art

黒人初のメジャーリーガー、ジャック・ルーズベルト(Jack Roosevelt)が誕生したのは約70年前。黒人初のアメリカ大統領、バラク・オバマ(Barack Hussein Obamaが誕生したのは12年前。黒人初の編集長、エドワード・エニンフルが誕生したのは4年前。アメリカでの悲惨な事件を発端に世界各国で「Black Lives Matter」のムーブメントが過熱化したのは1年前の出来事だ。この1世紀が成し遂げたことは大きいが、アフリカでの奴隷貿易が始まったのが16世紀後半の大航海時代、400年以上も前という事実を鑑みると、その重みは計りしれない。

アフリカにルーツを持つ人種の黒い肌には、塗りつぶせないほど多くの歴史と感情、自由への希望が刻まれている。ゴスペルやソウルなどの音楽やジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)のアート、日本を背負って戦う大坂なおみなど、ブラックカルチャーやブラックピープルから数々の恩恵を受けている私たちは、私たちにとって都合のいいことだけではなく、国際社会の一員として、その全てを見据える責任があるのではないだろうか。

情緒的、ときに脆弱なモチーフで描かれた黒人の肖像を描くのは、ラゴスを拠点とする新進気鋭のアーティスト、ワハブ・サヒード(Wahab Saheed)。木炭の濃淡で表現される黒の多様さと、写実的且つ抽象的な表現の幅が、人間の存在を象る声となり訴えかけてくる。自由を求め、自由を賛美する歌となって。

「20世紀初頭から長い歴史を持つコンゴの『サプール』に代表されるように、近年のアフリカには、ヴィヴィッドなカラーの衣装を時にはリメイクしながら着こなす独自のファッションカルチャーが芽生えています。サヒードの作品は、そうした新しいアフリカの若者像が力強く描かれています。アフリカの現代アートは日本ではあまり馴染みがありませんが、そうしたアーティストを紹介することはアートに限らずカルチャー的な視点で非常に興味深いプロジェクトだと考えました」―NANZUKA GALLERY

ワハブ・サヒード(Wahab Saheed)
1998年ラゴス生まれ。2016年にYaba工科大学にて国家ディプロマ(一般芸術)、2019年に高等国家 ディプロマ(絵画)を取得。
Alibaba Drawing Competition 2020に参加、受賞。