style
UNIQLOが “反ファストファッション” である理由

©︎UNIQLO
『メリアム・ウェブスター』で “fast fashion” という用語を引くと「トレンドに乗っていられるだけ『速く安く』生産された衣服」とあるが、この言葉は、ファッション業界の抱えるあらゆる問題を端的に表現するものとしても使われている。使い捨て衣類の大量生産という破壊行為の包括的表現であり、倫理的にグレーゾーンなものだと多くの消費者が理解している。「ファストファッションと言うと、店舗商品の入れ替わりの速さや、コンセプトから販売までにかかる時間の短さのことが常に語られる。生産期間が短いことから、低品質、あるいは使い捨ての衣類と思われがちだが、必ずしもそうとは限らない」と、南メソジスト大学ファッションメディア学部長のマイルス・イーサン・ラスシティ(Myles Ethan Lascity)は語る。
こうした点を踏まえると、ファストファッションが疎まれながらにして買われている理由、ファストファッションではないにもかかわらずそのレッテルを貼られるブランドがある一方、負のイメージからの脱却に成功しているファストファッションブランドも存在する理由が見えてくる。そんな複雑な二面性を語るのに最もふさわしいのがUNIQLO(ユニクロ)だ。手頃な基本アイテム、数々の提携アイテム、季節ごとのコレクション、世界の大都市の目抜き通りで買い物客を熱狂させる話題の新商品を提供しながら、クールさを保っているUNIQLOは、確実にファストファッションではありながらにして「ファッション」ブランドと言える。

その話題性はほかに類を見ず、一見シンプルな商品で常にTikTokを独占し「お手頃価格」や「天然繊維の衣類」の好例として賞賛されている。アンチファストファッションのZ世代に対し、いくつものブランドがファストファッションではないとアピールしながらも失敗している一方、UNIQLOには彼らが大挙して押し寄せている。同社幹部が2024年初め、述べたところによるとUNIQLOの2023年の売り上げの3分の1以上は29歳以下の女性によるものであったという。「UNIQLOはファストファッションに分類されがちだがそれは全く違う」とラスシティ。「UNIQLOには、全ての商品がそうだとは言わないが、また買いに行きたくなるような商品がある。そこがほかのファストファッションブランドとの違いだ」
柳井正CEOも、UNIQLOがほかに類を見ないのはUNIQLOがファストファッションではないからだと述べている。「我々はトレンドを追いかけてはいない」と同氏は2012年に語っている。「UNIQLOがファストファッションブランドだというのは誤解であって、実際にはそうではない」と。確かに、UNIQLOはランウェイから着想を得ているわけでも、SHEIN(シーイン)のように倫理的に問題のあるスピードで商品を販売しているわけでもない。しかし「100万単位」の大量生産を行い、衣類を季節ごとに低価格で提供している。UNIQLOは、派手な柄や一過性の「~風」を取り入れるのではなく、ゆったり目のパンツや、ややボックス型のセーターなど、現代の好みに合ったカットをさりげなく採用する形でトレンドを取り入れている。ある市場アナリストがUNIQLOを「『ダイエット』ファストファッションブランド」と述べていたが、まさにそんなところだ。




LifeWear Magazine
©︎UNIQLO
「競合とは違い、UNIQLOは短いサイクルでトレンドが入れ替わるマイクロファッションではなく、長く受け入れられる『定番』に注力している」と、インド経営大学院ランチ校の博士、シュブ・マジュムダール(Shubh Majumdarr)は言う。「UNIQLOは、手頃な価格、高度なサプライチェーン、グローバルな規模という、ファストファッション業界との共通点を持ってはいるが、そのビジネスモデルは典型的ファストファッションと完全に同じではない。UNIQLOは、高級ブランドとファストファッションの両方の利点を兼ね備えたカジュアル寄りの衣料ブランドだと考えている」
ではUNIQLOの違いとは具体的に何なのか? それは、独自性、ハイセンスなコラボレーション、アート界との繋がり、根気強いマーケティング、そして感覚的質といった断片を丹念な計算の上に繋ぎ合わせている点だ。

