British Vogue、LOVE、Arena HOMME+ といった雑誌もこぞって彼を取り上げる。掲載写真の多くは著名なイギリス人フォトグラファー、アラスデア・マクレランが撮影している。マクラレンはマッコイと出会った6年前から、マッコイにとって信頼のおける相談相手だ。

「最初に僕のアシスタントが撮ったマッコイの写真を見たときのことを覚えているよ」と、マッコイが15歳の頃から彼を知るマクラレン。「ハッピー・マンデーズというバンドのショーン・ライダーの10代の頃みたいな感じだと思った。それでその頃作っていたストーリーにマッコイをキャスティン グしたんだ。衣装がぴったりだった。マッコイは何を着せてもキマるし、納得感がある。なかなかないことだよ」

2012年初めに立ち上げた、チャヴカルチャー(スポーツウェアを着た反社会的な若者文化)のドレスコードから君主社会のドレスコードまで、 イギリスらしいあらゆるものを着想源とする自身のストリートウェアブ ランド「Thames」において、Fred Perry、ジュエラーのStephen Webster、そして何よりThamesのブランドとしての存在感確立したPalaceとのコラボレーションを行ってきた。セカンドレーベルで、よりパーソナルなレーベルである「McCoy」は、ファッションとアートの橋渡しをし、彼の仕事を民主化することに役立ってきた。いずれのブランドでもマッコイは躍進を続けている。

その精神は2017年のクリスマス時期、ニューヨーク市でBURBERRY向けに手書きで描かれた3作のホリデー壁画にも引き継がれている。それはマッコイのシグネチャーアプローチ、コラージュを通してイギリス文化を探訪する作品だった。同年実施された彼の5度目の個展とそれに付随するアートブック 「Us and Chem.」では、Beautiful, Chemically Imbalanced Painting と題したダミアン・ハーストとのコラボレーションを行った。こちらはマッコイがアルコールを断ったことを直接的な着想源とし、アートとセラピーとの関係性を探訪する内容となっている。

「マッコイは常に自分自身に、ある確信を持っている。でも決して傲慢ではない。純粋に自分のことが分かっているということ」と権威あるファッションライター、ジョー・アン・ファーニスは語る。彼女は6年前、アラスデア・マクレランを通じてマッコイと知り合って以来親しくしている。「とても知的で面白くて、気持ちが定まっている。自分がこういうことを主張すべきだと感じているのね。他人に対して、というよりも、彼自身に対して。 見せつけてやる対象がいることは全く害にはならないけれど。そして根本的に独学の人。何かについて理解したいと思ったら、自分自身がそこにどっぷり浸るの。自分で学べないことなんてないと思っている」

その意味で、マッコイはスケーターの意味を再定義する広範なパラダイムシフトの一端を担うニューウェーブスケーター集団の一員だ。スケート文化に関する認知が広まり、ラグジュアリーブランドからファストファッションブランド、ミュージシャンまでもが、若い層との文化的つながりを持つ入り口としてスケート ボードというスポーツを捉えている。

反対に、マッコイ、ルシアン・クラーク、エヴァン・モック、そして28歳の若さで他界したディラン・リーダー といった若いスケーターたちが、スケートと、音楽 やファッション、それまでアクセス不能と思われてきたその他の分野とを交配させる環境を醸成してきた。スケートボード以外の収入を得ることを不名誉とするスケートコミュニティーの考えも緩んできている。

「これまでスケートボーダーがするとは予想もされていなかったようなことを自分はしてきた。誰もがスケートボードに絡めて何か新しいことをしようとしているのは熱い。スケートボーダーは昔から服装もいいし、 面白い人ばかりだ。だからこういう時代が来たのも当然だよ」

「単なる文化の利用にならないようにスケートボーダー自身が正しい決断をしないといけないと思う。自分 はスケートボーダーもしながらBURBERRYのトレンチの広告キャンペーンにも出た。そこが話題になったんだ。そういう人物でいられるのは嬉しいし、スケートボードへのチャンスが開かれた時代が来たこともとても嬉しい。だけど、実際にスケーティング自体を披露することはしないと自分の中で決めてるんだ。誰もが分かるものじゃないから。利用と援護を履き違えちゃいけない。もしヴァージルにランウェイをスケートで滑ってほしいって言われても、断ってたと思う。そういう線引きはちゃんとしないといけない」

マッコイは、2020年東京オリンピックでスケートボードが正式種目となることについても同様の考えを示
している。「運命論者的なスタンスでいるよ。なるべくしてなったことだはと思うけど、とんだ災難だね」と笑う。 「難しい技だけひたすら見せられるならマーク・ゴンザレスがスケートボードから落ちる姿を見る方がいいさ」

若い頃、高飛び競技でのオリンピック出場を夢見た者にとって、そんな発言は驚きに聞こえた。「オリンピックは本気で大好きだけど、ユニフォームなんかを着て灰色の木でストリートシーンを人工的に複製したものの上で、極力たくさん難しい技を入れて10点満点で採点されるなんて、自分の好きなスケートボードとはあまりにもかけ離れてるから。スケートは点を付けるべきものじゃない。アートだから」

スケートボードに一途な思いを持ち続けるマッコイは今も時間を作ってスケートをしている。ますますスケ ジュールが過密を極める中、朝の4時頃に時間を作ったり、友人と国外にスケート旅行中に出かけたりしている。

「最近スケートがすごく楽しいんだ」とマッコイは言う。今年、マッコイはインスタグラムで、Palaceから の離脱を宣言している。ロンドンのスケートシーンを世界に知らしめたパレス社の顔として過ごした7年間を終え、別れの時が来たのだ。

「Palaceと自分はある意味お互いに頼り合う中で一緒に成長してきた。Palaceに育ててもらってチャンスを与えてもらってきたことへの感謝は当然忘れない」とマッコイは書いている。

ではなぜ辞めたのか?

