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Life beyond style

「Origins(オリジンズ)」では、ハイスノバイエティの界隈で最も象徴的な人物、ブランドや店を調査し、ストリートカルチャーにおいてどのように力強い足跡を残してきたかを明らかにする。この記事では、「UNDERCOVER(アンダーカバー)」の創設者、高橋盾のパンクファッションにおけるキャリアを深く掘り下げる。

ストリートウェア業界では、特定のデザイナーやブランドが特定のサブカルチャーに依存することがよくある。例えば、ショーン・ステューシー(Shawan Stussy)は西海岸のサーフカルチャーから始まった。「Supreme(シュプリーム)」のルーツは、スケートボードにある。「BAPE(ベイプ)」は、漫画風に仕立てた日本の美学とヒップホップ愛をファッションにもたらした。しかし、パンクロックに関していえば、高橋盾と彼のブランド、UNDERCOVERなしに語ることはできない。

UNDERCOVERの哲学は、「服ではなく、ノイズをつくる」というモットーに基づいている。高橋はパンクロックの転覆と崩壊をファッションに変換し、マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)やヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)の後継者のように、ボンデージ、ゴシック、バロック、そしてグロテスクな美学を融合させ、ファッションにおける反逆心を具現化している。

若かりし頃

高橋が、パンクの帝王「SEX PISTOLS(セックス・ピストルズ)」へトリビュートを捧げたコピーバンド、「東京セックス・ピストルズ」のボーカルを担当していたことは、驚くことではない。そして、彼のアイデンティティを形成した人物は、70年代にセックス・ピストルズの衣装をマルコム・マクラーレンとともに手がけた世界的デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドだ。
80年代の後半に「COMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)」のショーを見た後、高橋はファッションの世界に進むことを決意し、UNDERCOVERを1990年に立ち上げた。ブランド創設初期のグラフィックの多くはBAPE、「Billionaire Boys Club(ビリオネラ・ボーイズ・クラブ)」「Cav Empt.(シーイー)」にデザインを提供したイラストレーター「Sk8thing(スケートシング)」が手がけている。

NOWHERE

高橋は、服を売るための場所が必要だった。そこで1993年、BAPEのNIGO(ニゴー)と共に原宿に「NOWHERE(ノーウェア)」という店を開いた。長年にわたり、NOWHEREは裏原宿のストリートウェアシーンの中心に存在する重要な拠点となった。

店では、アメリカの記念品や古着だけではなく、2人とその友人によるアイテムも販売されていた。中でも最も注目を集めたのが、高橋と「Fragment Design(フラグメントデザイン)」のデザイナー、藤原ヒロシとのコラボによって誕生した「ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY(アナーキー・フォーエバー・フォーエバー・アナーキー)」だ。コミック「Tank Girl(タンク・ガール)」や架空バンド「Gorillaz(ゴリラズ)」の作者、ジェイミ―・ヒューイット(Jamie Hewlett)など、パンク界のデザイナーから大きな影響を受けたブランドである。

川久保玲との出会いと海外進出

1994年、高橋は初のウィメンズファッションショーを開催し、COMME des GARÇONSの創設者、川久保玲から注目を得た。そして彼女はMA-1ボンバージャケットを高橋のコレクションから購入し、2人の友情が始まった。川久保はUNDERCOVERの重要なサポーターであり、海外で発表するように高橋を後々説得する存在となった。こうして2002年、UNDERCOVERはパリでデビューを果たす。川久保のコネクションを通じ、パリのモード界においても大いに人々の関心を集めていった。

パリコレデビュー以来、UNDERCOVERは北米とヨーロッパで徐々に成長を遂げる。輸入コストが高く、高橋は日本で販売するような価格で売ることは滅多にできなかった。そのため、ハイエンドのブティックでのみで展開し、欧米市場においてUNDERCOVERは、知る人ぞ知るブランドという地位を確立した。

