style
Where the runway meets the street

長年クリエイティブ・ディレクターを務めたピエールパオロ・ピッチョーリ(Pier Paolo Piccioli)のメゾン最後の発表となったVALENTINO(ヴァレンティノ) 2024年秋冬コレクションは、まさに最後にふさわしい仕上がりだったと思う。しかしこれは、ピッチョーリが3月22日にVALENTINOからの退任を表明してから感じたことだった。

単純にピッチョーリの最後のショーが異例だったというわけではない。それは大前提として、VALENTINOの新時代を告げる前触れかのように素晴らしかったのだ。

最も顕著に出ていた兆候は一目瞭然だった。ピッチョーリが手がけるVALENTINOはここ数年、パントン社とのデザインによる「PINK PP」をはじめ、赤の色調に満ちたコレクションを発表してきたのに対し、2024年秋冬コレクションでは、純粋な黒を基調に、 「ル ノワール(暗闇)」というタイトルにしかるべく、驚くほど物憂げになっていた。

180度変わった。しかも、この変化が非常に素晴らしかった。

先入観なしに、VALENTINO 2024年秋冬コレクションはどの定義においても最高水準だった。今思えば、VALENTINOの最高の資質と今後の可能性を示す、完璧なスタイルのバトンタッチだったのだ。

VALENTINO 2024年秋冬コレクションは、ハリのあるライン、入念な仕立て、トーン・オン・トーンの装飾で、都会的な明晰さを具現している。さらに、パテントレザーの輝き、繊細なビーズの質感など、聡明な素材選びが奥行きを生み出していた。

つくりは豪華だが派手すぎない。例えサングラスや口紅が黒で統一されていても、シルエットの流れと服の軽さが全体をコントロールし、圧倒的な漆黒に呑まれないよう、単一の色調が巧みに扱われていた。

ピッチョーリが彼の典型である色鮮やかな洋服を華美で控えめな優雅さに置き換えたことは、彼がVALENTINOのコードを熟達していることを暗示している。VALENTINOは、色に留まらず、クラフト、カット、スマートでセンシュアル、シャープさを意識している。

これはピッチョーリが去るのにこれ以上ないほど素晴らしい置き手紙だった。

ピッチョーリはおそらく、これがVALENTINOで最後の発表になることを分かっていたのだろう。彼は、3月22日にInstagramに投稿された公式のお別れの言葉でそこまで明言しなかったものの、2024年秋冬コレクションのランウェイでは、断固たるターニングポイントのようなものを感じさせた。

これまでのようにシックでありながらも、さらにクールで大胆になった。これは、VALENTINOがたゆみなく経験している生まれ変わりの全体像の一部である。キャストは既に決まっている。今度は衣装の出番だ。

誰よりも敏感な人は、2024年初頭に新たな動きの気配を感じ取ったのではないだろうか。VALENTINOがユースカルチャーの有力者達を着飾り始めたのだ。

ファッションショーのゲストには、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)、セリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)、ジェナーズ(Jenners)といった、いつもの文化的大物だけでなく、歌手のグレイシー・エイブラムス(Gracie Abrams)、ミュージシャンのキング・プリンセス(King Princess)、アスリートのリース・ジェイムズ(Reece James)、そしてゼイン(Zayn)といった影響力のある若者の数も増えていた。

VALENTINOの若き仲間達は、その永久的なエレガンスにモダンなエッジをもたらしている。これは、カルチャーの最先端を歩もうとするVALENTINOの次なるステップを静かに示唆していた。

ピッチョーリによる黒一色のランウェイショーは、何よりも明白なバトンタッチだったのだ。新生VALENTINOはこの軌跡を軸に、メゾンの次なる時代へと飛躍していくことだろう。

この最新コレクションがこれほど素晴らしいものであったなら、未来はどんなものになるのだろうか。