「これまで覚えている限り自分は、究極的には誰か他の人の描いたビジョンに対して自分の人生を捧げてきたような気がする。でも人間に与えられたエネルギーや時間には限りがある。これまで一緒にやれて楽しかったし、本当に恵まれてたと思う。でもいずれ、もっとレベルアップしたい、自分のことがしたいと思う時が来るんだ。他のことと同じく、スケートのことも自分で決めたいと思ったんだよ」。Palace Skateboards は世界最高のスケートチームであり続けるであろうという自身の信条も改めて述べた。

ソロ活動に移行することでマッコイは、Thamesをフルに統括し、これまで公にしてこなかった完全保有のライダーランブランドを作り上げることにもなった。18ヶ月の栄華のときを経て、Thamesは2019年9月に再ローンチされる。マッコイの過去最大のプロジェクトである新生Themesでは、スケート文化を作り上げた財団や仲間を、中心的な存在として再び大々的に取り上げる。

「最高のチャンスなんだ。イギリスにはスケートボード界を代表する人物っていうのがあまりいない。ファッション界の有名人ならたくさんいるのに。どうしていまだにそうなのか不思議なんだよ」

マッコイはThamesを始めるためにPalace Skateboardsを去ったわけではないが、世界的スケートボード企業の大半がカリフォルニアの企業であることを考えると、消費者として支援できるイギリス企業の選択肢がPalace Skateboards 以外にもあるべきだと思ったと言う。

Thames にとってそれはスケートボーダーの従来の装いを覆すことも意味する。フーディやスケートデッ キ、その他の装備といったスケート文化に近いキーアイテムも発信する。Tシャツは控え目なデザインとし、 背中側にはセント・ポール大聖堂を設計した建築家であるサー・クリストファー・レンにちなんだ「Wren’s」「くまのプーさん」の作者であり戦争時代の英雄であるA・A・ミルンにちなんだ 「Milne’s」、詩人で劇作家のジョン・ドライデンにちなんだ 「Dryden’s」、イギリスの司教リチャード・バズビーにちなんだ 「Busby’s」 と 、 イギリスの歴史上の人物の名字が入る。マッコイの名前はマッコイとしてプリントされ、全ての名前がこれまでマッコイが退去を求められたブランドや学校の校長の名前でもある。パステルの色調はそれぞれの学校がスポーツデイに着用する色から取っている。

滑らかな仕立て、シャープなカットのパンツ、カーディガン、イギリス製のニットウェア、クラシックなシャツと、フォーマルウェアに主眼を置いていることは予想外かもしれない。これらは@garyjanetti等のインスタグラムアカウントを通じてイギリスの最年少スタイルアイコンとなった6歳のジョージ王子の通う学校のような高級スクールユニフォームを直接的なテーマとしている。

サヴィル・ロウで仕立てられたスーツやパンツには高い値が付けられるが、Thamesの大半のアイテムは若者向けの価格で出され、オンライショップやスケートグッズのセレクトショップを通じて直接消費者に販売される。「さっき言った通りイギリスにはトラックスーツやロードマン・スラングだけじゃなくてスケートや文化がもっといっぱいあるのになかなか表に出てこないんだ。イギリスの豊かな伝統にもなかなか触れなかったりする。自分はそれとは反対の活動をしたいんだ」

マッコイは人を気まずくさせるような命題もあっさりと提示するタイプだ。階級文化の乱用について物議を醸すのも今回が初めてではないだろう。しかしマッコイとしては彼が肉体労働者階級を利用しているという誤解に対していちいち時間を割く気はない。

「そんなのはとんでもなく馬鹿げた話だ。俺はどう転んだって貴族の出なんかじゃないけど、どっちかって言えば、気分的に利用してるのは気位の高い文化の方だ。労働者階級に見えるようにしようとなんて一 度もしてない。ディープでダークな1990年代のデトロイト(の汚い場所)出身みたいなふりをする世界のスケートボーダーの連中にはうんざりだ。自分らしく生きない奴は大嫌いなんだよ」

ThamesをSupremeのように大きく強力な存在に成長させたいと願っている。金銭目的というより「他の若者が同じように活動することを支援する媒体にしたいと思うから。(次世代を担う若者に)自分がPalace Skateboardsを通じて手に入れたようなチャンスを与えてThamesから何かが生まれるのを見届けたいんだ」

マッコイはそうした活動が現在のスケートボードのアプローチ全般を変革することに寄与するものと信じている。「スケートボードはかなり小心で、自尊心に欠けがちな世界なんだ。でも俺にとってのスケートボードはそれとは対極にある存在だから、そんな現実があることはとても辛い。若いスケートボーダーは上達するためにものすごいトレーニ ングをしているのに、それだけの献身性や信念を人生の他のところに向けたら 成功するだろうっていうことには気付いてないんだ。ただ無駄に制度化されたいと思っている。そこに属することで無難に周囲と同じことをするなんてもったいないよ。そういう気持ちの持ち方はなくなっていくべきだと思う」

ほうれん草のサイドディッシュを食べ終えながらマッコイは言う。「コーダーだろうが歌手だろうが、スケートボーダーがなって悪い職業なんて何もないさ」