日本のストリートウェアブランドとのコラボ

ファッション業界のコラボは90年代初期の裏原宿で最初に盛んになり、高橋は日本のファッションやストリートウェアシーンのほぼすべてのビッグネームと協業した。fragment design、「visvim(ヴィズヴィム)」「NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)」「WTAPS(ダブルタップス)」、BAPE、「WACHO MARIA(ワコマリア)」「BOUNTY HUNTER(バウンティハンター)」「Mad Hectic(マッドヘクティック)」などである。また、高橋はストリートウェアとファッションの中心的存在となった、アーティストのFutura(フューチュラ)、KAWS(カウズ)とコラボした最初の人物となった。

BAPE
UNDERCOVER
Uniqlo
Uniqlo
UNDERCOVER

グレースドール

2009年春夏コレクションの中で、高橋は擬人化された人間サイズの奇妙なドール「GRACE(グレース)」を発表した。破れたテディベアを使用しハンドメイドで作られたグレースの顔には、自転車ランプがついている。長い間、高橋はドールメイキングに情熱を燃やしてきた。バロック美学、DIYパンク精神、そして砂糖のように甘いオーラをたたえたドールは、さまざまな意味でUNDERCOVERのブランド哲学全体を要約する存在といえる。

UNDERCOVER x Supreme 2015年春夏コレクション

2015年初め、ストリートウェア界の重鎮であるUNDERCOVERとSupremeが遂にタッグを組んだ。その結果は、消費者の期待を裏切らなかった。UNDERCOVERのスローガン「ANARCHY IS THE KEY」をテーマに、両ブランドの独特の美学がシャツ、フーディ、ボトム、アクセサリーにいたるまで貫かれた。クラシカルな絵画プリント、パンクスタイルのボンデージパンツ、頭に釘のささったテディベアグラフィックのクッションなど、ファンにはたまらない収集癖をくすぐるコレクションとなった。

Supreme
Supreme
Supreme
Supreme
Supreme
Supreme

UNDERCOVER x Supreme 2016年秋冬コレクション

1年半後、UNDERCOVERはSupremeと第2弾のコラボを発表した。第1弾は伝統的なスケートとパンクスタイルだったのに対し、第2弾ではスキンヘッド・カルチャーをテーマに、全面にアナーキーシンボル「A」をプリントした「Dr. Martens(ドクターマーチン)」、「GENERATION FUCK YOU」とリバースで書かれたMA-1、そして「A」のパッチがバックに施されたウールオーバーコートなどを販売した。

その他のグラフィックは、黒澤明監督の映画「七人の侍」をモチーフにデザインしたTシャツ、1562年の絵画「The Fall Of the Rebel Angels」を全面にプリントしたコーチジャケットなど。アクセサリーは、Supremeのロゴが入ったジップコインポーチとギラップルライト(下記参照)を展開した。

UNDERCOVER x Supreme x Public Enemy 2018年春夏コレクション

UNDERCOVERとSupremeは最新の共同企画で、NYの伝説的なヒップホップグループ「Public Enemy(パブリック・エナミー)」とのトリプルコラボを実現した。主力商品は、1990年の『Fear of a Black Planet』のアートワークを落とし込んだダウンジャケットやスウェットパンツ、グループのロゴがデザインされたフーディや開襟シャツ、メインラッパーのチャックD(Chuck D)がホワイトハウス前に立っている写真がプリントされたTシャツなどだ。さらに、全面にアルバムのグラフィックが配されたDr. Martensやコインポーチ、ゴールドチェーン、ラグも展開され、これまでで最も広範囲にわたる野心的なコラボとなった。

