広告枠を持たずにワールドカップを制覇した、ブランドの戦略。
リーバイス・スタジアムという名でありながら、ワールドカップ期間中、Levi’s(リーバイス)はスタジアムから姿を消した。これはFIFA(国際サッカー連盟)による指示であり、彼らはその厳格な広告規制に基づいて、スタジアムの名称すらも一時的に変更してしまった。しかし、Levi’sはこの状況を逆手に取り、本来は参加が許可されていない大会を、自らの舞台へと昇華したブランドのひとつとなった。
ワールドカップの主催者が掲げる “クリーン・スタジアム” の方針は、極めて厳格に運用されている。スタジアム内のレストランにあるケチャップボトルに貼られたHeintz(ハインツ)のロゴにテープを貼ったり、選手達にはヘッドホンのBeats(ビーツ)のロゴを隠すよう強制する。そして何よりも、リーバイス・スタジアムからLevi’sの文字を排除することを、少なくとも彼らは目論んでいたのだ。
しかしわざわざLevi’sの文字を目にしなくとも、それがLevi’sのロゴであることは一目でわかる。だからこそ、150年以上の歴史を誇るこのデニム界の王が、自社スタジアムのロゴを白いシートで覆い隠されたところで、その正体を誰もがすぐに理解できたのだ。
そして、Levi’sもそれを知っていた。
Levi’sはすぐさま、シートで覆われたスタジアムのロゴ映像に当時トレンドだった『nobody’s gonna know』の音源を載せて動画を投稿した。これが瞬く間に拡散され、現時点で7,000万回再生、いいね!数は200万件近くに達している。さらにLevi’sは、SNSのプロフィール画像までこの “覆面ロゴ” に変更し、思わぬ無料広告の機会をこれ以上ないほど自らのものにしたのだ。
続いて、Beats by Dre(ビーツ・バイ・ドレー)も同様の仕掛けを行った。彼らは未発売のヘッドホンを、ワールドカップの試合前に着用してもらおうとサッカー選手達に送った。しかしFIFAは、ドイツがキュラソーに7対1で勝利した試合前、ジャマル・ムシアラ(Jamal Musiala)に対し、ヘッドホンのBeats by Dreのロゴをテープで覆うよう命じた。しかし、Apple傘下である彼らはめげることなく、ムシアラが最新のキャンペーン撮影で着用したヘッドホンに合わせて、白いテープで覆われたロゴ画像を直ちにInstagramのプロフィール写真に差し替えた。
言うまでもなく、FIFAの作戦は失敗に終わった。少なくとも、当初の計画通りには行っていない。
ところで、LinkedInのタイムラインをスクロールしたことがある人なら、この話に聞き覚えがあるのではないだろうか。オリンピックが開催されるたびにLinkedInに生息する意識の高い業界人達がこぞって得意げに語るのが、Nike(ナイキ)が展開してきた一連のゲリラマーケティングだ。競合他社が公式スポンサーになるために数億を投じる一方で、Nikeは巧妙なアイデアひとつで、意図せずとも全ての話題をかっさらっていく。例えば2012年のロンドンオリンピック当時、Nikeは公式スポンサーではなかったため、広告内で開催都市であるロンドンの名前を使うことすら許されなかった。そこで彼らは、オハイオ州からジャマイカに至るまで、世界中の「ロンドン」という名のつく別の街でプロモーション映像を撮影した。その結果、多くの注目を集めることに成功したのだ。
現在のLevi’sやBeatsの立ち回りは、まさに当時のNikeがやってのけたことそのものだ。確かに彼らは、FIFAの公式パートナーになるために巨額の資金を投じたわけではないが、それが全てではないのだ。彼らにはほかのブランドにはないもの、つまり創造的なアイデアという武器があるのだ。
- Words: Tom Barker