life
Life beyond style

古き良き、OFWGKTAの時代。タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)は何も隠していなかった。その必要がなかったから。彼は、自分を苛立たせるものを世界に曝け出そうとしていた。

しかしタイラーは大人になるにつれて、多くを胸の中に留めるようになった。彼の私生活や趣味嗜好は、パターンを通じてしか知ることができない。

そして、最も謎に包まれながら、最もたくましいタイラーのモチーフのひとつに犬がいる。具体的にはエアデール・テリアという犬で、もっと具体的に言うと “ダリル” という名前のついた犬だ。

エアデール・テリアはここ数年、タイラーの作品に繰り返し登場している。初めはミュージックビデオに出演し、やがて、ルックブックや彼のラグジュアリーアパレル「le FLEUR*」の洋服ラインでも共演するようになった。インスタグラムにも、彼らとのセルフィーが度々投稿されている。

エアデール・テリアは、タイラーのアートワークには欠かせない存在だ。彼の新しいLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のコレクションにも盛大に出演している。

TTC X Louis Vuitton
byu/Ladyfromimpanema23 intylerthecreator

それはLVのキャンペーン・イメージに使用され、洋服にもプリント。3月21日の発売を宣伝するためにLVビバリーヒルズ店を訪れたタイラーは、エアデールプリントが施されたLVのアノラックパーカーを着用し、巨大なエアデール像の前でポーズを決めていた。

Pretty sure the dog in the new video is an Airedale Terrier
byu/User420698inches intylerthecreator

しかし今回、タイラーによるエアデールへの熱中ぶりは、犬のグラフィックをプリントしただけでは終わらない(もちろんそれも健在だが)。

タイラーは、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)手がけるLOUIS VUITTONのために、エアデール型のショルダーポーチと、エアデール1匹を運ぶのにも十分な大きさの4,300ドルする犬用キャリーバッグをデザインした。ウェブストアでも、2024年スプリングのセレクションをスクロールすれば、ページの下部に小さなエアデールのイラストが表示される。

こうしてタイラー宅ではエアデール熱が繰り広げられているが、意外なことに、彼は1匹すら飼うことができないようだ。

ライターでHighsnobietyの寄稿者でもある@samutaroが2月下旬に指摘したように、タイラーは極度の犬アレルギーであるとツイートしたことがある。ということは、タイラーはどれだけ犬が好きでも、飼うことはできないのだろう。

ここで登場するのが、モデル犬のダリルである。

ダリルは、2021年にタイラーのビデオ「Dogtooth」に出演するために初めて雇われた、いかにもエアデール犬らしいエアデールだ。タイラーのブランドが長年にわたって生産してきたエアデールデザインのモデル犬でもあるといわれている。おそらくタイラーはこのハンサムな犬種を気に入り、それ以来、エアデール全般に惹かれるようになったのだろう。

この犬種には、タイラーの虜ぶりをさらに裏付ける興味深いルーツがある。

アメリカンケネルクラブから “キング・オブ・テリア” と呼ばれるエアデールは、元々ブルーカラー(労働者階級)出身ではあるが、ビクトリア朝時代までさかのぼれば、威風堂々とした姿の猟犬だ。

しかしその洗練された美貌が、やがてエアデール・テリアをアメリカの上流階級に引き入れた。タイタニック号にはエアデールが乗船し、20年代には、ウォレン・ハーディング(Warren Harding)大統領が1匹飼っていたという(会議中に手彫りの椅子に座っていたらしい)。

guys we finally got an official name for the dog that keeps appearing almost everywhere (in the DOGTOOTH music video, and on the old Jumping Dog t-shirt). thoughts?
byu/Global-Cut452 intylerthecreator

エアデールは、黒人発明の歴史においても非常に重要だった。自称 “ブラック・エジソン” のギャレット・モーガン(Garrett Morgan)による先駆的な縮毛矯正の薬剤は、隣家のエアデールで初めて試されている。

ここまで、エアデール・テリアについて知っていただけただろうか。

なぜエアデールがタイラーの相棒犬としてしっくりくるのか、ということに関して言えば、まず一度彼らを見て欲しい。エアデール・テリアは、タイラー本人と同じくらい、フォトジェニックな見た目をしている。

また、この犬の体格とエレガントな斑模様の毛皮は、ある種の無骨なエレガントさを醸し出し、スタイル的にも、パリッとしたゴルフセーターに上質なイタリア製ハイキングブーツを合わせたタイラーのワードローブからさほどかけ離れていない。

また、根本的なことを言えば、エアデール柄の服はアレルギー持ちのタイラーにとって最も簡単な回避策なのだろう。彼らと過ごすことも、身に着けることもできるのだから。