Supreme
Supreme
Supreme
Supreme
Supreme
Supreme

ホームウェア、Medicom Toyのおもちゃ、風変りなモノ

高橋はこれまで、自身のブランドをホームウェアとライフスタイル領域にまで拡大してきた。例えば、日本の玩具メーカー「Medicom Toy(メディアコム・トイ)」とタッグを組んだ収集価値の高いフィギュア、風変りなモノの数々。中でも最も有名なのは、自転車のライトがついた、まるで本物のリンゴのようなギラップルライトだ。そのほかに注目を集めた商品は、ハンバーガーランプ、「アンダーカバーベアー」の置物、グレースドール、そして高橋が手がけたキャラクター、愛と悲しみの戦士「アンダーマン」と鉱物怪人「ピラノイド」などだ。

UNDERCOVER
UNDERCOVER
UNDERCOVER
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カオス、バランス、二面性

Tシャツやシューズ、バッグからアクセサリーにいたるまで、UNDERCOVERのコレクションからは長年にわたり「カオス」や「バランス」というキーワードが見てとれる。高橋は、一つのグラフィックの中で異なるモノや対立する概念を組み合わせる傾向にあり、ブランドにおいて「二面性」が重要な役割を果たしている。

その二面性を表しているのが、初期フランドル派の画家、ヨアヒム・パティニールの16世紀の絵画「Landcape With Charon Crossing the Styyx.(スティクス川を渡るカロン)」を大規模に再現した、UNDERCOVER香港店だ。ギリシャ神話では、冥府の渡し守「カロン」はスティクス川に沿って船で魂を運ぶ。そこでは、天国(絵画の左側)または地獄(右側)を選択する必要があるという。

音楽とのつながり

NIGOのヒップホップへの挑戦、DJ藤原ヒロシの歴史、「NUMBER(N)INE(ナンバーナイン)」と「TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.(タカヒロミヤシタザソロイスト)」の創設者、宮下貴裕のロック・ミュージック愛など――音楽は、裏原カルチャーにおいて大きな役割を果たしてきた。 UNDERCOVERのパンクのルーツは、高橋が愛してきた数々のアーティストからインスパイアされたものだ。パティ・スミス(Patti Smith)、「Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)」「Jesus & Mary Chain(ジーザス&メアリーチェーン)」「Talking Heads(トーキングヘッズ)」、「Television(テレビジョン)」、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)、「Temples(テンプルズ)」、そしてジャズピアニストのビル・エヴァンス(Vil Evans)でさえも。

UNDERCOVER RECORDS

元々は2006年春夏コレクションのために考案された「UNDERCOVER RECORDS(アンダーカバーレコード)」は、架空のレコードレーベルだ。当初、レーベルには5つの架空のクラウトロックバンド(実験バンド)が存在し、高橋がそれぞれの商品をデザインしていた。2017年、UNDERCOVER RECORDSが復活。伝説のジャーマンロックバンド「CAN(カン)」とのコラボを発表し、オリジナルグッズを販売した。

UNDERCOVER
UNDERCOVER
UNDERCOVER
UNDERCOVER
UNDERCOVER
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UNDERCOVER x fragment design x NIKE Match Classic HF

高橋は、長年親交のある藤原ヒロシを通じて2009年に初めて「NIKE(ナイキ)」とつながった。それは、実りある関係の始まりだった。UNDERCOVER、fragment design、NIKEによる3者間の共同プロジェクトとなった第1弾のコラボでは、「Swoosh’s Match Classic(スウッシュ マッチ クラシック)」スニーカーの特別バージョンがリリースされた。高橋は、ナイキの中でも比較的控えめなデザインのスニーカーを選んだ。型にはまらないデザイナーである高橋にしては珍しい選択に見えたが、それはほんの始まりに過ぎなかった……。

NIKELab GYAKUSOU

高橋は熱心なランナーだ。1日おきに、代々木公園を16キロ走る。従来の時計回りの走路を避け、反時計回りを好んで走っていたことがきっかけで、高橋は「GYAKUSOU」国際ランニング協会を設立することを思いついた。2010年には、NIKEとレギンス、ショートパンツ、Tシャツ、ジャケット、シューズなどのプレミアムランニングギアのコレクションを発売。GYAKUSOUは以来、定期的に新作を発表しており、NIKEで最も長く続いているコラボラインの一つだ。

