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Where the runway meets the street

私たちはアスリートに、謂れのない聖人君子的な都合のいいイメージを持ちがちだ。神格化されすぎたイメージはときに、社会の闇を引きずり出す。いち人間を陥れることもあるということを忘れて。「アスリートは化粧をするな」「ファッションに現を抜かさず練習をしろ、結果を出せないのなら」。競技以外の趣味すらも社会から奪われ、自分を押し殺すアスリートも少なくないだろう。それでも自分は自分だと、これまでのアスリート像を払拭するかのように、発信を続けるアスリートが増えてきた。その一人が、北京で行われた国際大会のスキージャンプで結果を出し、SNSを通してスポーツやそれ以外の趣味など、ありのままを発信するアスリート、小林陵侑だ。ヒップホップが好きだ。ファッションが好きだ。それらに通じるパンクな心意気や自由なパーソナリティが、アスリートの境界線を軽々と飛び越えていく。

 

——スキージャンプにのめり込んでいったのはいつ頃ですか?

本格的にやり始めたのは小学校高学年ぐらいからです。

——アスリートとしてやっていきたいと思ったきっかけはありますか?

きっかけはただただ勉強が嫌いで。遠征に行けば勉強しなくていいし、 それで社会人になれたらと思っていました。そう思い始めたのは中学生ぐらいからです。岩手県でいろいろな競技の方々が集まって能力開発的なものをやって、将来のアスリートを育てるプロジェクト「いわてスーパーキッズ」 というものがあります。その体力テストで選ばれました。

——アスリートとしての自覚、あるいはアスリートとして覚醒したターニングポイントを教えてください。

自分が変わったなと思ったのは、1回目のオリンピックが終わったオフシーズンです。すごい調子が良かったのですが、表彰台に絡むような実績が残せなかったのがすごい悔しくて。オフシーズンだったのですが、ビデオを観ていてここが下手だったのかと思って、その夏から取り組んでみて、すぐに改善できたことです。

——自分を客観的に見られるようになったという感じですか?  

そうですね。客観的にというのは結構大事かなと思います。

——精神的な変化とかはありますか? 結果が出せないという悔しい思いをしたときに、どのように向き合ったのか、とか。

前々シーズンは辛かったのですが、気持ちの変化は確かに影響します。メンタル競技なので余裕がないときは落ちちゃいますし、イメージも湧かないです。でも、どれだけ自分が調子悪くても飛んでいく人は飛んでいくし、試合が中止になるわけじゃないので。

——アスリートとして学んだことはありますか?

練習はちゃんとやりましょう、ですね。当たり前のことが重要。

——座右の銘や大切にしている言葉はありますか?

意外とその……なくて……。音楽の歌詞とか。ヒップホップやラップを聴いています。移動中もずっとリリックを見ながら聴いて影響を受けていますね。攻撃的なものも好きですけど、ポジティブメッセージを発する人が多いと思います。

 

——スキージャンプ、またはウインタースポーツ全体において課題はあると感じますか?

感じますね。例えばボクシングはみんなで盛り上げてネット放送や、地上波でも放送されています。そういう社会的に資本のある団体と絡んで一緒に上がっていくという流れなのですが、スキーにおいてはもっと頑張らないといけないと思っています。

——マイナースポーツの位置付けになってしまっているから競争率も下がり、いい選手と切磋琢磨できない環境になってしまう問題もあると?

日本では確かにマイナースポーツです。でも、こうやって頑張って成績を出したので、アルペンのほうが偉いとか、そういう小さな世界で格差をつけたりしないで、(団体のほうにも)エンターテインメントとして引っ張っていってほしいです。

——スポーツのために勇気を出してはっきりと発信しているところが素晴らしいと思います。以前プロサーファーの方にインタビューした時も、アスリートの力だけではどうしようもない、もっと社会が、団体が、スポンサーがつくる環境も重要だと。

スポーツをさせる基盤作りが日本は遅れています。国が支えてくれないです。メダルを獲っている競技からでもいいから環境を整えなきゃ伸びないですよね。

——長野オリンピックの時は日本人選手がたくさんメダルを獲ったし、日本のウインタースポーツはメジャーなイメージを持っていたので、いまだにそうなんだと驚きです。

野球とかサッカーはみんなが道具を買ってスポーツが盛り上がる。1,000 円ぐらいのボールから始められるじゃないですか。

——アスリート用の技術をライフスタイルに落とし込んだ機能的なライフスタイルアイテムも出ていますよね。

そうですね。でもジャンプの場合は特殊すぎて生かしようがないんじゃないのかな。ジャンプスーツでベストとか作ってみたら面白そう。いらなくなったスーツの腕部分を切ってたまに何か作ったりします。

——そうすればMIZUNOさん以外にも他のブランドが作り始め、アスリートの支援もスーツも進化していきますかね?

進化はどうですかね。生地の量とか質とか細かいルールがあるのですが、それをちゃんとクリアできて、いい生地を国内でも作れるようになったらまた流れは変わると思います。生地は国内で作っていなくてヨーロッパから買っています。ヨーロッパは自国の選手に最新の生地を提供していると思います。ヨーロッパはジャンプが人気競技だから大会でお客さんがすごい入ります。

——メディアでの告知や取り上げる量にも関係していそうですね。

そこが日本なんですよ。取り上げられても札幌市だけとか。もうちょっと上手い見せ方があると思うのですが。お客さんに来てほしいです。

——今はどのくらいですか?

