2000年代初頭、自らを “北野武マニア” と称していた山本耀司は、やがて北野にとって最も近しいコラボレーターの一人となった。

とは言え、その接点は1980年代にまで遡る。それは山本が北野のタフなキャラクターに着想を得た、洗練されたオールブラックスタイルをまとい始めた頃だ。ただし、両者の関係が明確になったのは、北野にとって初の海外長編映画『ブラザー』で、山本がギャングの衣装を手がけたときだった。

その後も山本は北野のヤクザ映画数本の衣装を担当したが、それらやそのほかのいくつかの作品を除いて以降10年以上にわたり、映画の衣装制作からは距離を置いている。2010年に出版された山本の回顧録『MY DEAR BOMB』には、その理由について触れられている。「実際に手がけた経験はあるものの、ファッションデザイナーが映画の衣装を担当することには、いまだに強い疑問を感じています。どこまで踏み込むべきか、その線引きが本当に難しいのです」。さらに「私が最も好きな北野作品は、むしろ自分が衣装を手がけていない作品なのです」と山本は付け加えている。

それでも、『ブラザー』での経験は、82歳となった山本耀司の心に今も深く刻まれている。

ブランドの核となるメンズラインYohji Yamamoto POUR HOMME(ヨウジヤマモト プールオム)は、2026年春夏カプセルコレクションにおいて、『ブラザー』のテーラリングを参照している。しかしブランドが示すように、今回のスーツは単なるリメイクではない。

© Yohji Yamamoto Pour Homme

『ブラザー』の主人公は偶然にも “山本” という名前で、北野(脚本・監督・編集も務めた)自身が演じている。その彼が1990年代後半のロサンゼルスに現れるときにまとっているのは、ダークネイビーの肩幅が広くゆったりとしたYohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)のブレザーに、スプレッドカラーのシャツを合わせたスタイルだ。やがて物語の終盤には、山本率いるロサンゼルスのギャングたちも、その装いを真似るようになっていく。

このシルエットは、Yohji Yamamoto POUR HOMMEの流れるようなブラックスーツにも引き継がれている。ブレザーのラペルには『ブラザー』に登場するものと同様のプリントが施され、襟を開けたシャツには、同様に色鮮やかな花柄や、うねる蛇のモチーフが、派手なネクタイと組み合わされている。さらに山本は『ブラザー』制作時にボリュームのあるシルバーのネックレスやリング、そしてブレスレットを手がける際、CHROME HEARTS(クロムハーツ)のバイカージュエリーから着想を得ていたとされているが、それらのアイテムもまた、今回のコレクションで再び登場している。

『ブラザー』のジュエリーはその後、同ブランドのシルバーアクセサリーラインであるGOTHIC YOHJI YAMAMOTO(ゴシック ヨウジヤマモト)にも影響を与えている。

3月25日に発表されたこのコレクションは、山本の輝かしいキャリアの中でも見過ごされがちな一章を掘り下げたものとなっている。実際、その内容は原作の枠に留まらない。スーツのシルエットは『ブラザー』に登場するものを踏襲しつつ、シャツに関して言えば、作中にこれほどまでにバロック調の装飾は見られなかったからだ。