style
Where the runway meets the street

ファッション月間といえば洋服でもちきりの1カ月。バイヤーやセレブリティ、編集者、ファッションファンに向け、デザイナーが最新作を発表するこの時期には、普段ファッションに無頓着な人も洋服にしっかりと注目する。しかし最近では、服を使わずに逆に注目度を高めるブランドも出てきており、新たな対話を生んでいる。もしファッションが、洋服、着こなしという領域を超越し、着るのが普通である洋服をあえて着ない、ということを含むとしたらどうなるか、というテーマだ。

MIU MIU(ミュウミュウ)は宝石をあしらった下着、JW ANDERSON(JW アンダーソン)は競泳用水着のようなブリーフ、DSQUARED2(ディースクエアード)はスウェットパンツの上に下着を重ね着したコーディネイトと、下着をアウターとしてファッション化し、ボクサーパンツ一枚の姿のモデルをランウェイに送り出すラグジュアリーブランドが登場している。下半身にパンティ以外何もまとわないこうしたファッションは「ネイキッドドレッシング」と呼ばれる。

[Symone] Top STYLIST’S OWN / Cardigan, Fur SAINT LAURENT BY ANTHONY VACCARELLO / Underwear MUGLER BY CASEY CADWALLADER / Boots JIMMY CHOO
[Judes] Shirt, Tie TOMMY HILFIGER / Shirt DION LEE / Underwear AREA / Earring PANCONESI / Belt SAINT LAURENT BY ANTHONY VACCARELLO / Socks STYLIST’S OWN

セレブ達もこのトレンドに乗り気だ。2023年、モデルのケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)は、クルーネックに黒の下着とタイツという(BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)の2023年春夏コレクションでまとめた)コーディネイトで話題を呼んだ。その1年後には女優クリステン・スチュワート(Kristen Stewart)もパンツを穿かない姿で『Love Lies Bleeding』のプレミアに出席。さらにその数日後にはBRUNELLO CUCINELLI(ブルネロ クチネリ)の2024年春夏コレクションのカシミアブリーフ姿でニューヨーク市内を出歩き、ネットを騒然とさせた。

水着とて基本的にはネイキッドドレッシング同然の装いではある。しかしビーチ以外の場所での鼠径部の露出は、やはり衝撃的と受け止められて当然だ。下着は水着とは異なり根本的にプライベートなもの。生地が薄いため、5歳児に「プライベートエリア」と教える部分が見えやすい。そうした部分を公衆の面前に晒すことは、好ましくないことと見なされる。プライベートはプライベートであるべきであり、人類は性器を恥じることが「あるべき姿」となっている。諸々の現行法規もまた、こうした信条に加担している。

[Symone] Jacket CASABLANCA / Underwear, Socks BODE / Shoes YUME YUME / Glasses VAVA EYEWEAR
[Tara] Jacket, Shoes PDF CHANNEL / Micro Denim Shorts GUESS USA / Glasses OAKLEY / Jewelry SWAROVSKI

しかし現代のグローバル社会においては「プライベート」の通念が変わりつつある。そしてファッションの歴史の中では、こうした社会的道徳観の変化に伴い、下着のアウター化が着実に進行してきた。ランウェイにおけるセレブ達のネイキッドドレッシングは、歴史の反復事象の一端にほかならない。

かつては見せるものではなかったもののやがて見せるものとなった下着の初期の例として、シュミーズが挙げられる。シュミーズは、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパの女性達が下着、いわばナイトガウンとして着用していたゆったりとしたドレスだ。しかし気候の温暖なカリブ海では、薄手のドレスは当時、女性の洋服として着られていた。

18世紀頃、フランスの植民地支配者がカリブ海の現地女性の装いに倣うようになった。やがてそれがヴェルサイユ宮殿まで伝わった。この服装が物議を醸したのは、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(Elisabeth Louise Vigée Le Brun)が描いた、王妃マリー・アントワネット(Marie Antoinette)の有名な肖像画『モスリンのシュミーズ・ドレスを着た王妃マリー・アントワネット』(1783年)である。この絵の中でマリー・アントワネットは白いフリルのついたガウンを着るのみで、その上には何も羽織っていない。高位の女性のナイトガウン姿に、国民は激怒した。当時のヨーロッパ人にとって、ナイトガウンは寝室で、誰にも見られることなく着用するものだった。

下着であったものがアウターの定番となった例はシュミーズだけではない。17世紀から20世紀初頭までは、補整具であるコルセットが下着として女性に広く着用されていた(19世紀半ばから20世紀にかけては一部の男性も着用)。鯨のヒゲなどで作られた骨組みとレースで作られたコルセットを着用することで、姿勢を良く、ボディラインを滑らかに見せ、そして何より、体形を細く見せることが重視されていた。

[Tara] Top MARINE SERRE / Underwear, Headpiece MISSONI / Socks STYLIST’S OWN
[Judes] Jacket ENTIRE STUDIOS / Underwear YORI / Boots R13
[Symone] Jacket, Underwear MARC JACOBS / Socks STYLIST’S OWN / Sneakers AXEL ARIGATO

1900年代に入ると下着としての着用がほとんどされなくなったコルセットだが、20世紀後半から21世紀初頭にかけてはアウターウェアとして復活した。ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)ら先駆者、フェティッシュ文化への偏見の払拭、2001年の映画『ムーラン・ルージュ』により、トップスとしてのコルセットの人気が再燃した。

そして忘れてはならないのが、シンプルな白いTシャツだ。今やほぼ誰もが持っている(あるいは今着ているかもしれない)基本アイテムだが、もとは、海軍の制服の下に着るものとして大量生産されたもので、一枚で着るものではなかった。

第二次世界大戦後、帰国した退役軍人が、着やすく、快適だと着続けたことで人気が高まった。1950年代には、マーロン・ブランド(Marlon Brando)ジェームズ・ディーン(James Dean)といった人気俳優達がぴったりしたTシャツを着るようになり、肉体美を際立たせた。そこからTシャツは若い男達の男らしさの象徴へと変貌した。

こうした下着からアウターへの変化、進化を振り返ってみると、社会の変化に伴い、外出にふさわしい服装への考え方も変化していったという事実は明らかだ。この20年、西洋社会は、かつて着用が求められていた下着の多くを手放してきた印象がある。下着がもはや単なる実用品ではなく、場合によってはスタイル上の選択肢としても扱われるようになった。ひょっとすると数年後には、誰もがボタン留めのシャツに下着のパンツといった出で立ちでオフィス出勤をする時代が来るのかもしれない。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE13++:AIRU KUBOZUKA
発売日:2024年10月15日(火)
定価:1,650円(税込)
仕様:A4変型
※表紙・裏表紙以外の内容は同様になります。

◼︎取り扱い書店
全国書店、ネット書店、電子書店
※一部取り扱いのない店舗もございます。予めご了承ください。
※在庫の有無は、直接店舗までお問い合わせをお願いします。

購入サイトAmazonタワーレコードオンラインHMV & BOOKS onlineセブンネットショッピング