©︎UNIQLO
例えばUNIQLOはアメリカ中西部のショッピングモールには出店をしていない。1940年代後半に日本で創業して以来、北米では72店舗(米国53店舗、カナダ19店舗)しか展開していない。米国だけで数百店舗を展開する競合ブランドとは対照的だ。そのため、いたるところにある競合ブランドと比較すると入手がはるかに難しく、店舗に行くこと(並びに購入した衣類)がラグジュアリーに感じられる。
それを裏付けるかのように、UNIQLOは、その規模のファストファッションブランドとしては唯一、高名なハイファッションデザイナーと真のパートナーシップを結んでいる。例えば、アート系映画『チャレンジャーズ』にUNIQLOのスポーツウェアを着たロジャー・フェデラー(Roger Federer)を出演させたLOEWE(ロエベ)のクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、2017年からUNIQLOのコレクションを手がけている。またモデストラグジュアリーに精通したクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)は2016年にUNIQLOに入社し(その二年後、UNIQLOはLEMAIRE(ルメール)に投資)以来UNIQLO Uを監修している。Chloé(クロエ)とGIVENCHY(ジバンシィ)で高い評価を得たクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)も、2023年にUNIQLO専属ラインを手がけ、2024年9月にUNIQLO総合クリエイティブディレクターに就任した。


UNQILO x KAWS x Warhol
©︎HIGHSNOBIETY
「確かにファッションブランドではあれ、必ずしも誰もが知っているというわけではないブランドとのコラボレーションであることが継続の秘訣なのだと思う」とラスシティ。「長期的関係が構築されることで、消費者はUNIQLOを、店頭に何があるか分からないファストファッションの小売業者ではなく、デザイナーとのディフュージョンラインの見つけられる信頼のおける場所と捉えるようになる。それを他社との差別化戦略としているのだろう」
そしてUNIQLOにはアート界との繋がりもある。これまでKAWS(カウズ)、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)、そしてアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)やロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、ジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)の遺産管理団体などにラブコールを送ってきた。(少なくとも流行に敏感な層の間で)名の知れたアーティストであれば一枚は、自らの名前のプリントされた、日常着として十分に上品なUNIQLOの無地の単色プリントTシャツを持っているのではないだろうか。しかし、UNIQLOは一方でディズニーやスタジオジブリ、少年ジャンプのようなフランチャイズメーカーに象徴される大衆娯楽とも自然に溶け込んでいる。ほかの「ファストファッション」ブランドも同様に国際的出版社とコラボレーションを行っているが、一貫して大人のための高品質な商品作りを目的としたコラボレーションを行っているのはUNIQLOだけだ。

©︎UNIQLO
それにより「実際そうであるか否かに関わらず、上質に見える」というUNIQLOの魅力が発揮されるようになる。「生地の革新や顧客からのフィードバックを取り入れることで、快適性と実用性に優れ、長持ちする製品が作られている」とマジュムダール。革新に支えられた信頼性の高い独自素材の例として東レ株式会社を始めとする長期的協力メーカーとの共同開発によるヒートテック(繊維間の空気の層に熱を溜め保温性を高める素材)やエアリズム(通気性向上素材)などを挙げた。長く着られるため、買う側が「良いものにはお金がかかる」とだけ感じることもない。
ファッション業界も出版業界も表面的に判断されがちだ。しかし、このような表面的な評価はUNIQLOにとって有利に働く。例えば2024年2月ポッドキャスト「StreetCents」では、ファストファッションとしてのUNIQLOの地位についての議論があったが、UNIQLOのファストファッションとしての度合いは「かもしれない」程度だとの判断が下されていた。「ZARA(ザラ)やSHEINのように」トレンドを追いかけるのではなく、「もう少し長持ちする」「クラシックなベーシック」を提供しているからという理由だ。同じ意見が別のクリエイターのTikTok動画にも見受けられる。そのTikTok動画には、「品質が良いのでお金を払う価値がある」というコメントも寄せられていた。ただ、ここでの「品質」の判断基準は完全に理解できるものではない。生地の原産地や縫製の安定性、1平方メートルあたりのグラム数(GSM)などをもとに評価がなされているわけではないためだ。時代を超越したアイテム、丈夫に見える定番商品から「UNIQLOは良さそう」という印象が生まれる。多くの消費者が、UNIQLO商品の持ちの良さを質の証拠として挙げている。