500人いたらいい方だと思います。一番盛り上がるUHBで1000人くらいかな。めっちゃ少ないです。ヨーロッパは3万人入りますからね。5万人のときも。

——観客が来ないとスポンサーも付きづらいですよね。

そうですね。お客さんが来てくれる、お店も盛り上がる、スポンサーもつく、好循環にもっていかないと。札幌オリンピックがあるので、そこに向けてもっと盛り上げないとというのはありますね。自分も頑張るという意味で、そういうエンタメのひとつとして始めたのがYouTubeです。

——YouTubeではありのままを見せていますよね。スニーカーコレクションも紹介されていてファッションもお好きなんだなと思いました。いつ頃からファッションに興味を持ち始めましたか?

あまり人と同じものを持ちたくなかったのは小中学校の頃だったかもしれないですけど、自分で服を選んで買うようになったのは社会人になってからです。自分で稼げるようになってから。ネットも多いですが東京でぷらっと歩いて見つけたりが多いです。

——今回はDIORを着用しての撮影でした。DIORをいくつか持っているとお聞きしたのですが。

ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)とのコラボジャケットをミラノの思い出に買いました。

——DIORの印象は? 初めて買ったアイテムは?

憧れのブランドでした。トートバッグに刺しゅうが入れられるのを見て、かっこいいと思って僕が世界チャンピオンになった翌年にご褒美で買いました。今日も持ってきています。

——ファッションで大切にしていることはありますか?

いろいろなものを着ます。大切にしていることは自分が好きなものを着ることですね。

——先ほど話していたラップミュージックからの影響もありますか?

めちゃめちゃあると思います。ストリートラグジュアリーという感じですね。

——競技以外の趣味であるラップミュージックやファッションが、アスリートとしての自分にどういう影響を与えていると思いますか?

僕は結構メンタルやられたときとか、これから頑張ろうというときは音楽に支えられた部分があります。服が好きだと、服好きな人たちも応援してくれるとか、多趣味で良かったなと思いました。

 

——アスリートは練習頑張れよとか、メイクをしてる場合じゃないとか、社会の目があると思うのですが、そういう視線を感じたことはありますか?

ありますね。多分今まさに練習しろよって思われていると思います。 趣味が本業を頑張っていないことにはならないと思いますが。 気にしていませんが、そういう、アスリートだからどうとか会社員だから どうとかというのは、おそらくなくならないとは思います。なんでですかね。 難しいですよね。 ずっと練習ばかりしてればいい結果が出るわけじゃないですからね。いろいろな準備、メンタルの部分もコンディションの部分も。競技以外のところで心が豊かになる部分や、刺激を受ける部分って多いと思います。

——それが競技における重要なメンタルヘルスにつながるということですね?

そうですね。モチベーションにもつながると思います。YouTubeに関してはまさに、オリンピックを前に競技以外のことを始めたのが良くて、金メダルという結果につながっているという事例としてはいいことだと思います。競技だけに集中しすぎると良くない。(高梨)沙羅は化粧のことを言われていたじゃないですか。

——本当にひどいと思いました。YouTubeを金メダルを獲る前に始められていて、それはもちろんスキーをメジャー競技にしていきたいという気持ちもあったと思うのですが、そのほかにも理由はあったんですか?

一番はメダルを獲れたとしてもすぐに「あっ、獲ったんだ」で終わるけど、 YouTubeのバックグラウンドがあれば親しみやすいというか、入ってきやすいと思って始めました。結果も出すという自信もありました。よく考えるとそんなに簡単な話じゃないですよね。8 年前に沙羅が18 試合あって17回表彰台に登っているのにその1回だけ表彰台に上がれなかったのがソチのオリンピック。どれだけ世界ランキング1位だとしても金メダルを獲れるわけじゃない。そこで、練習を飛ばない決断をして本番にぶつけて一番いいジャンプを飛べて。ただ集中すればいいだけじゃなく、自分のペースを守ることだったりを実践していると思います。自分の目標に向かって周りが何を言おうが、自分の軸をぶらさずに、良いと思うことをやり続ける。

——これからメディアにも取り上げられて小林陵侑が認知されていきます。そこに対するプレッシャーはあまり感じていませんか?

流石に国内トップ10入れなくなったらやばいなと思いますけど、意外と僕自身そういう競技だと割り切っているので、結果が出なくても応援してくれる人が増えればいいなと思います。

——今日お話ししてみて、反骨精神というか、ラップから影響されているパーソナリティが見えたのは少し意外で面白いと思いました。正直、アスリート一家で育ってジャンプを極めて、メダルを獲った時のビッグスマイルで…… 聖人君子的なアスリート像が刷り込まれていたのかもしれません。 最後に今後のアスリートとしての目標や人生の夢について教えてください。

最多勝まで頑張りたいです。53~4勝かそこらへんかな。あとは、札幌オリンピックがもしかしたらあるので、そこで活躍できれば一番いいですね。その頃は33歳かな。メンタル的には熟しているはず。逆にいろいろのしかかってきて汗汗しているかも。いろいろな大人の事情が分かっちゃって。

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