知る人ぞ知るASICSアーカイブの全て
ASICS(アシックス)アーカイブには、1949年の鬼塚株式会社設立から現在に至るまで、ASICSが誕生させた重要なプロダクトやイノベーションが詰め込まれている。兵庫県神戸市にあるASICSグローバル本社内に設けられたこのアーカイブを監修するのは、GEL-KAYANOシリーズでお馴染みの元ASICSデザイナー、榧野俊一を含む専任キュレーター達。
オリンピックでも履かれていたスパイクシューズや南極観測隊用に作られたブーツ、元F1レーサーのマリオ・アンドレッティ(MARIO ANDRETTI)が着用したドライビングシューズ、日本人宇宙飛行士の足に合わせて足袋風にデザインされ、実際に宇宙で着用されたシューズなど沢山のアーカイブ達が保管されている。
今はなきゴールドタイガー、シルバータイガーレーベルのレアアイテムなどは勿論、繊細で劣化しやすいプロダクトは、湿度を50%に保った特注の気密性保管庫に収められている。各地に点在していたアイテムを約二年前に収集し完成させたアーカイブ。現在は体操、野球、ラグビー(ソ連の長袖ジャージ)、狩猟、ゴルフ、スキー、テニス、サッカー(ASICSが手掛けたイタリア セリエAのジャージ)など様々なスポーツウェア、関連用品、アクセサリー、パンフレット、広告など実に幅広いアイテム達が並んでいる。
館内を案内してくれたキュレーターの福井良守が、貴重なアイテムについて説明してくれた。「ASICSは長年の間、こうしたプロダクトを全て保管してきました。オリンピックやマラソンの大会で着用されたシューズも沢山残っています」。1964年の東京オリンピックの男子マラソンで銅メダルを獲得した円谷幸吉選手からASICSに寄贈されたというシューズも見せてくれた。
このアーカイブには、最新のASICSプロダクトに生かすべきヒントを求めてASICSのデザイナー陣がほぼ毎日訪れているそう。ASICSフューチャーチームと名付けられた部署で働く前川裕介もその一人だ。2019年向けに応用出来そうなグラフィック、ロゴ、プリント技術がないか昔のプロダクトカタログを見に来たという前川。「ASICSにとって、ブランドのルーツは一番大切です。アーカイブに保管されているアイテムはとても古いので、逆に新しく見えたりもするんです」と話してくれた。
ASICSとコラボレーションしているデザイナー達もここへ足を運ぶそうで、新進気鋭のデザイナー、キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)もデザインチームとのコンサルティングで二度訪れたと言う。
幅広いアイテムがあるとはいえ、まだこのアーカイブには全てが揃っている訳ではない。福井がASICSのスニーカー史に残るシューズのレプリカを案内してくれた。1964年、NIKE(ナイキ)の共同創業者のビル・バウワーマン(BILL BOWERMAN)は、ASICSの前身であったオニツカの販売代理店としてブルー・リボン・スポーツを設立した。バウワーマンがコーチを務めるランナーのケニー・ムーア(KENNY MOORE)が、1965年Onitsuka TigerのTG-22を着用し走行中に足を骨折したことがきっかけで、ビルはクッション性を高めた新しいシューズを提案した。
そして、オニツカとの数度のデザイン交渉を経て誕生したのがCORTEZ(コルテッツ)だ。ASICSでは現在、Onitsuka Tiger CORTEZのレプリカを一足だけ保有している。
福井が見せてくれたブルー・リボン・スポーツの1971年~72年のカタログにはやCORTEZ OGなどのモデルが掲載されていた。やがてブルー・リボン・スポーツとオニツカの関係は希薄化し、NIKEは1972年にオニツカタイガーストライプをスウッシュに替え、NIKEブランドのCORTEZを発売した。ASICSもOnitsuka Tigerレトロシリーズで、ASICSバージョンのCORTEZを出し続けているが、名前はTIGER CORSAIR(タイガーコルセア)に変えている。
ASICSのアーカイブには歴代のGEL LYTE、GEL-KAYANO、GTシリーズなどは勿論、その他ヴィンテージランニングシューズや知名度の低いモデルなども揃っている。ASICSは、1990年~95年にかけてLA GEAR(エルエーギア)、1976年~80年代後半にかけてはMONCLER(モンクレール)などのアパレルブランドの販売ライセンスを持っていた。当時の名残として、ヴィンテージのGORE-TEX(ゴアテックス)タグの付いたMONCLERのジャケットなどのレアアイテムがアパレルアーカイブに一部収められている。
ASICSには個人のコレクター達から頻繁にアイテムの寄贈オファーが寄せられているが、取引条件や、寄贈者名の扱いを正しく取り決めることが困難になることがある為、ASICS側がオファーを断ることが多い。アーカイブへの訪問は個別の約束に応じての受け入れのみとなっているが、2020年の東京オリンピックの会期中には注目アイテムを一般に公開する展覧会の開催が予定されている。
- Original Words: Chris Danforth