©︎UNIQLO
「質の良い衣類と言えば一般に、長年繰り返し着ても長持ちする衣類のことを言う。形が崩れたり、毛羽立ったり、破けたり、着古して見えたりしないものが理想」とラスシティ。「私はデザイナーでも修復家でもないので、UNIQLOの品質が競合よりも良いと断言することはできないが、例えばUNIQLOのグラフィックTシャツなどを見ると、厚手の素材が使用されていることから、理論的には、品質がやや良く、長持ちする可能性も高いことになる」
品質に加え、UNIQLOの永続的な魅力は、控えめな衣類の控えめな在処という慎重な立ち位置によるところも大きい。2011年にUNIQLOの熱心なファンとしてデビッド・チャン(David Chung)、ジョン・レグイザモ(John Leguizamo)とスーザン・サランドン(Susan Sarandon)を起用したキャンペーンは、UNIQLOのリアルクローズを心底気に入った人が自らの意思でUNIQLOを宣伝するストーリー立てとなっていた(もちろん実際には出演者に報酬は発生しているが)。このマーケティング手法は特に最近のロジャー・フェデラーのキャンペーンで世界展開されている。

©︎UNIQLO
こうしてファストファッションの対極ブランドとして成功を収めているUNIQLOだが、依然としてファストファッションの特性も数多く見られる。例えば、大量の低価格な季節限定衣料を生産しており、一商品あたりの生産数が「100万単位」に上ることもある。店舗は広大で、リネンジャケットやコーデュロイパンツなどの季節商品から、靴下や下着などの定番商品まで、数百品目が所狭しと並べられている。少し掘り下げてみると懸念に値すると思われる慣行が散見する。実際に問題であると立証できる問題もあれば、エピソード程度の問題もあるが、イメージを損なうほど具体的なものはない。
UNIQLOに関してはファストファッションであるかどうか疑問の余地があるが、姉妹ブランドのGU(ジーユー)は全く疑いの余地のないファストファッションだ。2024年、ファーストリテイリングは、より安価なファストファッションを求める欧米の若い消費者層をターゲットとしたGUで海外展開を開始した。50ドルのUNIQLOのウールのセーターと比べた30ドルのGUの無機質なプルオーバー。大人の買い物客にとっては些細な差だが、若い消費者にとってははるかに合理的な提案である。「100%ウール」が必ずしも「100%の品質、倫理的な調達と製造によるウール」を意味するわけではないことはさておき、UNIQLOは、名前に「ファスト」の入った親会社がトレンディな商品で利益を上げる中、落ち着いた品質のオーラを維持することができている。

©︎UNIQLO
これらは全て、Google検索ですぐに確認できる。しかしUNIQLOに対する文化的な反応としては、依然として賞賛が大きい。賞賛される理由のひとつとして、曖昧さのない表現が挙げられる。かつて安価であった商品を徐々に値上げしつつも、その点で受け入れられている。「十年以上UNIQLOを愛用しているけれど、UNIQLOのベーシックアイテムは今でもほかに並ぶものがないと思う」と、「ニッチなファッション愛好家」を自称する@ambyanceは語った。「ファストファッションかどうかはなんとも言えないな。UNIQLOの商品は安いけれどずっと着られる。Tシャツも靴下も、もう何百回も洗濯しているけれど穴ひとつ開いていないから抜群のコスパだ。でもUNIQLOをよく利用する人は、ファストファッションの根幹である季節ごとのトレンドに左右されやすくて、よく買い物をしがちだからね」
※本記事は2025年4月に発売したHIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE14++に掲載された内容です。
【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE14++:AKASAKI
発売日:2025年4月15日(火)
定価:1,650円(税込)
仕様:A4変型
◼︎取り扱い書店
全国書店、ネット書店、電子書店
※一部取り扱いのない店舗もございます。予めご了承ください。
※在庫の有無は、直接店舗までお問い合わせをお願いします。
購入サイト:Amazon、タワーレコードオンライン、HMV & BOOKS online、セブンネットショッピング
- WORDS: JAKE SILBERT
- TRANSLATION: AYAKA KADOTANI