NikeLab x UNDERCOVER SFB Jungle Dunk

おそらく、NIKEとのパートナーシップから生まれた最も影響力のある作品の一つが、2017年の3つのスウッシュモデルが奇妙にハイブリッドした「SFB Jungle Dunk(SFB ジャングル ダンク)」だろう。ハイカットのSBダンクには、ナイキの人気シューズ「AIR HUARACHE(エア ハラチ)」のヒールケージと、ミリタリーユースの頑丈なモデル「SFB FIELD BOOTS(SFB フィールドブーツ)」のミッドソールが組み合わさっている。ヒールの左には「CHAOS」、右には「BALANCE」のテキストが落とし込まれ、2009年の名作テニスシューズ「MATCH CLASSIC(マッチ クラシック)」で使用されたギザギザの目盛りのようなパターンがプリントされている。2色で展開されたこの商品は、高橋がクラシックなNIKEのスタイルに自らのデザイン哲学をちりばめた名品である。

UNDERCOVER x NIKE React Element 87

Highsnobiety / Bryan Luna
Highsnobiety / Bryan Luna
Highsnobiety / Bryan Luna
Highsnobiety / Bryan Luna

2018年、NIKEは新たに「React Element 87(リアクト エレメント 87)」における4つのスペシャルエディションの制作を高橋に依頼した。これよって、両者のコラボ領域は大きく拡大することとなった。
NIKEがカラー展開を発表する前にもかかわらず、パリ・ファッションウィークの2018年秋冬コレクションのショーで、テレビドラマ「Stranger Things(ストレンジャー・シングス)」の女優、セイディー・シンクがこのスニーカーを着用。革新的なデザイン、目を奪う斬新なカラーリングの中にUNDERCOVERのロゴが刻印された同モデルは、React Element 87のリリース史上、最大数のファンを虜にしたモデルともいえよう。

UNDERCOVERのキッズラインを作ることは、高橋の夢の一つであった。しかし、ブランドの生産数が限られているため、手頃な価格で提供することは困難であった。
2011年から2012年にかけて、高橋はユニクロとタッグを組んだライン「UU(ユニクロ アンダーカバー)」を手がけ、妻の璃子が「RICO」としてデザインしたキッズウェアなどを展開した。UNDERCOVERの独特の美学を手頃な価格でマーケットにもたらし、UUは国内外でヒットを記録。デザイナー高橋盾の名は、マニアの枠を超えヨーロッパでも大きく広がることとなった。

Uniqlo
Uniqlo
Uniqlo
Uniqlo
Uniqlo
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UNDERCOVER PRODUCTION

2018年9月、高橋は自身のデザイン美学を外部クライアントに届けるためのクリエイティブオフィス「UNDERCOVER PRODUCTION(アンダーカバー プロダクション)」を立ち上げ、ブランドの活動範囲を拡大した。高橋の長年のクリエイティブパートナーが参画し、ビジュアル、グラフィックデザイン、映画制作、広告、イベント制作など――UNDERCOVERが28年以上にもわたって積み上げてきた集大成を提供するサービスである。

多くのファッションブランドがスタイルと音楽の結びつきを探ってきたが、高橋ほどそのつながりを深く理解しているデザイナーはいない。UNDERCOVERは、パンクの精神をウェアラブルなアイテムに変換した。彼の作品は単なる美化されたオマージュや70年代後半のタイムカプセルではなく、サブカルチャーを鮮明で現代的で、かつ完璧でスタイリッシュな姿に再構成したものである。まるでジャケットのラペルを通る安全ピンのようにパンク精神を貫き、そのレガシーに貢献してきた高橋のクリエイションは、かつて若き日の彼の背中を押してくれた、ヴィヴィアン・ウエストウッドという存在――そのすべてに直接つながっているのだ。